YouTubeやインスタグラムなどのSNSでよく見かける“オイシイ”副業広告。物価高騰による生活不安がある昨今、興味があるという人は少なくないのでは?
でも、“誰でも簡単”“絶対儲かる”という話には、やはりウラがある。
被害者の大半は女性、一人暮らしも要注意!
「テレビCMと違い、SNS等のネット上で目にする広告は審査が曖昧と言わざるを得ず、悪質な“副業詐欺”につながるものが紛れ込んでいることが少なくありません。1度でも甘い言葉に乗っかると、人生が一転してしまいます」
そう注意喚起するのは、詐欺救済を専門にし、多くの詐欺被害者の相談に応じている佐久間大地弁護士。
FX詐欺、支援金詐欺、占い詐欺などさまざまあるなかで、副業詐欺の被害相談はコロナ禍をきっかけに増加していると話す。
「今、詐欺被害の相談案件のうち、約4割が副業詐欺です。ここ数年で副業自体が身近になって、多くの人がトライするようになったことが増えた理由だと思います」(佐久間弁護士、以下同)
ひと昔前は、暗号資産など一般的には少しハードルが高いと思わせる“儲け話”を情報商材として売りつけるのが、副業的な詐欺のパターンだった。
しかし、今はフリマサイトでの転売やブログのアフィリエイト、さらには“写真を撮るだけでお金になる”など、誰でも手が出せそうな身近な内容で“大金を稼げる”と謳(うた)っていることが怖いと佐久間弁護士。
前述したSNSの広告だけでなく、ネットで“副業”と検索して出てくる、一見“まとも”な副業ランキングなどのサイトからも詐欺につながる可能性があり、入り口の広さも懸念される。
被害者の中心は20~30代だが、40~60代の被害事例もあり、その多くが女性。自宅で過ごす時間が多く、スキマ時間に収入を増やして家計を支えたいと考えがちな主婦は引っかかりやすい下地がある。
「一人暮らしで誰にも気づかれず副業に手を出せる環境の人も被害者に多いですね」
金融業者から借りさせ、むしりとるのが手口
さらに、昨今の副業詐欺が恐ろしいのは、“収入が少なく、お金を必要としている人を標的にしていること”だ。
「詐欺グループは、儲けるやり方を教えるという形で“情報料”を搾取するのが目的。しかも、消費者金融で借金させて支払わせるのが常套手段になっています。
“借金してもすぐに黒字になって返済できる”“投資というのは、初期費用がかかるもの”“一歩踏み出しましょう”など、言葉巧みに借金に誘導します」
被害者にスマホの画面共有アプリをダウンロードさせ、じっくり考える暇を与えず、借り入れから情報料の支払いまでを一気に行わせるのも、昨今の副業詐欺のトレンドだ。
「実際、半分くらいの人は借り入れの段階で“何かおかしい”と気づくんです。でも、画面共有をした状態で話がどんどん進むので、断れない。
さらに、借り入れも振り込みも今はスマホ1つでできる時代。非対面で行えるリモートの技術が仇(あだ)となって、周囲に一切知られることなく、詐欺業者はお金を奪い取っていきます。
ATMならば、銀行員や店員に声をかけられて未然に防げたという事例もありますが、被害者が部屋から一歩も出なければ、そういった機会すら逃してしまうのです」
被害金が戻っても借金地獄が待っている
なかには、「無料広告を見るだけで1日10万円の副収入が稼げる」と謳った副業詐欺で複数の消費者金融から数百万円ずつを借り入れ、1200万円もの借金を背負わされた人もいると佐久間弁護士。
奪われたお金は、詐欺を働いた会社が残っていれば弁護士などを通じて返金請求し、ある程度取り戻せる可能性がある。
しかし、満額返金は期待できず、弁護士費用の支払いもあるため、つくってしまった借金を数年にわたって返済することは珍しくないと話す。
「月々の返済で生活が破綻しないよう、消費者金融と交渉をし、利息をなくして月々の返済額を減らす『任意整理』の手続きを行うことも多いです。ただし、返済の負担は減る一方、個人の信用情報を管理する機関に登録されるので、返済後も5年ほどはローンが組めません。
さらに、40~50代の場合は、20~30代に比べて借り入れ限度額が大きくなるゆえに、被害も大きくなりがち。被害額が300万円を超えて、自己破産に陥るケースをたくさん見てきました」
甘い言葉を信じない、簡単にお金を渡さないことが重要。怪しい副業を見破るための基本のチェックポイントは5つ。
さらに“簡単”“誰でも”“スマホだけでOK”といった言葉で煽っている副業は基本的にすべて疑ったほうがよいと佐久間弁護士は断言する。
「ネットで“〇〇(副業を斡旋する会社名) 詐欺”と検索するのも手です。詐欺被害の情報が出てきたら、少し冷静な判断ができるはずです」
副業詐欺 見抜くポイント5
□稼ぐ方法が簡単すぎる
□「今日中」など、支払いを急がせる
□初期費用が数十万円など多額
□必要以上に個人情報を要求する
□お金の借り入れを要求する
1つでも当てはまったら要注意!
