人気を博している『鰻の成瀬』のうな重

 30日の土用の丑の日を前にウナギの流通はピークを迎える。その需要はコロナ禍で落ち込んでいたものの、今年は流行前の水準に戻っているという。

「連日猛暑が続いていることもあり、月次売り上げは伸びています」

 と、好調ぶりをうかがわせるのはウナギ専門店『鰻の成瀬』の広報担当。同店は立ち上げから1年もたたないうちに全国で12店舗を構えており、年内には30店舗まで拡大予定だそう。

仕入れ値以外でコスト調整

「お越しいただくお客様の層は出店地域によって異なりますが、全店で見ると男女比は半々、年代もさまざまなため、やはりウナギは国民食なんだと実感しております

 同店では相場に比べて低価格の提供を実現している。

「ウナギの価格自体は高騰を続けているため、仕入れ値が低価格というわけではありません。その他の部分で費用を抑える工夫をしております」

 あえて職人を雇わず、内装を簡素化したり、住宅地などの郊外に出店するという企業努力があるようだ。

「昔から大衆食として親しまれてきたウナギが高級品化していることに対して、『もっと気軽にお腹いっぱい食べられる環境を提供したい』と考えております」

『鰻の成瀬』では海外の養鰻場で育てられたウナギを厳選して使用しているそう。

 一方で、ニホンウナギは絶滅危惧種とされている。近いうちに途絶えてしまう可能性もあるのだろうか。中央大学法学部教授でウナギの生態研究や保全と持続的利用を目指し活動する海部健三氏に聞いた。

「“近いうち”の基準にもよりますが、10年から30年程度の期間のうちに絶滅することは考えられません。絶滅よりも、資源として利用できなくなる、食を含む文化を維持できなくなる状況が先にやってくると考えられます」

技術の発展に“ルール整備”が追いつかず…

 そもそも、ニホンウナギ減少の主な要因は何か。

「“産卵場のある海洋環境の変動”“河川や沿岸域など成育場環境の劣化”“過剰な消費”と考えられていますが、このほかに病原体の侵入・蔓延なども懸念されています」(海部氏、以下同)

国立研究開発法人『水産研究・開発機構』は海洋・海洋資源を保全し、持続可能な形で利用するための研究を行っている(公式サイトより)

 生息数減少の歯止めに有効な手立てのひとつとして、養殖技術の進歩も望まれる。現状の技術はどれほど進んでいるのか。

「天然種苗と比較して値段はまだまだ高いとはいえ、人工種苗生産技術、いわゆる完全養殖技術は、すでに実用可能な段階に入っています。しかし、人工種苗から養殖したウナギの流通ルールが定められていないために、市場での流通が遅れています」

 技術の発展にルール整備が追いついていない点を問題視。

人工種苗生産技術は日本の誇るべき技術であり、世界唯一の“サステナブルなウナギ”と言えます。資源の持続性に対する配慮を掲げ、厳しい調達基準を設けている大阪・関西万博でも販売すれば、いいアピールになるでしょう。しかし、調達方針を管理する部署との調整が難航していると聞いています」

 ウナギの密漁など不適切な漁獲や不透明な流通は大きな課題となっている。そして、海部氏は資源の持続性に対する無関心が状況を悪化させる一因だと指摘。

「状況を理解したうえで食べるか食べないか、よく考えることが重要です」

 土用の丑の日、改めてウナギ資源の持続性についても深く考えたいところだ。

人気を博している『鰻の成瀬』のうな重

 

国立研究開発法人『水産研究・開発機構』はウナギの安定供給のための研究を行っている(公式サイトより)

 

国立研究開発法人『水産研究・開発機構』はウナギの安定供給のための研究を行っている(公式サイトより)

 

国立研究開発法人『水産研究・開発機構』はウナギの安定供給のための研究を行っている(公式サイトより)