木原誠二官房副長官

「正式な発表ではね、適正な捜査で証拠品を基にしたら、自殺だと。しかし、自殺だと認められる証拠品は存在しないんです。これは断言します。だから事件なんです」

 7月28日、東京・文藝春秋本社で会見を開き、こう語ったのは元警視庁捜査1課の佐藤誠氏だ。

 過去5週にわたって『週刊文春』が木原誠二官房副長官の妻・A子さんの元夫・安田種雄さんが'06年に不審死した事件について報じている。佐藤氏は、この事件の捜査に携わっていた。

会見にメディアが殺到

『週刊文春』は、事件を巡ってA子さんが重要参考人として警察から任意の捜査を受けていたことを報じている。さらに、当時A子さんの取り調べを担当していた佐藤氏の証言も掲載したうえで、当時・自民党の情報調査局長だった木原氏が、その立場を利用して当局に圧力をかけて捜査を終了させた疑惑にまで言及している。

 会見には、新聞・テレビなどの主要メディアを中心に、約140人が参加。着席で45席の会場に、詰めかけていた記者が、入りきらないほどだった。

 それほど、多くの注目が集まる『週刊文春』のスクープではあるが、メディアの動きは鈍い。

 7月20日には、安田さんの遺族が捜査の再開を求めて会見を開いたが、これを報じたのは一部の新聞とWEBメディアだけ。それが佐藤氏の会見後、“疑惑”について主要な新聞・テレビも少しずつ報道を始めた。しかし、会見の内容や疑惑に対する政府コメントを報じるにとどまる。

 松野博一官房長官は、7月28日の会見で、一連の報道について木原氏から「私が捜査に圧力をかけたとのご指摘は事実無根」との説明を受けたことを明かした。

「裏からコソコソと…」

 しかし、自民党内部ではこんな声も上がっているよう。

「木原さんは取材を避けるため、裏からコソコソと官邸に出入りしているようだが、事実無根と言うなら表に立って説明するべき。そういった声は野党だけでなく、自民党内部でも上がっている。次の衆院選への影響も囁かれるが、テレビのワイドショーで取り上げられないため、国民の多くは“疑惑”を知らないのでは。そのため報道が沈静化すれば、影響はそう大きくないかもしれない。内閣改造で木原さんを外す話もあるが、どうか……」(自民党関係者)

 つまり、権力を恣意的に利用した“疑惑”を追及する声がやめば、適正な説明がされぬまま木原氏が権力の中枢に居座り続ける可能性がある。木原氏はすでに1か月、公の場に姿を現していない。

7月20日、東京・霞が関の司法記者クラブで会見を開いた安田種雄さんの父親

 これまで数々のスクープでテレビのワイドショーをにぎわせてきた“文春砲”だが、木原氏の疑惑についてはどこも取り上げない。どうしてか。民放報道記者に話を聞くと、

「殺人などの強行犯の事件は、警察の捜査情報を基に報じている。そのため警察が逮捕したというお墨付きの事実がなければ、大々的に扱えない。ウチも以前、この疑惑について警察幹部に取材をしたようだが“事件化はしない”と言われたそう。さらに今回、警察庁長官も“事件性はない”と言うなら、それ以上は踏み込めない。殺人も絡む疑惑だけに、ワイドショーでコメンテーターが誤ったことを話せば一大事。名誉毀損で済む話ではない

 そしてこんなことを明かす。

「木原氏の妻が警察の捜査を受けていたことは、かなり前から記者の間で噂になっていた。文春も1年ほど前から水面下で動いていたようだ。報道に携わる立場として追及したい思いはあるが……」(同・民放報道記者)

 木原氏が公の場で説明する日は来るのか─。

 

石原伸晃と肩を組んで記念撮影をする木原官房副長官(石原伸晃公式Twitterより)

 

佐藤誠氏の会見には、会場に入りきらないほどの記者が詰めかけていた

 

ときおり涙を流し言葉を詰まらせながら、コメントを読み上げる安田さんの父親

 

木原誠二官房副長官