韓国発の科学マンガ『サバイバル』シリーズが日本や中国、タイ、フランスなど、さまざまな国で翻訳され、世界中で2000万部も読まれている大ベストセラーに。そして、今、いちばん勢いに乗っているのが『つかめ!理科ダマン』。日韓で累計140万部を突破し、Amazonでは本の総合ランキングで常に50位以内に入っている。“韓流学習マンガ”がなぜ支持されているのか―。
昨今の“理科離れ”も人気の背景
韓流ブームはこの数年のK-POP、韓国美容、ドラマや映画も追い風となり、とどまるところを知らない。そんな中、“マンガ”で注目すべき韓流の波がある。
日本の書店にも並ぶ韓国発の“科学学習マンガ”だ。累計1300万部以上売れている科学マンガ『サバイバル』シリーズ(朝日新聞出版)はもともと韓国で出版されたもの。他にも科学マンガでは『Why?シリーズ』(世界文化社)も韓国発だ。
「韓国で学習マンガがヒットする現象には、現地の受験事情も関係しているのかもしれません」
と話すのは韓国発の科学マンガ『つかめ!理科ダマン』シリーズを日本で発行するマガジンハウスの編集担当。
「韓国は受験大国で、大学受験に合格するかしないかで人生が決まるともいわれています。そんな子どもたちの学習意欲を高め、本嫌いな子どもでも楽しく本を読めるようにと工夫した結果、マンガと学習を組み合わせた書籍が韓国では数多く作られて人気を博しているのだと思われます」
韓国の受験は日本よりも過酷なことで知られている。子どもたちは放課後の自由時間がほぼないという多忙ぶりだ。
一方、日本でもまだ高学歴志向はあり、小学生から塾通いをさせる家庭も多い。
前出の編集担当は、
「『このマンガのおかげで、理科が大好きになりました』という声も届いています」
と話しつつ、昨今の“理科離れ”も人気の背景にあるのではないかと指摘する。
「テクノロジーが急速に広がっている中、科学技術の発展を担う理系人材の育成が課題となっています。
しかし、経済産業省が公表した『未来人材ビジョン』によると、『理科を使う職業につきたい』という中学生は国際平均57%に対し、日本では27%と低くなっており、日本は探究的な(正解のない)理科学習が少なく、子どもたちが『科学の楽しさを感じる』機会に乏しいのではないかと分析されています」(マガジンハウス編集担当、以下同)
日本でも科学の楽しさを伝える学習マンガが求められて、ブームになっているのかもしれない。
楽しさを伝えるという意味では、『つかめ!理科ダマン』は他の科学マンガとは違う特徴がある。
ウェブトゥーンで29億PVを誇るヒット作
「もともとウェブトゥーンで’09年から連載されていた『離さないで!精神線』という日常系ギャグマンガがありました。若い世代を中心に29億PVを誇るヒット作。そこに学びの要素を入れ児童向けの書籍として制作されました」
ウェブトゥーンとは“ウェブ”と英語でマンガを意味する“カートゥーン”を組み合わせた造語で、韓国発のデジタルマンガ。
作品が縦スクロールで展開し、全編カラーというのが大きな特徴だ。コメディー、ラブストーリー、ファンタジーまでさまざまなジャンルの作品があり、Netflixなどでは『梨泰院クラス』のように、ウェブトゥーン原作のドラマ化が増えている。
『つかめ!理科ダマン』を出版した韓国の大手出版社WisdomHouseの編集担当に、なぜウェブトゥーンをもとに出版したのかを聞いた。
「2009年に韓国のプラットフォーム『Naver』でウェブトゥーンが連載されました。10代のユーザーにすでに人気があり、10年も連載していた時点だったのでファンも確保されている状態でした。当時、ウェブトゥーンが書籍化されることも多く、それも好評だったため、この“ファン”のための本を作ってみようと思いました」
ウェブトゥーンは韓国のみならず、世界に広まっている。日本においてもLINEマンガやピッコマなどで“韓国発”と気づかず夢中になって読んでいる人も多いのかもしれない。しかし、科学をテーマにしたのはなぜ?
「ギリシャ神話、韓国史、世界史なども候補にありましたが、類書が出版されていることと、著者が科学に好感を持っていたこと、また、科学が学校の主要科目であることなどが理由です」(WisdomHouseの編集担当、以下同)
科学は韓国でも重要科目。しかし、マンガの内容は“面白さ”に比重を置いた。
「どうしても原作のある本なので、キャラクターの世界観を崩さないように気をつけました。面白おかしいストーリーで、子どもたちに身近な科学の情報を伝えることを心がけた。このシリーズと他の科学の学習マンガとの差別化は、著者のシン・テフン氏、イラストのナ・スンフン氏だからこそ作り出せました」
原作の世界観を重視したことが功を奏し大ヒット。
親同士の口コミやSNSでじわじわと話題に
「1巻が発売され、続巻を出し続けていたら、読者から爆発的な反応が出るようになりました。弊社へ続巻のお問い合わせ電話が相次ぐようになり、今もお問い合わせのメールや電話を受けています。
韓国大手書店でベストセラー総合10位圏にも入り、子ども分野の1位を獲得したこともあります」
日本でも親同士の口コミやSNS、塾の先生のおすすめなどでじわじわと話題に。お受験YouTuberとして有名な受験指導専門家にも紹介された。
「勉強や堅い読み物が苦手な子でも『この本は楽しい!』という感想が続々と寄せられています。『文字を読むという習慣がなかった息子も、これは少しずつでも読み進めていて時折、爆笑。その姿に感動した』『どんなものかと自分も読んでみたら、ゲラゲラ笑っていた。身近な疑問もクリアになっていた』と、親御さんにも歓迎されています」(前出・マガジンハウス編集担当)
日本で人気に火がついたのは今年に入ってからだという。4巻目が7月25日に発売され、日韓累計140万部を超えるヒット作品に。ウェブトゥーン原作の作品は今後も増えるのかも。
夏休みも後半、ドラマや映画だけでなく、韓国発の学習マンガも楽しみになる!?
取材・文/諸橋久美子