近年のカラーコンタクトレンズ(以下、カラコン)の普及はめざましい。
増え続けるカラコンの失明危機
「コロナ禍になって眼科ではなくインターネットなどで購入する人が増え、カラコン市場は無法地帯と化しています。近年は特に韓国や台湾からの輸入品も多く出回っています。あまりにも簡単に購入できるため、トラブルの数もますます増えています」
そう教えてくれたのは、コンタクトレンズに詳しい眼科医の糸井素純先生だ。
多いのは「目が痛がゆい」「目が充血した」「目にゴロゴロとした違和感がある」「視力が低下した」といった不調で受診し、カラコンのトラブルとわかる。
診察すると目の表面が傷つき、さらに痛みが出る「結膜上皮障害(けつまくじょうひしょうがい)」や角膜がただれる「角膜潰瘍(かくまくかいよう)」、角膜がむくむ「角膜浮腫(かくまくふしゅ)」などになっているケースも。
そのまま放置していれば角膜に穴があいたり、失明するおそれもあると国民生活センターも警鐘を鳴らしている。
もちろんおしゃれ用といえども、製造や輸入にあたっては厚生労働大臣の承認が、販売にあたっては都道府県知事の許可が必要だ。
「しかし、以前、国民生活センターと共同で調べたところ、承認基準に達した商品でも9割がたトラブルを招く要因が見つかりました」(糸井先生、以下同)
目の色を変える以外に通常のコンタクトレンズとの違いはどこにあるのか。
「通常のコンタクトより直径が大きく、厚みもあるので、角膜に酸素を通す『酸素透過率』が低くなります。角膜も呼吸をしているので酸素不足になれば代謝が悪くなり、視力が低下します。
さらに、調べてみるとカーブ(レンズの丸み)が日本の基準に合っていないものが多くありました」
また、カラコンはハイドロゲル素材で作られているが、そうでないものも出回っているという。
「コンタクトレンズの安全性は、水をどのぐらい含むかという『含水率』の影響が大きい。50%を切っているのはハイドロゲルではない“ひと昔前の素材”で、酸素透過性がものすごく低く、粗悪品や輸入品によく使われています。
含水率が58~60%のものは安全性がある程度は担保できますが、一般の方には区別がつきにくいんです」
そのため、国民生活センターでは、「必ず眼科を受診し眼科医の処方に従ったレンズ」を選ぶことを推奨している。また、目の健康のためには長時間装用し続けないほうが望ましい。
「カラコンを使っていて少しでも目に違和感を感じたら、手遅れにならないよう、すぐ受診するようにしてください」
まつエクの接着剤で目が真っ赤に!
3年ほど前、ブラジルでまつげエクステ(以下、まつエク)をした女性が失明したというショッキングなニュースが流れた。
日本でもまつエクによるトラブルは多い。ほとんどは「目が痛い」「目が充血した」「まぶたが腫れた、かぶれた」「目がかゆい」といった初期症状が出る。
「これらは、人工まつげをつける接着剤が原因。この成分にアレルギー反応を起こしてかぶれるんです」
日本では現状、この接着剤は化粧品ではなく、雑貨扱いとなる。何を使ってもサロンの自由だが、あまりのトラブルの多さに、美容師の養成課程で、教育の充実が図られるようになったとか。
「技術力も上がって、粗悪な接着剤を使うようなサロンは減っているようです。ただ、人工まつげが取れてくると目に入ってしまうことも。
実際、角膜潰瘍になるケースは珍しくありません。特にドライアイの人は目の表面が乾燥して傷つきやすいので、しないほうがベターだと思います」
アレルギーがある人は、どういった接着剤を使っているかなどを事前に確認してから施術を受けよう。
実験でも発生!カラコン障害
糸井先生が安全性を調べる実験を行った中で起きたカラコン障害の一例を紹介する。
表層角膜炎
角膜に“傷”がついた状態。カラコンの着色部位が露出して傷がついたり、カーブが合っていないレンズが回った跡が残る。
角膜潰瘍(かくまくかいよう)
レンズの酸素透過性が低いために起こった「角膜潰瘍」。酸素不足で、ひどいときは角膜に穴があき、失明することも。
近視の進行によって目の老化が早まる!
近年、世界中で近視が急増している。コロナ禍を経てスマートフォンやタブレット、PCを長時間使用する機会も増えたのではないだろうか。
文部科学省が行った2022年の学校保健統計調査では、年齢が上がるにつれ裸眼視力が低い子どもが増え、視力1.0未満の中学生は過去最多の60.28%だった。
問題なのは、近視が失明につながる可能性もあること。
「割合は多くありませんが、遺伝的に近視から失明につながりやすい人がいます。また、近視が悪化し、眼球の前後方向の長さ(眼軸長・がんじくちょう)がさらに伸びた『強度近視』になったら要注意。合併症として目の病気になる確率も上がります」
眼球は本来、丸い形をしているが、近視になると、眼軸長が伸びて楕円(だえん)形に。強度近視になれば、さらに長くなる。失明につながるのは、眼球が大きくなって網膜が萎縮し、細胞が死んでしまうためだ。
「目には柔軟性のあるところがあって、近くを見続けていると眼球が伸びるんです。スマホやタブレットでも同じ作用が起きます」
近視が強くなれば網膜の循環が悪くなるため、緑内障(りょくないしょう)や黄斑変性症(おうはんへんせいしょう)といった合併症のリスクが上がる。
「コンタクトを作りにきた若者から緑内障が見つかるケースは最近、少なくありません。10代で見つかることも」
“目の生活習慣病”と呼ばれる緑内障は、本来は40歳以上の20人に1人がかかる病気だ。徐々に視野が欠けていき、進行すれば失明に至る。
また、黄斑変性症は、ものがゆがんで見えたり、中心部が黒くなって見えなくなる症状で高齢者に多い。進行すれば失明してしまうことも。
「今はいい薬がありますし、治療法もあります。早期に治療を始めることが大切です」
近視の予防には、長時間近くのものを見る習慣をやめること。ほかに、外で適度に紫外線を浴びると、近視の進行を抑制できるともいわれる。
「目のピント調節力は年とともに落ちます。それは水晶体が硬くなるため。しかし、若くても近くのものを長時間見ていると調節力が落ち、老眼と同じ症状が起こるのを最近では『スマホ老眼』と呼びますよね。
眼精疲労の原因にもなるので、目の調整力が落ちたら、負担をかけない使い方を心がけていただきたいです」
視力が落ちる原因は近視だけに限らない。まずはその原因を調べることが大事だ。
「健康診断の視力検査だけでは、詳しいことはわかりません。視力のいい高齢者はそうでない人と比べて認知機能が高いというデータもありますし、できれば40歳以降は1年に1回、眼科で検査をしてほしいですね。
ただ、眼鏡をかけているなら半年、コンタクト使用者は3か月に1回を目安にしてください」
(取材・文/宇野美貴子)