「性被害者の立場に立った法案ですが、一方で怖い一面もあります」
とは、アディーレ法律事務所の正木裕美弁護士。
7月13日から「強制性交罪」は「不同意性交罪」に名称と内容が変わり、さまざまな議論がされている。
「これまでの“強制性交罪”では、暴行や脅迫によってレイプされたという証明が必要でした。新しい“不同意性交罪”では、同意のない性行為は犯罪になり得るというもの。犯罪の成立に必要な要件として、これまでもあった暴行・脅迫に加え、アルコール・薬物摂取、拒絶する暇を与えない、恐怖・驚愕させる、などの具体的な8つの行為が明文化されました。また、性同意年齢もこれまでの13歳から16歳に引き上げられています」(全国紙記者)
新刑法は“被害者目線の規定”
性被害者のAさんは自身の経験を踏まえた上で、この新刑法を喜ぶ。
「私が性被害にあった10年前は加害者のために法律があるんじゃないか、っていうくらいにひどいものでした。酒を無理やり飲まされて泥酔状態でホテルに連れて行かれ、被害を受けました。警察では男女間のトラブルとして取り扱われ、起訴すらしてもらえなかったのですから」
過去に性犯罪事件を担当してきた正木弁護士も、新刑法を評価する。
「“いやよいやよも好きのうち”、“部屋に来る・車に乗る・酒を飲む・露出が多い・キスした=性行為OK”、“妻は夫の求めに応じるべき”など、女性側の同意に関してはさまざまな誤解が蔓延しています。改正法は被害者目線の規定となり、たとえ夫婦であろうと、同意がない行為は犯罪となり得る。性的自己決定権は相互に尊重されなければならないという、女性からしてもごく当たり前の考え方が、司法や国民の行為規範に反映されることは喜ばしいと思います」
行為のたびに同意書? 不安の声も
新たに加わった項目も。
「口や肛門も被害対象になり、男性から男性へのレイプも立件しやすくなりました」
被害者に寄り添った法案に思えるが、一方で刑法の落とし穴もあるという。
「改正によって、行為のたびに同意書にサインが必要だ、美人局が増えるのでは、などの不安の声もあります」
と正木弁護士。続けて、
「同意書がマストだ、なんてことにはなりませんが、制度を悪用して、信頼していたパートナーでも関係が悪化して、後日同意がなかったと言われてしまう可能性も否定できません。信頼できない相手とはしない、信頼できる相手でも丁寧なコミュニケーションを大切にして、相手の意思確認は行為の途中でも段階的に行う。YES以外はすべてNOと考え同意の確信がないときはしないなど、自らの考え方や行動を変えることと、万一のためにLINEなど相手とのやりとりを証拠として残しておくといった自己防衛が大切です」
さらに問題点を指摘する。
「今回の改正で、例えば、妊娠や性感染症の危険があるステルシング(相手の同意なく、性行為中に避妊具をひそかに外したり損傷させること)は、直接規制対象になっていないんです。法律としては何が犯罪なのか明確に定めることは重要ですが、レイプだと感じる行為が網羅されているわけではないので、今後の運用や判例の蓄積、法改正に向けた議論にも注目が必要です」
すでに逮捕者も出ているこの刑法。性犯罪者の逃げ得を許さない点は評価したい。