突発性難聴について、医師の石井正則先生は「読んで字のごとく、ある日突然、片方の耳が難聴になるもので、症状としては片方の耳が塞がったり詰まったようなボワンとする耳閉感があります。
また耳鳴りやフラッとしたりグルンとするようなめまいを伴うこともあります」と説明する。
芸能人にも続出するストレス病「突発性難聴」
芸能人も多く罹患している突発性難聴だが、歌手の浜崎あゆみは2000年に発症、医師から治療をすすめられたもののツアーを続行、後に「左耳はもう完全に機能しておらず、治療の術はないと診断された」と明かしている。
一方、Hey!Say!JUMPの八乙女光は2021年12月、テレビ番組の収録中に耳鳴りとめまいを感じて2022年1月に活動を休止。
めまいと耳鳴りがひどく、複数で話すと誰が何を話しているのかわからないほどだったが、約10か月の長期休養をとった結果、仕事に復帰できるほどに回復したという。
なぜこのような違いが起きたのか? 石井先生は「突発性難聴は、症状が出たら早めの受診と治療が完治のカギ」と指摘する。
「以前は“2週間以内に治療をすればいい”という猶予期間があった時代もありましたが、今の医学では“2週間で症状が固定してしまう”というのが正しい理解です」
この20年でわかってきた、早期治療の重要さへの理解が、明暗を分けたのだ。
また多くの場合、突発性難聴は原因がはっきりしないが、「突発性難聴になる方は、例外なく脳の疲れがあります」
と石井先生。
「脳の疲れの原因は、寝不足、身体を使いまくり、ストレスかかりまくりの3つです。健康な人の精神はゴム毬(まり)のような状態で、ストレスを受けても弾き返すのですが、ストレスが多い状態だと粘土のように凹(へこ)んでしまって、元に戻らなくなるんです。
そうなると眠れなくなり、疲れが取れなくて身体が疲れ、さらにストレスがかかる、という悪循環に陥ります。ですので平穏無事な生活を送っている人は、突発性難聴にはなりにくいです。また30~50代の働き盛りの方に多い病気ですね」
自分ではストレスはないと思っていても、実は知らず知らずのうちに我慢している、なんてことも。
「ストレスには、上司や姑といった“ヤなヤツ”、気の進まない集まりや仕事などの“ヤなこと”、できない自分を責めてしまう“ヤな自分”などがあります。しかしその原因に気づくだけでもストレスレベルは下がります。
友達とおしゃべりをして『ヤな人が職場にいてね!』などと言って発散するのも、とても有効ですよ」
異変を感じたらすぐに受診を「突発性難聴の予兆」
□耳が突然聞こえにくくなった
□片耳だけこもる感じがする(閉塞感)
□片耳だけ耳鳴りがする
□音が二重に聞こえる、響く
□めまいがする
□気圧がかかったような違和感がある
突発性難聴には「3分の1のセオリー」がある
音が聞こえる仕組みは複雑だ。まず耳介が音を集め、中にある鼓膜が振動を感知する。ここまでが「外耳」。
さらにその中の「中耳」にある耳小骨が振動を増幅、奥の「内耳」にあるカタツムリのような蝸牛(かぎゅう)へと伝わって中のリンパ液が振動、すると蝸牛の中の有毛細胞が刺激を受けて電気信号に変換したものが神経を通って脳に伝わり「音が聞こえる」。
しかし音を感じ取って脳に伝える役割の有毛細胞が何らかの原因で傷ついたり、壊れたりすることで突発性難聴となってしまうのだ。
「原因はウイルス、循環の2つの説があるのですが、循環=血流が悪くなることが原因ではないかという説が有力になってきています」
また突発性難聴には「3分の1のセオリー」がある。
「3分の1の人は治療によって聴力が元どおりになり、3分の1はまったく治らない、そして残りの3分の1は半分程度聴力が戻ります。
治療のタイミングで明暗が分かれますが、生活習慣病のある方、特に糖尿病や腎不全といった腎機能の低下がある方はめまいや高度の難聴を起こしやすく、極度な高血圧、動脈硬化、肥満なども治療の効果が低くなる傾向が」
また栄養素のマグネシウムや亜鉛が足りていないことが体調を崩す遠因になることもあるそうなので、毎日の食事に取り入れていこう。
もしも突発性難聴などで片耳が聞こえづらくなってしまったら?
「耳が聞こえづらくなると、QOL(生活の質)が下がってしまうばかりか、中年以降の認知症となる危険因子ナンバーワンなんです。
以前は片耳難聴は補聴器を使わず、聞こえるほうの耳で聞くことが推奨されていたんですが、2018年の研究報告から片耳の軽度~中等度の難聴でも補聴器を使用することがすすめられるようになりました」
聞こえづらくても、音の信号をきちんと脳へ入れていくことが大事。また補聴器は聞こえ方を3か月から、長いと1年ほど調整しなければならない。
「その間に脳も補聴器に慣れて調整されていきますので、きちんと調整ができる認定補聴器専門店へ行くことが大事です。ただ補聴器は決して安いものではありませんので、買い急がず、まずは試してみてください」
日常生活に支障がある人は店舗へ行って、数か月のお試しをすることからトライしてみましょう。
難聴には他にもこんな病気が!
突発性難聴と似た症状に、低い音が聞こえづらくなる低音障害型感音難聴がある。
「突発性難聴は再発することがない(もう片方の耳が突発性難聴になることもある)のと比べて、低音障害型感音難聴は何度も再発し、そのたびに聴力が落ちたり、まれにメニエール病になる方もいます。また耳の中にできた聴神経腫瘍が難聴の原因になる場合もあります」
さらに、重いものを持って力んだとき、鼻を強くかむ、くしゃみが出ないように我慢するなどした際に、リンパ液で満たされている内耳の境にある正円窓と卵円窓のどちらか、もしくは2つともが破裂してリンパ液が漏れてしまうことが。
この際もしつこいふらつきが続き、時間がたつごとに聴力がゆっくりと落ちていくというケースもある。
「耳の聞こえ方がおかしいな、普段と違うな、という“気づき”を日頃から大切にして、違和感があればすぐに耳鼻科へ行ってください」
不足しがち!マグネシウムを多く含む食品
和食食材に非常に多く含まれるマグネシウム。食の欧米化により、昨今マグネシウム不足でストレスに弱くなり、これが突発性難聴のきっかけになるとも。
「東京慈恵会医科大学の横田教授が、マグネシウムを多く含んだ食材の頭文字をとって“そばのひ孫と孫は(わ)優しい子かい? 納得!”との標語を作っています。これを覚えて積極的にとってみましょう」
そば ばなな のり ひじき まめ ごこく とうふ まっちゃ ごま わかめ やさい さかな しいたけ いちじく こんぶ かき いも なっとう とうもろこし くるみ