在日三世として東京に生まれ、人気シンガー、クリスタル・ケイ(37)を女手ひとつで育てたシンシア(60)。米海軍横須賀基地勤務の男性と結婚し、23歳で出産。29歳のとき、娘を連れて家を出た。
歌の仕事で母子2人の生活を支える
「家を出てからは歌の仕事で母子2人の生活を支えていました。このころは銀座のクラブで歌っていて、横浜の自宅から夜ごと銀座に通っています。
ある日クラブのお姉さんに、『あなたも裁判で大変だろうから気晴らしにちょっと遊びに行こうよ』と誘われ、夜の街に繰り出すことになりました。お姉さんが連れていってくれたのはボーイズバー。男性とカウンター越しにお喋りを楽しむ店で、いわばホストクラブのカジュアル版といった感じでしょうか。
銀座で働いてはいたものの、当時はお酒を一滴も飲まず、水商売にもまったく興味がありませんでした。ボーイズバーも初体験で、一晩限りの物見遊山のつもりでした。でもそこで、サトシと出会ってしまった。そこから夜の世界にどっぷり浸かっていくことになりました」
同じ夜の世界でも、ディスコと水商売では景色がまったく違った。歌しか歌ってこなかったシンシアにとって、サトシが生きる世界は煌びやかで、サトシのような男性も新鮮だった。
「店にイヤリングを置き忘れてしまったようです。サトシから『届けにいきます』と電話がありました。
『申し訳ないので』と、お断りしても、サトシは『届けにいく』と言って譲りません。そこからサトシの猛アプローチが始まりました」
押し切られ関係が始まるも別の女性と突然の結婚
「当時、私は夫との裁判の最中で、その事情も伝えたけれど、サトシは気にせず『どうしても付き合ってほしい』と言い募ります。
サトシの熱意にほだされ、結局彼と付き合うことになりました。
サトシは堺正章さん似の男性で、特別イケメンというわけではないものの、どこか憎めない人でした。高級シャンパンや何百本というバラの花束、ブランド物のバッグなど次々プレゼントが届きます。私がそれまで足を踏み入れたこともないような高級旅館にも連れて行ってくれました。
私にとっては経験したことのないものばかりで、贅沢で華やかでキラキラしていた。サトシにとってはいつもの手口だったのかもしれません。そのときはまだサトシという男のことがまったくわかっていませんでした」
サトシからの突然の告白で、男の本性を知る。すべてが虚飾とウソとごまかしで塗り固められていた。
「付き合い出して2か月ほどたったときのことでした。サトシが突然『実は今週結婚式があるんだ』と言い出した。『誰の?』と聞くと、『オレの』とサトシ。まったく意味がわかりません。
サトシは、『相手の女性に子どもができてしまい、別れてくれない。しょうがなく結婚するんだ。でも本当は君のことが好きだから』
と、しれっと言葉を重ねます。私はもう呆れ果て、問い詰める気力もありませんでした。彼に強引に押し切られる形で始まった関係でした。付き合ってまだ日も浅く、今なら取り返しがつくというものです。『もう来ないで!』と、彼に別れの言葉を突きつけました。
でもそこで諦めるような男ではなかった。自分自身の結婚式の後、私が歌う店にやってきた。何を考えているのか、蝶ネクタイ姿です。彼に『帰れ!』と平手打ちして、その場で店から追い出しています。
しかしサトシとの関係は断ち切れず、腐れ縁となり、その後10年間続きます。彼の妻にはきっとバレていたと思います」(次回に続く)
<取材・文/小野寺悦子>