トゥクトゥクとはタイなど東南アジアで普及しているバイク型の三輪タクシー。エンジン音が「トゥクトゥク」と聞こえることが名前の由来だが、日本ではその特徴的なエンジン音がしない静かなトゥクトゥクが注目され始めている。それがEV(電動)トゥクトゥク。軽自動車の半額程度の価格でメリットも多いようだ―。
Snow Manのラウールの発言で注目!
6月27日、20歳の誕生日を迎えたSnow Manのラウールがインスタライブにて「(免許を取ったら)黒のトゥクトゥクみたいな車に乗りたい」と発言。SNSでは「なんでトゥクトゥク?」「長い脚がはみ出しそう」とその意外性がファンの間で話題となった。
芸人の千原せいじは愛用者のひとり。3月には自ら運転する電動トゥクトゥクに乗って旅をする『旅は道ヅレ! 千原せいじの関西トゥクトゥク旅』(テレビ大阪)も放送された。
「『面白い乗り物やなあ』と、千原せいじさんが弊社店頭に展示していた電動トゥクトゥクに興味を示されたのが3年前。実際に試乗して気に入り、ピンクの車体を購入。ご自身のYouTubeチャンネルでも紹介してくださいました」
と話すのは、株式会社ビーグルファン代表取締役の松原達郎さん。
同社では2019年に3人乗りの電動トゥクトゥクである『EV TUKTUK』を発売。2021年1月からは大手家電量販店のヨドバシカメラでの販売もスタート。
「EV TUKTUKの原動機は1000Wでしたが、現在はそれを2000Wにパワーアップさせた『ETT-NEO』という車種をリリース。今後はビックカメラでも販売されることが決まっています」(松原さん、以下同)
ETT-NEOの車両本体価格は88万円(税込み)。別途ナンバープレート取得や自賠責保険などがセットになった納車パックの購入が必要となる。これらを買ったらすぐ乗ることができる?
「電動トゥクトゥクは日本の法律では側車付軽二輪という扱い。運転するには普通自動車免許が必要となります。ただし、自動車では必須の車庫証明や車検が不要。ヘルメットの着用義務もないため、普通自動車免許を持っている方なら誰でも買ってすぐ乗車が可能です」
千原せいじも動画内で「静かで快適」とコメントしていたが、愛用のユーザーからは大好評とのこと。そのスペックを以下に紹介する。
「前に運転席、後部座席は2人乗りで最大3人の乗車が可能ですが、車幅は約1mと非常にコンパクト。小回りが利くため、狭い場所でもスムーズにUターンできます。駐車スペースがない場所でも止めることができます」
外出先ではバイク用駐輪場に駐車できるので駐車場代の節約にもつながる。そして、最高時速は時速50km。
1回の充電にかかる費用は100円弱
「一般道ならほとんどの場合、交通の流れに乗って問題なく走行できます。ただし、他の車がビュンビュン飛ばすような幹線道路はバイクのように左端によけての走行が安全。また法定最低速度が時速50kmと定められている高速道路には乗ることができません」
バッテリーは取り外すことができ、家庭のコンセントで手軽に充電できる。
「1回の充電にかかる費用は100円弱。自動車なら2年ごとに必要な車検代も不要で、維持費が大幅に安くすむ点がお客様に喜ばれています。ちなみに、1回の充電で70km程度は走れるので、走行途中に電池切れになる心配はほぼなし。別売りのスペアバッテリーを搭載すれば、さらに長距離を走ることもできます」
いざというときに便利なのが、バッテリーを電源として使用できること。
「USBケーブルを最大で20個つなぐことができるので、一度に20人分のスマホを充電できます。フル充電の状態ならそれを10回繰り返せるため、要は200人分のスマホ充電が可能。また、照明をつけたりIHケトルでお湯を沸かしたりすることもできるので、災害時など停電したときにはかなり役立つはず」
近年は自治体や企業からの注文も増えている。
「例えば和歌山県すさみ町は道路が狭く、普通自動車ではすれ違いが困難な場所が多いとのこと。そこで観光用に弊社の電動トゥクトゥクを3台購入。今では観光客にレンタルされているそうです」
しっかりした屋根があるのもいい点。
「埼玉ヤクルト販売でも採用されていますが、以前は電動アシスト自転車を使用されていて、運んでいる最中に直射日光で商品がぬるくなるのに困っていたそうです。
しかし電動トゥクトゥクなら屋根があるため、商品をいい状態で運搬できるようになったそう。たくさん積めるのも利点で、いったん販売所に商品を取りに戻る必要がなくなったため、配達効率が上がったと聞いています」
雨天時も屋根のおかげで濡れることなく配達できる。また、バッテリーをうまく活用している企業も。
「ガソリン車が使えないトンネル内工事での運搬用に電動トゥクトゥクを採用してくださったのがユアサ商事。小回りが利くので狭いトンネル内でも楽々移動ができ、作業員の方々の休憩時にはバッテリーでお湯を沸かしてコーヒーを飲むなど、便利に使ってくださっているようです」
自治体や企業でその特長をフルに活かした活用がなされているが、もともとは子どもの送り迎えや高齢者の近隣移動に役立ててもらうことが開発の目的だった。
「私は子どもが2人います。幼いころは子ども乗せ自転車で移動できましたが、成長すると1台の自転車には乗せられないし、かといって3台の自転車で移動するのも危なっかしくて、車を使うほどではない近隣の移動が不便になることがわかりました。そこで、子ども乗せ自転車を卒業したご家族向けに、と電動トゥクトゥクを開発したんです」
大きな音を嫌がる子どももいるが、電動トゥクトゥクは静かなのでその点も安心。
「後部座席の座面はお尻の位置に近い高さなので、足が不自由な高齢者の方が乗り降りしやすいのもいいところ。ですから介護中の方や介護施設などの送迎でも重宝されています」
車体が傾かないのも特長
実際、一般からの問い合わせで一番多いのは30~40代。次に50代が続くとのこと。男女比でいうと女性は3~4割だが、男性が妻のために購入するケースも多く、女性ユーザーが多いことがうかがえる。そこで気になるのが運転のしやすさ。
「電動トゥクトゥクは発進やブレーキなどの操作をすべて上半身で行います。足を使うことがないので女性や高齢者の方でも運転しやすいのですが、初めて乗る場合、当然ながらレクチャーが必要。そこで、納車時には必ず運転操作の説明を行っています」
バイクや自転車と違って、停車時や曲がるときに車体が傾かないのも特長。
「直立型の車体で、停車時に足で支える必要がないのも女性や高齢者にやさしい点。ただ自転車などに乗り慣れている方は、曲がるときに車体が傾かないことに最初のうちは違和感を覚えることもあるようです」
新しい乗り物なので、もし乗車中に動かなくなったら、という不安もあるが……。
「弊社はJAFに加盟済み。ですから万が一、路上で故障しても連絡すれば自動車と同じくロードサービスを受けることができます」
温暖化対策としてCO2削減が叫ばれている昨今。環境にやさしい電動モビリティーはますます普及していくことが予想される。ガソリン代高騰の今、検討してみては?
取材・文/中西美紀