さまざまなモノの値上がりが家計を圧迫している昨今。近年は保険料の負担額増加もあるし、さらに大きな病気にかかったら……。支払う医療費を想像するだけで頭が痛くなりそう!
見逃すな!大病サイン30
「手術などを含む急性期の治療の医療費負担については、高額療養費制度を利用すれば病気によってそこまで大きな差は出ません」
そう教えてくれたのは、医師の森勇磨先生。高額療養費制度とは、同一月にかかった医療費の自己負担額が高額になった場合、一定の金額を超えた分があとで払い戻される制度のこと。
自己負担限度額は収入で異なり、年収が約370万~770万円(3割負担)の人であれば、ひと月あたり約8万8000円。それ以上にかかった医療費は払い戻しされる。
よって、トータルで見て医療費が高額になるかどうかの差は“急性期以降の治療”。リハビリなど通院期間の医療費がジワジワと家計に響くと森先生は話す。
例えば、脳梗塞は発症から治療までの時間によって治療方針が大きく変わる。入院平均日数は75.1日(厚生労働省「令和2年患者調査」より)となっているが、発症後から治療までの時間が短く、軽症ならば10日ほどの入院で済む場合もある。
「病気に初期段階で気づくことは、救命においてももちろん、その後にかかる医療費を抑えることにも有効なのです」(森先生、以下同)
乳がんも早期発見でき、1回の手術で寛解できれば、あとは定期的な検診だけでよい場合も。そうなれば、仕事もプライベートも罹患前と同じように過ごせるので、経済的にもメンタル的にも不安が軽減される。
「出血やむくみなど“ちょっとした異変”で病院へ行くのを躊躇する人もいますが、それは危険。大病のサインを知って、早めに受診することが、ある意味“最強の高コスパ”行動といえると思います」
出血でわかる前兆
1週間続いたら受診! 前兆ポイント
1滴程度の少量でも“出血を放置するのは怖い”と森先生。1週間以上出血が続く場合は、体内で異常が起きている可能性があると疑って病院を受診するのが望ましい。
「どこから、どんな色の出血があるかによって、体内のどの場所で不調が起きているかがある程度予測できますよ」
痰にまじった血は肺がんの初期症状
口内の出血は、口内炎や歯周病など口腔(こうくう)の疾患の場合もあるが、痰(たん)に血がまじっていたら「肺がん」のサインかも。
「肺がんは、気管支の近くの肺門部にできるものと肺の奥の肺野部にできるものがありますが、血痰が出るのは肺門部付近のがん。がんが気管支を傷つけて出た血が痰にまじって出てきます。
逆に、肺野部のがんは症状が出にくく、症状が出るころには転移していることも少なくありません」
そのほか、咽頭がん、食道がんでも血痰のような症状が出る可能性あり。
血尿はもちろん、濃すぎる尿もヤバイ
「血尿は、膀胱(ぼうこう)がん、前立腺がんの可能性があります。そうでなくても膀胱炎や腎炎など身体に異変が起きている証拠。数日続くなら、病院に行くことをすすめます」
赤色や茶色っぽい血尿だけでなく、濃いオレンジ色の尿が続くときも経過観察を。
「膵臓(すいぞう)がんによる症状かも。膵臓に腫瘍ができると、胆汁がうまく排出されず、本来は便にまじって排出されるはずが尿として出る場合があります。その際、胆汁に含まれるビリルビンという成分により尿の色が濃くなるのです」
血便の色で病気の種類がわかる!?
「血便は、色によって異常が起きている場所が推測できます。大腸がんは、赤い血が付着した便に、胃がんの場合は、血が黒く変色した黒い便になります」
また、前述したとおり、膵臓がんになると胆汁の排出不調に陥るため、尿の色が濃くなる一方、便は白っぽくなる。
「大腸がんでは便秘も起こりがち。腫瘍で大腸の管が狭まり、コロコロの便になることも。快便だった人が便秘がちになるなど、急な変化があるときは気にしてほしいです」
見た目でわかる前兆
全身鏡でセルフチェック 前兆ポイント
「顔や体形など急な容姿の変化でも病気の予兆をキャッチできます。お風呂上がりなど、裸のまま全身が映る鏡で定期的に自分の身体をチェックすることで、違和感を見つけやすくなりますよ」
体調の悪さや痛みなどと違い、見た目の変化は本人以外でも確認可能。家族の健康チェックにも役立てて!
