税金は納める金額が少ないと税務署などから指摘されるが、たとえ払いすぎていても、税務署が教えてくれることはない。
大きな額になることが多い相続税と固定資産税も、実は払いすぎている可能性があるので要注意だという。
税金の払いすぎも過払い請求できる
「親などから不動産を相続する場合、相続税の額は不動産の評価額がポイントになります。税の申告は税理士に依頼することが多いと思いますが、相続に強い税理士とそうでない税理士がいて、あまり詳しくない税理士にお願いすると、減額できる特例事項を見逃したり、実際の市場評価より高く見積もって申告したりする例も少なくありません」
そう教えてくれたのは、税理士事務所代表の服部大さんだ。
「相続に強い税理士を選ぶには、事務所のHPに相続税申告を多く取り扱っているなどと書いてあるところがおすすめです。また、相続税の金額が妥当なのかどうか、別の税理士にセカンドオピニオンを求めることも可能です」(服部さん、以下同)
もし払いすぎている場合は5年以内なら取り戻すことができる。親族から土地や建物を相続し、金額に納得がいかない人は相続に強い税理士を探してみてはどうだろう。
5年どころか、場合によって最長20年さかのぼって「過払い金」を取り戻すことができるのが固定資産税だ。
土地や建物などの固定資産税は、減免措置の適用もれや古い図面で計算したなどの単純ミスも少なくないという。
総務省の調査では、固定資産税の取りすぎで減額修正された件数は、全国で25万件以上(2009〜2011年)にのぼる。
「毎年4月ごろに自治体から固定資産税の明細書が届くので、金額がおかしいと思ったら明細書の電話番号に問い合わせるのが最も確実です。
自治体の計算違いが明らかになれば、払いすぎたお金を取り戻すことができますが、過去の明細書など必要な書類がそろっていることが条件です」
固定資産税を払っている人は要チェックだ。
思い当たる人は早めに手続きを!
相続税や固定資産税より身近な「払いすぎ」が医療費と介護費だ。
例えば、収入が年金のみの世帯の多くが当てはまる住民税非課税世帯の場合、「高額療養費制度」を使えば、70歳以上なら1か月の医療費の上限は1世帯あたり2万4600円。一方の介護費は「高額介護サービス費」を利用すれば同じく1世帯の上限は2万4600円だ。
これらの制度を使えば医療費、介護費とも上限を超えた金額が払い戻されることは知られているが、2つの制度を合算してさらにお金を取り戻すことができる「高額医療・高額介護合算療養費制度」のほうはあまり知られていない。
「例えばさきほどの住民税非課税世帯の夫が医療サービス、妻が介護サービスを受けているとしたら、8月1日から翌年7月末までの1年間、夫婦の医療費と介護費の合計額が31万円を超えた金額が還付されます」
もし夫婦それぞれが月に上限の2万4600円を払っている場合、年間59万400円の出費だが、さきほどの制度を申請すると上限額の31万円を引いた28万400円を取り戻すことができるのだ。
申請するには介護サービスは自治体、医療サービスは加入している医療保険に書類を提出。自治体から送られてくる「介護自己負担額証明書」を添付し、医療保険に申請する。お得な制度なので、手続きが面倒だが取り逃すことのないようにしたい。
また、介護関連でいえば、最近は自宅をバリアフリーにリフォームする人への支援も手厚い。国から工事費用が最大18万円まで支給されることに加え、独自の助成金制度を設けている自治体も多い。
さらに、バリアフリーのリフォーム代は、税金が還付される「リフォーム減税」や「バリアフリー住宅特定改修特別税額控除制度」も利用することができるのがうれしい。
「『バリアフリー住宅特定改修特別税額控除制度』は、例えば、標準的な工事費用が300万円で、補助金が100万円だとすると、最大で200万円の10%、20万円が所得税から控除されます。
令和5年12月末までの制度ですが、高齢化を背景に制度が継続になる可能性も高いので、来年以降にリフォームを予定している人もチェックしておきたいですね」
葬式代や交通費も払い戻される!
誰もが経験する家族の死にも、お金を取り戻せる制度が。
「国民健康保険の場合は葬祭費、協会けんぽなどの場合は埋葬料が支給されます。金額は葬祭費、埋葬料とも5万円前後が多く、自治体によって3万円から7万円と幅があります。申請に必要なのは故人の保険証と死亡診断書。領収書を求められる場合もあるので、葬儀や埋葬の領収書は残しておきましょう」
家族が亡くなると葬儀などで忙しく悲しむ暇もないかもしれないが、葬儀費用の申請は忘れないようにしたい。
定年後の再就職を考えている人にもお得な制度がある。
「名称は『広域求職活動費』。国がIターンを促進しているので、定年後に限りませんが、ハローワークで遠方の再就職先を紹介されて面接に出向く際、往復200km以上の交通費が支給される制度です。400km以上の場合は宿泊費も支給されます。
ハローワークから『広域求職活動指示書』を受け取り、面接先の企業に記入してもらい、『支給申請書』を添えてハローワークに提出します」
一度支払ってしまっても取り戻せるお金が結構あるのだ。多少面倒な手続きが必要な場合もあるが、食料品の相次ぐ値上げなどお財布が軽くなりがちな今日このごろ、余計に払ってしまったお金はしっかり取り戻したい。
取り戻せる!6つの「払い済みのお金」
相続税
請求先:税務署 期限:5年
不動産を相続する際、不動産評価に強くない税理士に相談すると、適正価額より高く見積もられて余計に相続税を払うこともある。5年以内に請求すれば還付される。
固定資産税
請求先:自治体 期限:最長20年
土地や建物など固定資産税が高すぎると思ったら、自治体から送られてくる明細書を入念にチェック。リフォームなどの減税分が反映されていないと払いすぎにつながることも。
医療費・介護費
請求先:自治体と医療保険 期限:2年間(8月1日〜翌年7月末)
医療費と介護費を夫婦で合算、上限額を超えたお金が戻ってくる。「高額療養費制度」「高額介護サービス費」と併用できるので、思い当たる人は今すぐ確認して申請したい。
バリアフリーのリフォーム代
請求先:自治体、税務署 期限:1年間
介護のために自宅をリフォームしたら、かかったお金を取り戻すチャンス。国からの給付金、自治体からの助成金、税金の控除とトリプルで払いすぎたお金を取り戻そう。
葬祭費・埋葬料
請求先:自治体など 期限:2年間
家族が亡くなると、葬祭費や埋葬料として5万円前後が自治体などから戻ってくる。亡くなった人の親族なら、喪主でなくても申請は可能だ。
再就職の面接交通費
請求先:ハローワーク 期限:10日間
ハローワークで紹介された再就職先が遠方の場合、10日以内に書類を提出すれば交通費や宿泊費が返金される。Iターンを考えている人は事前に知っておきたい制度。
取材・文/田村未知(さくら編集工房)