8月2日は「おやつの日」

 来たる8月2日は「おやつの日」。おやつ文化の向上を目指し、一般社団法人日本おやつ協会が制定した記念日だ。ひと口におやつといってもそのバリエーションは豊富。コンビニやスーパーで買える市販の商品以外にも、家庭での手作りお菓子、昔懐かしい駄菓子、デパートや専門店に並んだ色とりどりの洋菓子・和菓子、各地域での郷土菓子に至るまで、日本には豊かなおやつ文化が息づいているといっていいだろう。

 一方で、どんなおやつを好んで食べているのかについては、地域によっても異なってくるようだ。そこで今回は、総務省統計局による『家計調査 品目別都道府県庁所在市及び政令指定都市ランキング』の最新結果(令和2年~4年の平均値)について、食の文化に詳しいおやつ文化勉強家のシズリーナ荒井さんとともに見ていこう。

全国お菓子支出額ランキング

 なお、同調査は47都道府県庁所在市と政令指定都市(川崎市、相模原市、浜松市、堺市、北九州市)の計52都市が対象となっており、2人以上の世帯あたりの数値がランキング化されたもの。すべての市町村や単身世帯の数値が含まれているわけではないのでご注意を。

 まず、最も気になる総合部門。日本でいちばんお菓子に対してお金をかけて、1位に輝いたのは金沢市だ。全国平均支出額が8万9367円であるのに対し、金沢市は1.18倍の消費額。

 さらには、総合部門で過去10年以上にわたって1位の座を堅持しており、今回の個別項目でも【他の和生菓子】【ケーキ】【他の洋生菓子】【チョコレート】【アイスクリーム・シャーベット】の5部門でトップを獲得するなど、群を抜いて甘いもの好きな地域性といえるだろう。

金沢市が不動の1位である理由のひとつとして考えられるのは、独特の日本海側気候。海に面していて湿度が通年で高く、潮風に当たる地域は喉が渇きやすく、清涼飲料水やアイスクリームなどが売れやすいというデータもあります。

 もちろん“加賀百万石”と呼ばれた江戸時代からの茶の湯文化や菓子文化が深く根づいているという文化的な側面も大きいと思いますが、こういった地理的・気候的な影響も金沢におけるお菓子支出額の高さにつながっているのかもしれませんね」(シズリーナ荒井さん、以下同)

金沢市でアイスが売れ続けている理由

 総合部門の2位以下も、過去3回にわたって変わらない常連組。まさに令和のお菓子支出額を牽引するトップ5の都市だといえるだろう。

「支出額が高いことで“ケーキの街さいたま”とか“菓都大津再興プロジェクト”といった地域PRにも力が入り、さらに支出額が増えていくという好循環も生まれています。

 スイーツは老若男女を問わず愛される嗜好品で、新しい名物として広げやすいということもあります。地域振興やふるさと納税を集めたい市町村にとっては積極的に盛り上げていきたいといった事情もあるでしょう」

 次に、個別の菓子分類ごとの順位を見ていきたい。【アイスクリーム・シャーベット】部門では金沢市が1位で、2位のさいたま市、3位の福島市までは2回連続で同順位。

「実は、金沢市はアイスが安く手に入るという事情も関係していると思います。スーパーなどでは通年で値引きされていて、よく売れるからこそ特売品になりやすく、薄利多売でも儲けることができるという循環になっています。先述の気候とともに消費しやすい文化が醸成されている点も、金沢でのアイス需要が高い一要因なのでしょうね」

 また、気になるのは【ゼリー】部門で、盛岡市は過去10回にわたって1位の座に君臨し続けている。【カステラ】部門の1位が言わずと知れた長崎市であるのに対して、盛岡市は密かに日本のゼリー市場を牽引し続けている、謎のゼリー大国なのだ。

「今回は東北3県の秋田市、仙台市が上位に入っていますが、いずれもきれいな水が手に入る酒どころでもありますよね。高品質な果物もありますし、何よりきれいな水があることが盛岡市でのゼリー人気を後押ししているのかもしれません」

【プリン】部門は、さいたま市、横浜市、宇都宮市が2回連続でトップ3に。また【ケーキ】部門は金沢市、さいたま市、富山市が同じく2回連続でトップ3入りを果たした。

「さいたま市は総合でも2位に入っていますが、首都圏でもあり、トレンドに敏感な県民性を表しているのかなと思います。新商品のスイーツが一気に流行ったり、都市部の人気店が次に進出するのは埼玉県が多いという流れがあったりもするので、そういった新しいもの好きな気質も影響しているのかもしれませんね」

 続いて和菓子の項目も見ていこう。

【まんじゅう】部門は1位が福島市で、鳥取市、鹿児島市が続く。上位3位は前回同様の顔触れだ。

「薄皮まんじゅうやふろしきまんじゅうなど、各県がご当地まんじゅうを抱えているなかで、上位3都市は全国平均の2倍以上の支出額となっていますね。近年はあんこにいろんなフレーバーを混ぜたものなども出始めていて、若者にも和菓子人気が起きつつあります。そういった勢いも取り入れながら、順位が今後どう変動していくのかも楽しみです」