痩せていくのはがんのサイン!?
「さまざまながんに共通して起きる兆候の1つは体重の減少。ダイエットもしていないのに“痩せた!”と喜ぶのはとても危険です」
と警告する森先生。がんができると、そのがん細胞が体内のタンパク質や脂肪、筋肉といったエネルギーを使って大きくなるため、何もしなくても体重が減ってしまうと解説する。
「運動や食事制限といったきっかけもなく半年から1年以内に5%以上体重が減少するのは、医学的に正常といえません。“急激な体重減少は、がんかもしれない”という意識を持って定期的に体重を量ってください」
乳房のしこりだけじゃなくエクボに注意
触って確認できる“しこり”が乳がんのサインとして有名だが、それ以外にも見逃してはならないポイントが。
「皮膚が引きつれて、乳房に“えくぼ”のようなものができていたら、それはがん細胞が皮膚を巻き込んでできたものかもしれません。
また、乳頭から血のまじった分泌物が出るのも注意したいがんの兆候。乳がんは、自分で症状を見つけやすいがんなので、ぜひ日常的にチェックを」
左右非対称、色がまだらは“偽ホクロ”かも
「ホクロに似た皮膚がん(悪性黒色腫/メラノーマ)と、ただのホクロの見分け方を知っておけば、早期にがんを発見できるため部分切除だけの処置で済むことがあります」と森先生。注視したいのは、非対称、境目がはっきりしていない、色がまだらのもの。
「なかでも直径6mm以上のものは、定期的に注意深く観察してください。色や形、大きさに変化が見られたら、それはホクロではなく皮膚がんかもしれません。一度、皮膚科で相談しましょう」
片方の足のむくみは肺塞栓の一歩手前
たかが“むくみ”と思いがちだが、慢性的になると大病を疑うべし。
「肝臓や腎臓、心臓の機能が弱まると全身にむくみの症状が出ます。体内の水分は重力によって下半身にたまっていくので、特に足のむくみが顕著に。肝硬変、腎不全、心不全の可能性もあります」
すねや足の甲を10秒押して凹んだままになったら、むくんでいる証し。内臓系の不調は両足にむくみの症状が出る。
「片側の場合は脚の静脈が詰まる深部静脈血栓症などの心配も。できた血栓が肺の血管に回り、肺塞栓(そくせん)症(エコノミー症候群)を引き起こして意識を失うこともあります」
爪が白く濁ってきたら心不全の兆候
「爪は、さまざまな病気のサインが出る部位ですが、特に大病の兆候としてチェックしてほしいのは色。爪全体が白くなるのは、心不全、腎不全、肝臓の不調などの症状の1つ。
また、縦に黒い線が入っていたら、皮膚がんの初期の兆候。色素沈着で起きていることが多いですが、線の色が濃くなっていったり、太くなっていくようであれば念のため皮膚科の受診を」
目の下が白い・黄みがかる
肌が黄色くなる黄疸は、肝臓の疾患や膵臓がんを示唆する症状の1つ。ただし、肌の色や日焼けなどにより、その変化は見逃されがち。
「身体の色の異変は、あっかんべーをして目の下の眼球結膜の色を確認するのがわかりやすくておすすめ。黄色っぽくなっていたら黄疸、白くなっていたら重度の貧血が疑われます。
女性は貧血になりやすいので気にかけておいてください。大腸がんで出血が続いて貧血になるということもありますので、変化を見逃さないことが大切です」
痛みでわかる前兆
突然で強烈な場合はキケン 前兆ポイント
1度でも今までにないレベルの痛みを感じたら、まず“身体に何か起きている”と思うことが大切だと森先生。
「心筋梗塞、くも膜下出血など、どこかが裂けたり詰まったりしたときに共通する特徴は、突然の強い痛みです。頭や胸だけでなく、背中や肩などの強い痛みにも注意が必要です」
肩の激痛は心筋梗塞を疑うべし!
