2023年の折り返し地点に当たる7月1日の節目を迎えました。あらためて上半期の主なニュースを振り返ってみると、数ある中でネット上の反響が大きかったのは下記あたりでしょうか。
「広域強盗事件と指示役のルフィとみられる容疑者の逮捕」「回転寿司チェーンなどで迷惑行為が頻発」「WBCで日本代表の侍ジャパンが3度目の優勝」「オードリー・春日俊彰が生放送中にペンギンのいる池へ繰り返し落下」「中居正広と香取慎吾が6年ぶりに番組で共演」「ジャニーズ事務所の性加害騒動」「市川猿之助容疑者の一家心中事件」「中田敦彦がYouTubeチャンネルで松本人志批判」「広末涼子と料理人の不倫騒動」
なかでも上半期最後の約1カ月間、最大の話題となっていたのは、広末涼子さんの不倫騒動。6月7日に週刊文春が料理人・鳥羽周作さんとのダブル不倫を報じてから3週間が過ぎた今なお新たなネット記事がアップされ、SNSにはコメントが書き込まれています。
すでに広末さんは無期限謹慎しているにもかかわらず、収束に向かう気配はありません。なぜ彼女はこれほどの注目を集め続けるのか。今後、芸能活動はどうなっていくのか。ここでは不倫を断罪するのでも、実績や美貌などを称えるのでもなく、フラットな立場から「注目を集め続ける芸能人・広末涼子」の本質を読み解いていきます。
広末の不倫は「ひさびさの大ネタ」
今回の不倫騒動がこれほど長い期間フィーチャーされているのは、「当事者が広末さんだから」であることに異論を挟む人はいないでしょう。「否定した翌週に認めて謝罪」、さらに「赤裸々な交換日記が公開される」という人々の興味を引くトピックスこそあったものの、多くのメディアと人々が発信しているのは、「騒動の中心に広末さんがいる」から。
1990年代後半に“ヒロスエブーム”を起こした輝かしい過去を持つほか、今春も朝ドラ「らんまん」(NHK)で主人公の母親を演じた女優業は順調そのもの。さらに昨年、「ベストマザー賞」(芸能部門)を受賞したようにママタレや、42歳とは思えない美魔女としてフィーチャーされる機会も多く、幅広い年齢層から認知されていました。
今回の騒動では、不倫相手の料理人・鳥羽周作さんの仕事が次々にキャンセルされたほか、料理動画、監修メニュー、飲食店のプロデュースなどにも批判が集まっています。さらに、夫のキャンドル・ジュンさんにも暴行や不倫の疑惑が報じられるなど、大きなダメージを受けてしまいました。もし彼らが広末さんの夫や不倫相手でなければ、過去や現在に対してこれほどネガティブな影響が出ることはなかったでしょう。
芸能人がSNSでファンとやり取りするのが当たり前になり、「会いに行けるアイドル」が人気になったころから、業界内では「芸能人が身近な存在になり、大物がいなくなった」と言われていました。週刊誌やネットメディアの現場でも、「スキャンダルを報じても大きな反響を得られそうな芸能人が少ない」と言われ続けていただけに、広末さんの不倫騒動は「ひさびさの大ネタ」として扱われているのです。
また、最近は不倫騒動でも、よほど優等生のイメージで活動していた芸能人ではなく、その内容が下劣なものでなければ、「瞬間風速的に断罪されておしまい」というムードがありました。
その点、広末さんは独身時代からたびたび恋愛や夜遊び、撮影現場での奇行などが報じられた奔放なタイプの芸能人。「歌手業と大学をやめて女優業に専念する」としながら、数カ月後に結婚と妊娠を発表しました。さらに離婚の2年後に再婚したときも妊娠していたなど、「ヒロインを務めた『できちゃった結婚』(フジテレビ系)と同じ」「イメージ通りで以前からずっと変わっていない」などと言われていました。
斉藤由貴はいいのに広末はダメなのか
再婚後も不倫疑惑が報じられたことがあったため、今回の不倫騒動でも「あの広末涼子さんが不倫するなんて」と思った人は少ないのではないでしょうか。つまり、業界内はもちろん世間の人々の間でも、「広末涼子は変わっていない」という見方が大勢を占めているのでしょう。
今年2月にダウンタウン・浜田雅功さんの「パパ活不倫」が報じられましたが、謹慎や降板などのネガティブな対応はなく、騒動は広がらないまま終了しました。また、28日に生放送された「テレ東音楽祭2023夏」(テレビ東京系)に、例年司会を務めていた広末さんの姿がなかった一方で、過去に3度の不倫が報じられた斉藤由貴さんが出演。ネット上には「斉藤由貴はOKなのに広末涼子はダメなのか」などの声があがっていました。
