川での水難事故を防ぐために、どのような準備や対策を行うべきか

 各地の川で水難事故が発生し、メディアは連日、注意を呼びかけているが、なかには「落ちたら浮いて助けを待つ」「ひざくらいの浅さなら大丈夫」「大人がいれば安心」など、誤解を招くような情報も多い。これらの情報の多くは、プールとは違い、川では水が流れていることを見落としている。では、どのような対策をとったらよいか。

7〜8月の午後、河川構造物付近での事故が多い

 川などでの水難事故の原因やデータ分析を行っている公益財団法人河川財団は、水辺の事故を防ぐため2001年から「水辺の安全ハンドブック」を作成。2023年版は7月18日に公開された。

当記事は「東洋経済オンライン」(運営:東洋経済新報社)の提供記事です

 河川財団・子どもの水辺サポートセンター主任研究員の菅原一成さんによると、「川の事故を防ぐには水の特性、川の特性を理解したうえで正しく対処することが大切」という。ポイントを教えてもらった。

 まず、河川財団がまとめた「No More 水難事故2023」には、川などで発生した水難事故が「いつ」「どこで」「だれが」「なにをして」「なぜ」発生したか「水難事故の5W」としてまとめられており(2003年〜2022年に国内で発生した河川等水難事故に関する報道のうち収集できた3491件の事例を分析)、事故の傾向をつかむことができる。

 川などでの水難事故は、7〜8月に年間事故件数の約50%が集中する。その過半数は14~15時前後をピークとして13時から17時までに発生。暑さや疲労、昼食後の眠気などが原因と考えられる。

 水難事故マップを見ると、過去の水難事故の発生地点を確認できる。それらには特徴があり、夏場のレジャーで利用される上流域のキャンプ場、中流域の大きな河原のある場所や付近が大半を占める。

 また、取水堰・頭首工、橋梁など河川構造物の付近で起こった事故が3491件の水難事故のうち540件(約15%)ある。河川構造物の付近は、急に深くなる場所、複雑な流れの場所がある。近寄らないこと、飛び込まないことが大切だ。

年代別では大人の事故が最も多い

 年代別で見ると、年齢幅が広い「大人」の事故が総数の約4割を占め、「子ども」に相当する幼児から中学生までの合計は全体の4分の1。同行者別に見た場合、最も多いのは「大人のグループ」で全体の約38%。

 大人が子どもを引率したグループでも事故が多く発生している。メディアでは「大人が同伴していれば大丈夫」という情報もあるが、流された子どもを助けようとして大人が事故にあうケースも多い。「大人がいれば安心」ではなく、大人も子どもも安全管理を行う必要があるだろう。

 また、子どもの事故で多く見られるパターンは、河岸から転落して溺れてしまうこと。川遊びで低水路や流れに立ち入り、深みにはまっておぼれたケース、落としたボールやサンダルなどを拾おうとしておぼれたケースなどがある。中学生になると転落するケースは減るが、危険な場所に入ったり、増水した川に入って事故に遭うケースが増える。

 では、どのような準備や対策を行うべきか。

1. ライフジャケットを正しく着用する

「川に落ちたら浮いて助け待つ」という情報があるが、プールならともかく、流れのある川で浮くのは難しい。そもそも人の体は浮きにくいし、川には流れの複雑な場所、流れの強い場所もある。

 だからこそ、川で遊ぶときは大人も子どももライフジャケットがマストアイテムとなる。ライフジャケットは「川でのシートベルト」。正しく着用することで、頭を水面から上に出せるので呼吸することができる。

 ライフジャケットには「固定式」と「膨張式」があるが、膨張式は落水時に膨らむしくみなので、常時水に入る場合は固定式を選ぶ。固定式ライフジャケットは、ホームセンター、アウトドアショップのほかインターネットでも購入することができる。

ひざ程度の浅さでも流れが速ければ流される

2. 川には流れがあることを意識する

 川には流れがあるので、プールなど流れのない場所とは別の対策が必要だ。「浅瀬なら大丈夫」という情報があるが、ひざ程度の浅さでも流れが速ければ流される。大人のひざ程度の浅さでも1秒間に2メートル程度の流れがある場合、片足に約15キロ(両足では向きにより約30キロ)の力が水平方向にかかる。だから、ぬげやすいビーチサンダルではなく、できるだけ滑りにくい運動靴やスポーツサンダル(かかとが固定できて脱げないようもの)を履く。

 大人は子どもよりも下流にいることを忘れずに。大人が子どもより上流側にいると、流されたときに救助が間に合わないし、追いつこうとしてあわてて飛び込むと2次災害が発生しやすい。

 もしも自分が流されたら(ライフジャケットを着用していることを前提として)、速い流れのある場所では、浅くて足がつきそうでも、立たずに浮く。または泳ぐ。流れに逆らって泳ぐとリスクが増すので、元の場所に無理に戻ろうとせず、下流側の流れの緩やかな場所へ避難する。

「『川では泳いではいけない』という情報がありますが、強い流れを回避する場合は泳ぐ必要があります。ライフジャケットを着用した状態であれば、リスクを軽減しながら泳ぐことを推奨すべきです」(菅原さん)

川遊びに必要な「3つの情報をチェック」

事前や遊んでいる最中にも情報の確認は欠かせない。

(1) 遊びに行く川の特徴をチェック:前述の水難事故マップで過去の河川等水難事故発生地点を確認する。事故が多発している箇所は地形や川の構造、利用状況等に特徴がある。また、河川構造物があったら近寄らないこと、飛び込まないことを確認する。

(2) 天気予報をチェック:遊びに行く川の天気を知る。遊ぶポイントが晴れでも、上流で雨が降れば、その水が下流にやってきて増水する。雷雨など急な気象変化について、自分が遊んでいる場所とその上流を常にチェックする。

(3) 水位情報をチェック:川の防災情報では、全国の河川の水位などがわかる。水量が多ければ流れも強くなるから注意が必要だ。

 菅原さんは、「子どもたちは川と触れ合ことで、さまざまなことを学ぶことができます。決して意のままにならない自然や生物と向き合うことで創造力が養われます。そのためにも川や水の特徴やリスクを知り、事前の準備と安全管理をすることが重要です」と語る。

 夏休みは始まったばかり。「水辺の安全ハンドブック」(2023年版)を家族で確認して、水のレジャーを楽しんでほしい。

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橋本 淳司(はしもとじゅんじ)
Junji Hashimoto
水ジャーナリスト
武蔵野大学客員教授。アクアスフィア・水教育研究所代表。Yahoo!ニュース個人オーサーワード2019。国内外の水問題と解決方法を取材。自治体・学校・企業・NPO・NGOと連携しながら、水リテラシーの普及活動(国や自治体への政策提言やサポート、子どもや市民を対象とする講演活動、啓発活動のプロデュース)を行う。近著に『67億人の水』(日本経済新聞出版社)、『日本の地下水が危ない』(幻冬舎新書)、『100年後の水を守る 水ジャーナリストの20年』(文研出版)、『水がなくなる日』(産業編集センター)など。