「“四十肩”“五十肩”だと思っていたら心筋梗塞だった、ということは少なくない」
と経験から教えてくれた森先生。整形外科を受診して、処方された湿布を貼って過ごしていたら、2日後くらいに息切れがひどくなって救急車で搬送。その後に心筋梗塞が判明するということも“あるある”だと話す。
「ジワジワくる加齢による肩の痛みに対し、心筋梗塞の痛みは瞬間的にバーンと強い痛みがくるという違いがあります。喫煙や飲酒の習慣がある、血圧が高い、コレステロール値が高いといった心筋梗塞のリスクが高い人は、“すぐ治るだろう”と思わず病院へ」
瞬間的な背中の痛みは命の危機を疑って
罹患すると、病院を受診する前に約2割が命を落とすといわれる大動脈解離。大動脈は胸部から腹部につながる太い血管で、そこが破裂すると瞬間的に強い背中の痛みが起きることがある。
「他の病気にも増して、一刻も早い処置が命を左右する病気。早めに病院に行くことができれば、手術や内科的治療で治せる確率が高まるので、初期症状を見逃さないことが生死を分けます。背中の痛みと同時に胸の痛みが生じることもあるので覚えておいてほしいです」
膵臓の腫瘍によって膵炎が引き起こされた場合も背中の痛みが出る場合がある。
片頭痛と危険な頭痛の見分け方とは
「くも膜下出血を代表とした脳出血もすぐに病院を受診してほしい疾患で、その初期症状として頭痛が起こります」
しかし、普段から片頭痛がある場合“いつもの頭痛”との見分けはどうすれば? 危険な頭痛の見分け方は2つ。
「1つ目は、今まで経験したことがないほどの痛みであること。2つ目は、“〇時〇分に起きた”と言えるほど、頭痛が起きた瞬間がはっきりわかるものであること。こういった頭痛が起きたときは、即刻救急車を呼ぶべきです」
片方の脚の痛みが切断の危機にまで発展!?
「脚の血管が硬化したり、狭くなることで血流が悪くなる『閉塞性動脈硬化症(ASO)』という病気があります。発症すると、脚に酸素が行き渡らなくなり、痛みを伴うようになります」
両脚が同時に発症することは稀(まれ)で、激しい運動をしていないにもかかわらず片方だけに強い筋肉痛のような痛みを感じたら危険信号。
「最初は少し休めば痛みがひきますが、放っておくと血管はどんどんボロボロになるので、日を追うごとに痛みが増す。最悪の場合、血管が詰まって脚が真っ青になり、切断という事態に陥ります」
症状に出やすい「前兆」一覧
がん
・がん全般……体重の減少
・胃がん……血便(黒色)
・咽頭がん……血痰のような症状(喀血)
・食道がん……血痰のような症状(喀血)
・膵臓がん……濃いオレンジ色の尿、白っぽい便、黄疸
・前立腺がん……血尿
・大腸がん……血便(赤色)、便秘、貧血
・乳がん……しこり、皮膚の引きつれ、乳頭からの分泌物
・肺がん……血痰
・皮膚がん……左右非対称や色がまだらのホクロ、爪に黒い縦線ができる
・膀胱がん……血尿
心臓
・心不全……むくみ、爪が白くなる
・心筋梗塞……肩の強い痛み
脳
・脳出血(くも膜下出血など)……強い頭痛
・脳梗塞……顔面のまひ、ろれつが回らない、熱さ・冷たさを感じない
その他
・肝臓の不調(肝硬変など)……むくみ、爪が白くなる、黄疸
・腎臓の不調(腎炎、腎不全など)……血尿、むくみ、爪が白くなる
脳梗塞は時間が勝負
脳梗塞は、発症後4時間30分以内であれば血栓を溶かす投薬治療、8時間以内ならカテーテルを使った脳血管内治療を受けられ、大がかりな手術なしに劇的な回復が見込めることも。まひなどの後遺症も残りにくくなる。
「前兆として心筋梗塞や脳出血のように痛みを伴うことは少ないので、判断しにくく時間がたってしまうことも。しかし、まひなど特徴的な症状が出るので確認を」
病院でも行っている!脳梗塞のチェックリスト
□“パ・タ・カ”とはっきり言える
□両腕を前に出したまま目を閉じ、そのままキープ
□両目を同時にギュッと閉じられる
□コップで水がきちんと飲める
□左右のゆがみなく“イー”の口ができる
□舌をまっすぐ出せる
※チェック項目が少ないほど、脳梗塞である可能性が高い
(取材・文/河端直子)