山下達郎が「音楽」以外で注目を浴びた。きっかけは音楽プロデューサー・松尾潔とのトラブルだ。
松尾は山下が所属するスマイルカンパニーとマネージメント契約をしていたが、それが中途で終了。今は亡きジャニー喜多川氏の性加害疑惑をめぐる騒動で、自分がジャニーズ批判をしていることが原因だとして、
「私をスマイルに誘ってくださった山下達郎さんも会社方針に賛成とのこと、残念です」
と、ツイートした。これに対し、山下は自身のラジオ番組で反論。
“忖度”は「根拠のない憶測」
「弁護士同士の合意文書も存在しております。(略)契約を終了するよう促したわけでもありません。(略)臆測に基づく一方的な批判をしたことが契約終了の一因であったことは認めますけれど、理由は決してそれだけではありません」
さらに、つながりの深いジャニーズ事務所に「忖度」したのではという見方があることについても「根拠のない臆測」だと断言。これがジャニーズ批判をしている人たちの怒りを買った。ネットでは「CDは捨てた」「もう2度と聴かない」という声も出たほどだ。
ただ今回、山下がこういうかたちで注目されたこと自体に驚いた人も多いのではないか。テレビにはほとんど出ず、ひたすら曲作りやライブに専念。いわば「音楽の職人」というイメージだ。実際、1991年には『ARTISAN』(アルチザン。職人を意味するフランス語)というアルバムも発表した。
が、実はこの一連の流れ、彼が職人だからこそ、なのだ。
というのも、前出のラジオにおいて、彼はジャニーズアイドルの魅力や自分との共同作業について熱く語っている。'80年代前半にはアイドルブームを猛批判していたので意外にも感じるが、もともと、ジャニーズ事務所の最初のグループであるジャニーズには好感を持っていたという。その後、同じく職人気質なKinKi Kidsとの関わりなどを通して、ジャニーズ支持へと傾いていったのだろう。
「職人らしさ」全開の対応
そこには、彼の盟友でもある小杉理宇造が長年ジャニーズ事務所の要職とスマイルカンパニーの社長を兼ねる状況になったことや、妻の竹内まりやが自分の曲の歌詞に「キムタク」を入れるほどのジャニーズ好きであることも影響しているはずだ。
前出のラジオでは「私の人生にとって一番大切なことは、ご縁とご恩」「作品に罪はありません」とも語っている。職人は作品至上主義なので、よりよい作品を生み出すためのつながりを重んじるし、気分屋なので身内には甘い。そのあたりがよくわかるのが、今回蒸し返された『駅』をめぐるエピソードだ。
『駅』は竹内が中森明菜に書き、その後セルフカバーした曲。山下は竹内版の編曲を手がけ、のちにこう書いた。
《アイドル・シンガーがこの曲に対して示した解釈のひどさに、かなり憤慨していた(略)今では竹内まりやの代表作のひとつとなっている。メデタシ、メデタシ》
近藤真彦との破局以来、明菜に同情的な人たちは改めてこれに「憤慨」したようだが、自分好みに仕上がった作品を自賛するのも職人らしさだ。逆に、自分を認めないような人には絶対に媚びないのも職人らしさ。それゆえ、前出のラジオでは最後に、
「きっとそういう方々には私の音楽は不要でしょう」
という捨てゼリフ(?)も吐いた。そんなわけで、この件は忖度など関係なく、頑固で気難しい職人が不愉快な状況にキレただけの話なのである。
ほうせん・かおる アイドル、二次元、流行歌、ダイエットなど、さまざまなジャンルをテーマに執筆。著書に『平成「一発屋」見聞録』(言視舎)『平成の死 追悼は生きる糧』(KKベストセラーズ)。