ポイントは世間の人々に、「この人はこういう人だから、まあいいか」などと印象づけられるかどうか。さらに言えば、スキャンダルを肥やしにして、本業での面白さやすごさにつなげられるかどうか。浜田さんと斉藤さんはこれができているから人々からのバッシングを受けず、仕事を失わずに済むのでしょう。
広末さんの不倫騒動が報じられたとき、昨年6月に出演した「突然ですが占ってもいいですか?」(フジテレビ系)での占いと発言が注目を集めました。占い師の星ひとみさんから、「恋に落ちると3日3晩求愛ダンスを踊るタツノオトシゴの星。とにかく2人で愛を求め合う」などと言われた広末さんは、「好きだったらもうそれでいい感じです。自分の好きなことが幸せだから。何なら別にうまくいかなくても、好きであることが楽しくて」などとコメント。ここでも「イメージ通りの広末涼子」であり、恋愛の現役でありそうなところも含めて、今回の不倫騒動につながるニュアンスがありました。
もちろん不倫が事実である限り、それなりの拒絶反応はあるでしょうし、もし略奪再婚のような形になったら、さらなる批判を受けるかもしれません。しかし、これらの風潮や反応を見る限り、広末さんは今後よほどの問題行動がなければ、すべての仕事を失うことはなさそうです。
なかでも、仕事の中心になるのは女優業。今年2月、広末さんは「2022年 第96回キネマ旬報ベスト・テン 助演女優賞」を受賞した際のスピーチで、「映画が人に勇気やパワーを与えてくれると信じて、生きている限り俳優を続けていきたいと思います」などと“生涯女優宣言”していました。
しかも、受賞理由の1つとなった映画『あちらにいる鬼』で演じたのは、奇しくも夫の不倫をとがめずに過ごす妻の役。広末さんはセリフに頼らず表情や佇まいだけで感情表現し、物言わぬ怖さを感じさせるような演技で称賛を集めました。業界内で「女優・広末涼子」の力量は世間の人々が思っている以上に評価されているのです。その演技が記憶に新しいだけに、斉藤由貴さんが不倫騒動後に悪女役のオファーが増えたような現象が広末さんにも起きるかもしれません。
スキャンダルも、女優としての成長につなげられるか
スピーチで「生きている限り」と宣言していましたが、広末さんは幼いころから女優に憧れるなど演じることへの思いが強く、ママタレントや美魔女芸能人としての出演は「制作サイドに求められて応じていただけ」というムードがありました。また、所属事務所は結婚・離婚・出産などの際も、スキャンダルの際も、つねに女優としての成長につなげてほしいというニュアンスの姿勢を見せ続けていました。
一部で「芸能界引退も視野に入れている」などの報道も見られますが、子育てはいずれ終わり、現在の恋心がいつまで続くかはわかりません。キャンドル・ジュンさんが会見で広末さんのことを「心が不安定だった」「過度なプレッシャーや不条理なことがあると豹変する」などと語っていましたが、それすら糧にできるのが俳優の仕事です。
これまでの歩みを見ても、最近のコメントを見ても、やはり戻るべき場所は「女優・広末涼子」なのでしょう。当事者間での問題解決が前提であり、その内容によっては活動の場が映画や舞台などに限定されるリスクも考えられます。しかし、それでも不倫騒動をポジティブにとらえるとするなら、今後はより女優業に専念しやすい環境になっていくのではないでしょうか。
ただその場合は、謹慎明けに会見を開くことが求められるかもしれません。はたして広末さんは復帰に向けてどんな姿を見せ、どんな言葉を語るのか。そんな場面にすら「女優・広末涼子」の振る舞いに多くの人々が注目してしまうのでしょう。
木村 隆志(きむら たかし)Takashi Kimura
コラムニスト、人間関係コンサルタント、テレビ解説者
テレビ、ドラマ、タレントを専門テーマに、メディア出演やコラム執筆を重ねるほか、取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーとしても活動。さらに、独自のコミュニケーション理論をベースにした人間関係コンサルタントとして、1万人超の対人相談に乗っている。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』(TAC出版)など。