【ようかん】部門の1位は福井市、2位は佐賀市。過去の統計では両市が支出額1位を奪い合う熾烈な争いが長らく続いているが、今回は福井市に軍配が上がったようだ。

「長崎からのシュガーロードの文化もあり、佐賀の小城ようかんは有名ですが、福井ではつるんとした水ようかんなども人気のようです。同じようかんやまんじゅうといっても、詳しく見てみると微妙な差異があったりするので、各地の文化の違いを知ることができるのもこのランキングのおもしろさかもしれません」

【せんべい】部門は、今回トップ3の水戸市、福井市、宇都宮市のほか、山形市、福島市などの米どころが上位5位の常連組だ。また、【スナック菓子】部門では、2回連続の1位が鳥取市で、そのあとに金沢市、岐阜市、山口市、高知市と続く。

「せんべいといえば草加せんべいなどがパッと思い浮かびますが、さいたま市はトップ5圏外。今回のデータは都道府県庁所在市というくくりですが、全市町村を対象に調べるともっと順位も変動しそうですね。米どころでせんべいの支出が多いのは納得ですが、スナック菓子と同様に間食文化という意味でも、手の空いた時間にテレビを見ながらつまんでいるような暮らしぶりが目に見えるようで、おもしろい顔触れです」

他のお菓子部門で3回連続1位は秋田市

【キャンディー】部門は1位から岐阜市、広島市、高松市。【ビスケット】部門は川崎市、宇都宮市、横浜市。いずれも調査回ごとに順位の変動が激しく、上位がなかなか定まらない部門でもあるようだ。

「この数年は熱中症対策やストレスケアの点などでキャンディーの効能に注目が集まっています。例えば、暑い地域などストレスの多い地域でキャンディーが消費されやすいといった仮説も考えられますし、キャンディーはボロボロこぼれたりせずスマートに食べられるおやつでもあるので、小さい子どもが多い地域で積極的に購入される傾向があるのでは……などと考えていくのも楽しいですね」

 また、いずれの項目にも入らない菓子類の支出額を示す【他の菓子】部門では3回連続で秋田市がトップの座に輝くなど、なかなか理由を説明しづらい不思議な消費動向も。

「ゼリービーンズ、金平糖、かりんとう、チューインガム、落花生、甘納豆、みつ豆、杏仁豆腐など、さまざまなものが入ってくる【他の菓子】の項目ですが、なぜ秋田市が1位なのかは謎が多いですね。地域別に見た高齢化率が最も高いのが秋田県であることから、高齢者に人気がありそうな“その他のお菓子”が好んで消費されているという仮説なども考えられますが、実際どうなのかは気になるところです」

 一方、上位の常連が決まっているような部門も多くあり、おやつ文化の嗜好の地域性はデータによって見えてくる。

「なぜここが1位なんだろうとか、逆になぜここが最下位なんだろうといった視点を持つと、その地域のおやつ文化への興味が湧いてくると思います。もちろんはっきりとした理由がわかることは少ないかもしれませんが、この夏の旅行先にして調べてみたり、旅のきっかけにするのもいいかもしれませんね」

 あまり考えたことのないお菓子支出額の地域差の謎。あなたの住む地域で人気のおやつはなんですか?

全国お菓子支出額ランキング【総合部門】

1位 金沢市 10万5512円
2位 さいたま市 10万1101円
3位 大津市 9万8482円
4位 東京都区部 9万6423円
5位 川崎市 9万6051円

全国お菓子支出額ランキング【アイスクリーム・シャーベット】

1位 金沢市 1万2828円
2位 さいたま市 1万2710円
3位 福島市 1万1632円

全国お菓子支出額ランキング【プリン】

1位 さいたま市 2231円
2位 横浜市 2146円
3位 宇都宮市 2101円

全国お菓子支出額ランキング【ゼリー】

1位 盛岡市 3184円
2位 秋田市 2598円
3位 仙台市 2482円

アイス部門では、2009年~'11年の統計以降、一貫して金沢市が1位の座を守り続ける。プリンやゼリーの順位にも、地域性が見え隠れ

全国お菓子支出額ランキング【せんべい】

1位 水戸市 7862円
2位 福井市 7692円
3位 宇都宮市 7629円

全国お菓子支出額ランキング【まんじゅう】

1位 福島市 2041円
2位 鳥取市 1772円
3位 鹿児島市 1656円

全国お菓子支出額ランキング【ようかん】

1位 福井市 1490円
2位 佐賀市 1272円
3位 水戸市 1213円

ようかん、まんじゅうなどの項目は地元銘菓を持つ地域がやはり支出も多く、根強く上位入りを果たしている

※データは総務省が毎年発表している『家計調査(二人以上の世帯) 品目別都道府県庁所在市及び政令指定都市ランキング』。都道府県庁所在市47市に政令指定都市5市を含めた全52市で、3年ごとの支出額の平均値をまとめたもの

PROFILE●シズリーナ荒井(本名:荒井健治)●アイス研究家、おやつ文化勉強家。アイス食歴38年、年間4000個以上ものアイスを食べ歩く、日本最強のアイスマニア。TBS系『マツコの知らない世界』をはじめ多数メディアで活躍中。

(取材・文/吉信 武)

 

夏に食べたいアイスクリーム。酪農で有名な地域が当然上位入りするかと思いきや……

 

水戸市が1位のせんべい部門には、かきもちやかわらせんべい、あられなども含まれる

 

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