「切れ味鋭い左ストレートが武器。昨年12月のスーパーライト級全日本新人王で、全階級中のMVPにも輝いた。勝負の年に、なぜ周囲の期待を裏切ったのか理解に苦しむ」(ボクシング関係者)
その男は千葉県八千代市在住の会社員・又吉淳哉容疑者(26)。2年前にプロデビューしたボクサーで、リングネームを「スコーピオン金太郎」という。
高齢女性からキャッシュカードをだまし取ったなどとして警視庁志村署が詐欺と窃盗の疑いで逮捕したのは7月19日のことだった。
「被害者は東京都板橋区の80代女性。6月9日、氏名不詳の人物らと共謀して“口座について確認したいことがあるためご自宅に伺う。銀行員にキャッシュカードを渡してもらいたい”などと女性宅に電話をかけ、銀行員を装ったスーツ姿の又吉容疑者が訪問。女性からキャッシュカードを受け取ると、コンビニのATMで現金10万円を引き出した」(全国紙社会部記者)
80代女性からキャッシュカードを騙し取った
女性宅周辺の防犯カメラの映像などから関与が浮上した。
「認否を含め黙秘している。捜査当局は又吉容疑者が“受け子”や“出し子”だったとみて、余罪の可能性も視野に調べている」と同記者。
身長170センチ、体重63・5キロ。対戦成績は9戦7勝(5KO)2敗。キックボクシングから転向し、八千代市内のボクシングジムに所属する。前出のボクシング関係者はこう話す。
「新人王決定戦では対戦相手より13センチも背が低く、パンチを打ち下ろされる不利な状況だった。しかし、ボディ連打で相手をかがませ、得意の左ストレートで2度のダウンを奪うと、最後はロープ際まで追い詰めてレフェリーストップのTKO(テクニカル・ノックアウト)。クレバーさを感じさせる勝ち方だった」
決定力のある左ストレートがリングネームの由来だ。パンチを放つ前の動きが小さいため出どころが見えず、スピードもあるため避けにくい。それが「サソリ=スコーピオン」の尾から放たれる毒針のようだからという。
「リングネームをつけたのは所属ジムの会長だ。おとこ気あふれる元暴走族ヘッドがビジネス界で活躍する人気漫画『サラリーマン金太郎』の主人公に容疑者が似ているらしく、パンチの特徴と合わせてスコーピオン金太郎となった。金太郎は、最初は笑われたらしいが、本人は“飼っていたハムスターと同じ名前で気にいっている”とか“新人王で格好いい名前と証明できた”と強がっていた」(同・関係者)
同県市原市出身で3人きょうだいの次男。離婚した母親が子どもたちを引き取り、賃貸アパートで暮らしてきた。
会社員とボクサーの二足の草鞋
キックボクシングをしていたころは「ヤンチャでケンカの延長線上のような戦い方」(知人男性)しかできなかったが、実家を離れてボクシングを始めると才能が開花した。独身で会社員とボクサーの二足の草鞋を履く。
新人王獲得は大きな反響を呼んだ。容疑者はSNSで関係者に感謝を述べ、
《自分自身何者でもないですが、諦めなければいつか夢は叶うと実感できた瞬間でした。この先報われない事もあるかと思いますが絶対に諦めません》と宣言。
支援者は、
《市原市の誇りだね》
《いい顔つきになってきたよ》
と称賛コメントを寄せていた。
又吉容疑者が表敬訪問した際、市原市の小出譲治市長は「市をあげて応援する」とエールを送り、八千代市の服部友則市長は「世界タイトルを狙ってほしい」と期待した。
年が明けて23年1月、又吉容疑者にとってさらに誇らしい出来事が。地元の先輩にあたる男性が言う。
「出身中学から講演に呼ばれたんです」
いわゆる凱旋講演。しかし、知名度は全国区でないため、体育館に集められた母校の後輩たちは「はあ?だれ?」としらけムードだったという。
在校生女子が振り返る。
「金太郎さんは新人王になったことなどを話し、“じゃあ質問ある人”と挙手をうながしました。シャドーボクシングを見たいと言った男子を壇上に呼び、目の前に立つと当たらない程度にパンチを繰り出しました。でも有名人じゃないから、生徒はほとんどシーンとしていました」
別の男子生徒のリクエストで腕相撲をすると、ギリギリで勝ち、
「この人めっちゃ強い!」
と挑戦した生徒をたたえた。
おおむね話はスベったようだが、SNSのIDを尋ねられ「言うから覚えてよ!」と返したときは笑いを取った。
「中学時代から目立ちたがり屋だったと話し、“みんなの視線を浴びている今、めっちゃ幸せ”って。“僕もチャンピオンを目指して頑張るので、みんなも夢に向かって頑張ってください”との言葉は私には刺さったのに、逮捕後の黙秘はずるいと思います。あんなに堂々と話していたのだから、やっていないならばやってないと言うべきだし、やったならば認めて罪を償わないと」(別の女子生徒)
在校生らは逮捕のニュースに「あの先輩やっちゃったね」とがっかりしたという。
今年5月の試合で、対戦相手の右ストレートに苦しめられてまぶたの上部を切りTKO負け。その約1か月後に犯行に及んだ。
所属ジムの会長は、
「試合に負ければショックなのはみな同じ。逮捕当日も朝練を頑張るなど変わった様子はありませんでした。前夜のスパーリングも動きがよく、“いい感じだぞ”と声をかけたほどです。会社員の仕事で十分な給料を貰っていたし、ファイトマネーも渡していました。犯行動機は見当もつきません」と力なく話す。
チャンピオン狙える有望ボクサーだったのに…
会長の指導によって、別人のように成長したという。
「何を教えても覚えるのが早かった。スタミナがつき、ボクシングを勉強して頭を使うようになり、相当努力してきました。周囲からは“(チャンピオンベルトを)巻けるよ”と言われていたんです。被害に遭われた方は私の母親と同世代です。容疑が事実ならば残念だし許せない。ジムのスタッフや一緒に練習する選手たち、選手に憧れて練習する子どもたちのことを考えるとやるせない気持ちになりますが、ジムとしては信頼回復に向けて頑張ることしかできません」(同・会長)
母校の後輩に語ったように夢を追いかける状況ではなくなった。いくら“目立ちたがりや”でも、こんな悪目立ちは本望ではあるまい。