いまや日本の住宅の約7戸に1戸は空き家。
空き家増加の背景には、世帯数の伸び以上に新築を建てすぎたことや、少子高齢化が進み、親が高齢者施設に入ったり入院したまま亡くなった際に、親が住んでいた家を放置してしまう人が増えたことにある。
空き家の放置は手間や金銭的負担を招く
そんな空き家問題の深刻化に伴い、“実家じまい”を検討する人が増えているのをご存じだろうか。
「空き家を放置しておくことのリスクが認識され始めた表れでしょう」
こう語るのはNPO法人 空家・空地管理センター代表理事の上田真一さん。
「親の死後、子どもが実家を相続した場合に多いのは、自分たちの住まいから遠く、扱いに困り空き家のまま放置となるケースです。
放置された空き家は老朽化による倒壊をはじめ、庭木や雑草の繁殖による景観の悪化、不審者による放火など近隣住民に深刻な被害をもたらしかねないため、所有者に適正な管理を義務づける法律(通称・空家等対策特別措置法)ができました。
法整備により管理の手間や金銭的な負担を余儀なくされるのと、最悪の場合は行政処分として過料が科せられることを受け、当センターでも、“負の資産”となりうる実家の処分、つまり、実家じまいの相談が多くなっています」(上田さん、以下同)
親が高齢なら実家じまいは他人事ではない。その日に備え、ノウハウを知っておこう。
実家の処分でもっとも揉める問題はこれ
「実家じまいは、処分の方法、時期、条件の3つを話し合うことが第一歩になります」
方法とは大きく分けると、実家を売るか貸すかの選択。時期とはその選択を実行するときを指し、条件とはいくらで売るか、リフォームにいくらかけるかなどを意味する。
「3つの中で一番ハードルが高いのが時期です。兄弟姉妹が多いと大抵意見は合わないもの。例えば『管理が大変だから、近所に迷惑をかける前に処分しよう』と一人が言えば、『おまえは薄情だな』『親が死んだらすぐ金にするのか!』などと反論する人が出てくるわけです。
思い出の詰まった実家だからこそ揉めやすく、まとまらないまま時間がどんどん過ぎていくのはよくあるパターンですね」
すると前述した空き家放置の状態になり、管理の手間や金銭的負担を強いられてしまう。どうすればいい?
「私たちは先にスケジュールを組むようアドバイスします。いつまでにどうするか、決断のゴールを早めに設定するということです。目安は1年。1年以上になると、どうしても腰が重くなります。
遺品の整理は可能なら半年をめどとする。そうすれば盆か暮れかに兄弟姉妹で集まって片づけを行いつつ、実家じまいの話し合いができるでしょう。なお遺品整理は罪悪感を覚えやすく、作業の遅れにつながることも少なくありません。
ですから自分たちである程度やったら、あとは業者に任せたほうが精神的にも体力的にも楽ですよという助言をよくしています」
売却を選ぶ人が9割!賃貸NOの理由は
では、処分の方法はどうか。上田さんが代表理事を務めるNPO法人 空家・空地管理センターの例でいうと、戸建てを前提とし、最終的に相談者の9割以上が売却を決断するそうだ。
「思い入れが強い実家を手放したくなくて賃貸を検討する方もいます。都市部や地方問わず、比較的広い地域でニーズはあるはず。しかし、人に貸す場合はリフォームを必要とし、通常数百万円の費用がかかる。
投じた資金を家賃収入で回収するのに長い期間を要し、賃貸経営にはリスクも。そういった現実を知ると、賃貸ではなく売却の判断をする方が圧倒的に多いのです」
売却では不動産会社に買い取ってもらうのがセオリー。実家所有者を売主とした際に生じる手間や、金銭負担を不動産会社が担い、平均3か月以内の早さで売却成立に至るとか。
「ただし不動産会社も商売ですから、どんな物件でも買い取り対象とするわけではありません。売却しやすい都市部地域のものを基本とし、エリアが地方の田舎になるほど対象外とされてしまいます」
売却困難な田舎物件ひと工夫で人気に!
実家が田舎にあり売却したい場合、頼れる場所はない?
「あります。全国の自治体が運営する空き家バンクという窓口があり、物件の情報をホームページに掲載し、広く買い手や借り手を募ってくれる仕組みです。ただ、古い実家だと買い手も借り手も現れないのが通例。
空き家バンクで人気なのは見た目がキレイで内部も整備された『すぐ住める物件』。都市部からの移住も増えているので、リフォームを行った後に空き家バンクに申し込めば、買い手や借り手がつく可能性は高まります」
一方、今年4月からスタートした「相続土地国庫帰属制度」を利用するのも一案。同制度は相続によって取得した土地を国が引き取る新しい制度だ。土地のみを対象とし、一定の要件を満たす必要がある。
「引き取りには負担金を国に納めなければならず、対象が土地のみなので建物の解体費用など相応の資金も必要です。うまみがないと思うかもしれません。が、実家が売れず空き家のままだと税金や維持費がかさんでいき、リフォームして売却してもプラスになるとは限らない。
皆さん、プラスか最低でもトントンを想定していますが、マイナスもありうるんです。自分の代で負の資産を断ち切るために、国の新制度を利用するのもひとつの選択肢といえます」
事前の情報収集と親との話し合いは必須
実家じまいの形は多種多様。悩んで立ち止まるのではなく、早めに相談窓口を訪ねるようにしたい。
「役所など自治体で空き家相談の窓口を設けているところも少なくありません。自治体によってはリフォームや除草などの費用の補助が受けられるケースも。事前の情報収集が何より大事です」
また、親が元気なうちに実家の扱いについて話し合いを持つことも不可欠という。
「実家をどうしたいか、どうすべきなのかを親子で共有し、理解しておけば、いざその場面になったときに困らずスムーズに運ぶでしょう」
お盆の帰省はそのチャンス。さりげなく、上手に切り出したい。
実家じまいの3ステップ
1.処分方法を決める
実家の処分方法は大きく、売るか貸すかの2つ。都市部であればどこでも売却は望めるが、地方だと田舎にいくほど困難に。賃貸は手間や資金面がネックとなって選択する人は少ない。
2.スケジュールを組む
実家をいつまでに処分するか、早い段階でスケジュールを組むことが大切。処分の時期を先に決めないと、兄弟姉妹での話し合いはいつまでたってもまとまらない。
3.具体的な条件を決める
いくらで売却するのか、リフォームにはいくらかけるのかなど条件を決定。リフォームにかけた資金全額を回収できるとは限らない。マイナスもありうると肝に銘じること。
売却が9割
・都市部→家を残したまま売る
・地方→リフォームし即入居できる状態で売る
その他
・親族が住む
・賃貸にして運用
(取材・文/百瀬康司)