ここ何年かで、勢いが加速している「昭和・平成レトロ」ブーム。グルメにインテリア、音楽やファッションなどあらゆるジャンルで、懐かしさのなかにも新しさを感じさせるノスタルジックな商品の人気が高まり続けている。
ブームを支えるのは、当時を懐かしむ30~60代はもちろん、未知のアナログさに新鮮な感動を抱くZ世代、古き良き“日本らしさ”を求めるインバウンドなど多様な層だ。
そんななか、数十年にわたり愛され続ける“古き良き日用品”が脚光を浴びている。昭和生まれにとっては昔から当たり前のようにそばにある家庭用品が、令和のいま、売り上げを伸ばしているという。なかには、消滅の危機に瀕しながら息を吹き返した商品も。
レトロな日用品に隠された魅力とは─?
ツイッター開設で返り咲き
ブレイク真っ最中の“昭和の日用品”の代表的な存在が『アイラップ』。一見なんの変哲もないポリ袋に見えるが、食品の保存から加熱まで幅広く対応する優れもの。昭和51年に岩谷マテリアルより発売された。三角形の個性的なパッケージと、赤地に黄文字のかわいらしいデザインは当時のまま。大きく印刷された“袋のラップ アイラップ”の独特の書体が、レトロファンの心をくすぐる。
「もともと日本海側エリアを中心に普及した商品でしたが、2018年にツイッターの公式アカウントを開設したことがきっかけで、再び全国区へと返り咲きました」
とメーカー担当者。公式アカウント開設直後に、
《アイラップは全国区商品。一部地域限定の商品ではありません(;ω;)
ただ売り上げの75%が新潟、山形、富山、石川、福井に集中しているだけなの…。
すっごく便利なんだけどなぁ…。応援してくれる人RTプリーズ…。》
とつぶやいたところ、いわゆる“バズった”状態に。まずはこれまで『アイラップ』を知らなかった若い世代で認知度が高まり、さらにテレビなどで紹介されたことで、もともとのユーザー層にも「懐かしい!」と再認識された。加えて、最近人気の低温調理にも対応可能とあり『アイラップ』専用レシピ本が発売されるまでに。2018年の“ツイッター事変”以降、出荷量は約2倍になったという。
『ウタマロ石けん』は口コミが再ブームのきっかけとなったケース。手で洗濯していた昭和32年の発売以来、東日本を中心に広く普及したが、全自動洗濯機の普及により、粉末洗剤や液体洗剤など次々と登場する新商品の陰に隠れ、長らく薬局などの片隅でひっそりたたずむ存在であった。
発売66年目にして最大のヒット
風向きが変わったきっかけは洗濯機では落ちないガンコな汚れが落ちると、部分洗い用として広まったこと。20~30代の子育て層が『ウタマロ石けん』による洗濯物の汚れ落ち具合を画像つきでSNSにアップするなどした結果、「泥汚れが抜群に落ちる!」と、その並外れた洗浄力に多くの支持が集まった。メーカーの広報によると、
「2008年は200万個弱だった出荷実績が、2022年度は1300万個まで躍進しました」
とのこと。発売66年目にして、いま最大のヒットを迎えている。若年層での認知度の低さを逆手に取った、ユーモアあふれるキャンペーンが昨年話題となったのは、昭和45年からロングセラーを続けるKINCHOの『サッサ』。使い捨てぞうきんの“元祖”ともいえる商品だ。
「右肩上がりの商品ではありませんが、ここ数年も安定した売り上げを維持しております」と、KINCHOの担当者は話す。
昨年のキャンペーンでは、消費者に「サッサと聞いて思い浮かぶことは?」とアンケートを実施。ところが「なにも思い浮かばない(20代)」「踊り(70代)」など珍回答が続出。
「レトロかわいい」人気も
「最後にサッサを使ったのはいつですか?」の問いに最も多かった回答が「20年以上前」となるなど、思わずクスッとするものばかり。メーカー自らホームページ上で、
《若い人全然知らんやん…》
《完全に忘れられてる…》
と“自虐ネタ”を披露するや、逆に《我が家ではずっと愛用してます!》と根強いファンの声がWEB上に続々と寄せられる結果に。
背伸びしない、自虐を交えた正直な広告で“元祖”の存在感を改めて印象づけた。
レトロなパッケージのかわいらしさが再ヒットにつながるケースは、コスメ商品で多く見られる。
「特徴的な香りにも、懐かしさとともに新しさを感じていただけているようです」
とは、養湿(保湿)クリーム『マダムジュジュ』を製造販売する小林製薬。昭和25年の発売以来、長年愛用者に支えられてきたが、SNSで若者層を中心に話題となったことで売り上げが堅調に推移しているという。
昭和4年発売で、90年以上の歴史を持つ洗顔料『ロゼット洗顔パスタ』(昭和26年にレオン洗顔クリームから商品名を変更)も、「レトロかわいい!」とSNSで人気のコスメのひとつ。メーカーのロゼットによると、売り上げは好調で、現在ではシリーズ累計出荷数8000万個を突破したとのこと。
人気アニメとのコラボも
一方、1920年代から販売を続けるよーじやグループの『あぶらとり紙』は「100年ぶりの新パッケージ登場」で昨年話題に。手鏡に映る京女をデザインモチーフにしたおなじみの商品は修学旅行生や外国人観光客の定番みやげだが、売り上げはここ数年低下傾向。しかし昨年、新パッケージが仲間入りしたことで、
「あぶらとり紙関連商品全体の売り上げがアップしました」と、広報担当者は話す。
複数の“レトロカルチャー”がミックスされ再ヒットを果たしたユニークな例が、銭湯でおなじみの黄色い『ケロリン桶』。『ケロリン』とはもともと鎮痛薬。昭和38年に、銭湯の風呂桶に広告を出したことがきっかけで『ケロリン桶』が誕生した。
一時期は目にする機会も減ったが、平成に一世を風靡した漫画『ケロロ軍曹』とのコラボ桶を平成25年に発売。それ以来アニメやゲームとのコラボが相次ぎ、若い層に『ケロリン桶』が一気に浸透した。
「昭和レトロブームで銭湯文化が再注目されたことも、さらなる追い風になりました」
と、発売元・富山めぐみ製薬の広報担当。業務用桶の需要は低下傾向だが、小売り販売が好調のため、全体の売り上げを維持しているという。
新たな商品が生まれては消えゆくなか、時代の変化に抗わず生き残ってきた商品たち。長寿の秘訣は「ブーム」に一喜一憂しない、メーカーの粘り強い底力にあるようだ。
取材・文/植木淳子