「カッコよすぎて、ちょっと共感しづらいところはあるかもしれないです(笑)」
大正末期の東京。小曾根百合(綾瀬はるか)は最強と恐れられた元諜報員。多くの人物を暗殺したとされている。そんな過去を捨てて花街の銘酒屋の女将として過ごしていたある日、帝国陸軍に追われる細見慎太(羽村仁成)を助ける。その父親(豊川悦司)は殺される直前になぜか“小曾根百合のところへ行け”との言葉を慎太に残していた。百合は慎太を連れ逃げながら、帝国陸軍との壮絶な戦いを繰り広げる……!
「最初にお話をいただいたときは、女性諜報員で銃の使い手と聞いただけでワクワクしました。私自身、そういう物語は好きなほうなので。アクションは今まで結構やらせてもらってきましたが、銃がメインなのは初めて。新たな挑戦は楽しみでした」
俊敏な身のこなし、華麗な銃さばき。血の道を進むヒロインは見惚れるばかり。
「自然に撃っていたり、弾入れをスムーズにしたり。慣れて自分のものにするまでには、たくさん練習しましたね。
この作品の前は連ドラをやっていたので、どうしてもセリフを覚えることに追われ、なかなか運動ができていなくて。最初はアクション監督から“ちょっと走って体力つけて”なんて言われて(笑)」
慎太を守ることは任務でも責務でもない。しかし己の危険を顧みず、無謀ともいえる戦いを百合はやめない。
「最終的にはやっぱり守るものができたこと。百合はクールでカッコいいけど、本当はすごく優しくて、母性ある女性。理不尽に子どもがやられていたらやっぱり許せないし、その戦い方も急所は外して撃っているから殺めてはいない。そんな信念はあるんだろうなと思います」
経験からできることが増えるからこそ
綾瀬に、女優としての信念を尋ねてみると、
「経験を積むとその流れでできちゃうこともあるんですけど、ちゃんと心から、役の感情で演じることは大事にしています。“きほんのき”だからこそ、慣れからくる小手先にはならないように。そこはいつも気をつけています」
ストーリーが進む中で、昔一緒にいた人々の存在が、現在の百合をつくり上げていることもわかってくる。あのときの経験や決断があったから今がある。そんな女優としての原体験はあるのだろうか?
「アクションに関しては、親からいただいた身体のおかげかな。小さいときから運動はすごく好きだったし、たくさんしていたし。
あとは、当たり前かもしれないですけど、東京に来なかったら今のお仕事もしていなかったかもしれない。来てみてよかったな、と思っています」
綾瀬の芸能界入りのきっかけは、『ホリプロタレントスカウトキャラバン』。15歳のときだった。
「私は(オーディションを)受けたというより、友達についていった感じで。もともと女優になりたいと思っていたわけではなかったけど、“なんだか面白そう”というノリで。(選考が進み)東京にも行ったことがなかったから“面白そう”“ワクワクする”みたいな気持ちで。もちろん、頭で考えると地元の学校にも通いたいし、行ったことのない東京は怖い。その両方の気持ちがあるんだけど、でも不安なことって言い出したらキリがないから、素直に飛び込んでみました」
デビューして23年。そのキャリアと実力と人気は誰もが知るところ。
「その“まず飛び込んでみる”というスタンスはこれから出会うことや向き合うことに対しても、当てはまることなのかなと思います」
最強のヒロインを演じる最強の女優は、面白がる気持ちと飛び込む勇気からつくられていた――。
髪をバッサリと短く
本作のために、長かった髪を短くしている。大正モダンなボブは、レトロでおしゃれ。そして、綾瀬にとてもよく似合っている。
「ここまで短くしたのはいつぶりだろう? 別のヘアスタイルやカツラなどの案もあったんですが、行定勲監督と相談する中で“こういう髪型はやったことがないうえに、大人っぽくて女っぽいのでは?”という感じになり、“じゃあ切りましょう”と。2か月くらいは(撮影ではない)普段でも、完全に“百合スタイル”で過ごしていました」