個人情報を握られ脅されるケースも
途中で怪しいと思いながらも引き返せない事情もある。
「詐欺グループとのやりとりの中で、身分証を提示していたり、自分の写真を送っているなど、個人情報を握られ、身動きがとれなくなるケースは非常に多いです。
勤務先を知られて“いつでも会社に連絡する”と脅される人も。でも、それはあくまでもお金をむしりとるための脅し文句」
少しでも不審な点を感じたら、すぐに弁護士や消費者センターに相談すること。その場合、証拠となるようなやりとり等はすべて保存しておくことを忘れてはいけない。
さらに、詐欺被害に遭って困っている人をカモにしている悪徳な法律事務所もあるので気をつけたい。担当弁護士と面談させてくれない事務所は要注意。
また、返金されるかわからないのに高い着手金を要求する事務所も、できれば避けたほうがよい。セカンドオピニオンとして他の事務所にも相談をするのが賢明だ。
「詐欺に遭った人は、一人で不安を抱え込んでいることがほとんど。先日も60代の女性が、“子どもに知られたら怒られるから”と家族に内緒で相談に来ました」
冷静に考えたら儲かるはずもない副業に手を出したことを恥ずかしいと思っている人が多いという。
「でも、今はスマホを見ているだけでも副業詐欺の広告につながってしまう時代。誰でも引っかかる可能性がありますし、そもそも悪いのは詐欺をする側。泣き寝入りして、大きな借金を背負うことがあってはなりません!
周囲に相談しづらくても、弁護士や消費者センターに相談すれば、絶対によいアドバイスをもらえるので、おかしいと思ったら脅しに応じず相談を」
副業詐欺に泣いた人たち
うまい話を信じて借金100万円超え!
ケース1「ブログを書くだけならできるかも!?甘い考えで150万円も借金しました」
老後に不安を抱えていた60代のAさん。
ネット広告で見た“ブログを書くだけ”という副業に手を出し、稼げる書き方を教わるという名目で消費者金融3社から借り入れし、150万円を支払った。
“皆さんすぐに月200万円は稼いでいます”という詐欺師の言葉に、ブログなど書いたこともなかったが、「つい“私にもできるかも”と思ってしまった」と後悔をにじませる。
現在、弁護士に相談し、7割ほど返金される見通しだが、それでも残った借金の返済が難しく、任意整理手続きを行い5~6年かけて返済する覚悟をしている。
ケース2「自己破産するしかない……。恥ずかしくて誰にも相談できず」
フリマサイトを使って簡単に転売で稼げるとだまされ、250万円をつぎ込んだ40代のBさん。
“スマホ1つで仕入れから転売までできる”“サポートも行うから安心”と言われ、初期投資のつもりで消費者金融5社から借り入れした。
画面共有アプリを使用しながらの借り入れをするうち「“詐欺かも”と思いましたが、すべてが監視下におかれたような感覚になって、途中で断ることができなくなりました」
現在は、弁護士を通じて返金請求をしているが、返金額によっては自己破産も視野に入れている。
(取材・文/河端直子)