一般的に40代から始まる更年期。更年期になると、女性ホルモンの分泌量が急激に減少することで自律神経の働きにも大きな影響を与える。
女性ホルモン減少が悪臭の原因に!
のぼせ、不安感、イライラ、重だるさなど、さまざまな症状が現れるが、こういった更年期症状のひとつに「体臭」もあることをご存じだろうか。
実は、女性ホルモンには体臭を抑制する働きがある。ホルモンの減少でこの働きが弱まることが、“更年期特有の体臭”の原因に。この特有の体臭は、ひとつの強い体臭ではなく、3種類の体臭が混ざり合うことでより複雑なニオイになってしまうのだ。
1つ目は、加齢臭やミドル脂臭。更年期を境に酸化しやすくなった皮脂や、皮膚上の常在菌がまざり、使い古した油のようなニオイを発する。
2つ目は汗臭。ホットフラッシュが起き発汗が増えることが原因で、汗の成分が皮膚上の常在菌に分解されて生じる、強い酸のニオイだ。
さらに、更年期特有の自律神経の乱れによってストレスや緊張を感じやすくなると、ベタベタとした汗をかきやすくなり、アンモニアのようなニオイが特徴の疲労臭を発するようになる。
東海大学理学部教授の関根嘉香さんは、「ほとんどの人は自身の体臭に気づいていません」と話す。
「自分が発しているニオイは、常に自分で嗅いでいる状態。そのため、鼻が慣れてしまい、ニオイを感じにくくなっているのです。たとえ体臭がきつくても、本人はまったく気づいていないなんてことも少なくありません」(関根さん、以下同)
特に、香水やボディクリームを使う人は、体臭とそれらのニオイが混ざることで悪臭へと変化する場合も。近年では、「スメハラ(スメルハラスメントの略語)」なんて言葉まであることを考えると、決して人ごとではない。
洗っても落ちない!血液由来の体臭
とはいえ、体臭のほとんどは市販されている殺菌作用のあるシャンプーやボディソープを使ったり、こまめに汗を拭いたりすることで対策ができる。
「ただ、体臭のなかには、洗ってもニオイが落とせない“疲労臭”というやっかいなものがあります。その名のとおり、疲れがたまったり、精神的なストレスが蓄積したりすることで発生します」
疲労臭は鼻につくようなツーンとした刺激臭。なぜ、身体からこんなニオイがしてしまうのか。
「疲労臭の原因であるアンモニアは、タンパク質が腸で分解されるときに作られます。健康な人であれば、腸で作り出されたアンモニアは、その後、肝臓で分解されて無毒化・無臭化されますが、疲労やストレスによって肝機能が低下していると、アンモニアが分解されずに血液から汗の中に排出され、『皮膚ガス』として全身から放散されるのです」
皮膚ガスとは、体臭のもとになるガスのこと。生きていれば誰でも発するもので、現状わかっているだけでもおよそ300種類もあるという。
疲労臭はほかの体臭とは違い、血液からニオイ成分が放散されているため、部分的ではなく、全身からにおうのも特徴。洗ったり、拭いたりといった表面的な対策だけではニオイを防ぐことは不可能だ。
では、疲労臭に効果的な対策法とは?
「疲労臭の発生メカニズムには、大腸が深く関わっています。なので、身体の内側からの対策が必要です」
関根さんは、大腸内のビフィズス菌と疲労臭との関係を調べる実験を実施。
「ビフィズス菌が作り出す短鎖脂肪酸という物質に、疲労臭の原因であるアンモニアを腸内で中和する作用があるとわかりました。短鎖脂肪酸とは、大腸内にいるビフィズス菌などの善玉菌が、オリゴ糖や水溶性の食物繊維を食べたときに作り出す代謝物です。
大腸内を弱酸性に保ち、アンモニアを産生する腸内細菌(悪玉菌)の働きを抑制すると考えられます。疲労臭対策として腸内環境も日頃からケアをすると良いでしょう」
腸内環境を改善して疲労臭を徹底予防!
つまり、疲労臭対策には、腸内環境を整え、大腸内の短鎖脂肪酸を増やすことが重要。
「ビフィズス菌を含むヨーグルトなどの食材とともに、ビフィズス菌のエサとなる水溶性食物繊維やミルクオリゴ糖が多く含まれる、豆類、いも類、根菜類、海藻類、果物をとることがおすすめです。
また、基本的な対策として、バランスのいい食生活や適度な運動、良質な睡眠をとるなど、生活習慣を改善して、健康な状態を保つことも体臭を軽減するためにはとても大切です」
加えて、関根さんはストレスケアの重要性について次のように話す。
「心身にストレスがかかると、肝臓の働きは急激に低下します。ストレスは身体を酸化させることにもつながり、皮脂のニオイも強くしてしまいます。疲労臭をなくすためには、日頃からストレスや疲れを残さないことも重要だといえます」
体臭チェックは健康のバロメーター
ここまでニオイの種類や対策法について解説してきたが、前述のとおり自分の体臭がにおっているかどうかは、確かめるのが難しい。何か方法はないのか?
「自分の体臭がにおうかどうかを確認するための方法として、着ていた服や下着、枕カバーなどをビニール袋に入れ、そこに少し空気を入れて袋を閉じます。
次に一度、外の空気を吸うなどして鼻をリフレッシュさせてください。その後、ビニール袋の中を嗅ぐと、なんとなくですが自分の体臭がわかります」
ネガティブなイメージが強い体臭だが、実は“健康のバロメーター”として捉えることもできるそうで──。
「そもそも自分の体臭は健康な状態であれば気にならないものなのです。『アレ? ちょっとにおうかも……』という人は、身体のどこかに不調を抱え込んでいる可能性も。長期間ニオイが気になる場合は、かかりつけ医に相談するのも良いかもしれません」
今回取り上げた更年期の体臭について、「もしかして自分もにおっている?」と考えるとナーバスになりがち。けれど、体臭を気にしすぎてストレスがたまると、疲労臭の原因となり悪循環に。
原因となる食生活や生活習慣などを見直すことで、体臭を気にしない、健やかな毎日を過ごしてもらいたい。
あなたのニオイは大丈夫?簡単体臭対策法
疲労臭
・腸内環境を整える
ビフィズス菌を含む食品と一緒に、水溶性食物繊維やミルクオリゴ糖を含む豆類、いも類、根菜類、海藻類、フルーツなどをとるのがおすすめ。
・疲労やストレスをためない
睡眠や食生活など、規則正しい健康的な生活を心がけることで、疲労やストレスを解消させること。クエン酸を多く含む、レモンや梅干し、黒酢などをとるのもおすすめ。
・便秘予防
オルニチンを含む、しじみやぶなしめじ、チーズ、キハチマグロなどをとるのがおすすめ。食物繊維を多く含む、きのこ類も◎。
加齢臭・ミドル脂臭
・殺菌作用のあるシャンプー、ボディソープを使う
汗臭
・汗を素早く拭き取る
・体臭を強くする食材(にんにく、玉ねぎ、激辛フード、酒など)を控える
・汗腺トレーニング「手足高温浴」
入浴時に、肘から先と膝から下を42度程度の湯に10〜15分つける。汗をかかないと汗腺が退化して悪臭の原因になるため、日頃から適度に汗をかくことも大切。
(取材・文/鶴町かおり イラスト/上田英津子)