31歳で子宮頸がんの一歩手前「前がん病変」と診断された堀越さん。結婚直後に判明した事実に、将来のことを考え、不安に押しつぶされそうになることもあったという。「切ってしまえば安心」と医師に言われても納得できず、かといってがんの原因であるヒトパピローマウイルス(HPV)を抱えて生きていきたくない。1年かけてようやくたどりついた、納得のいく治療法とは―。
ヒトパピローマウイルス(HPV)に感染
健康には気をつけていたという堀越のりさん。タレントという仕事柄、病気で休めば、多くの人に迷惑がかかる。だからこそ健診は毎年受け、健康には自信があった。それなのに、31歳のとき「子宮頸がんの疑いがある」と再検査となり、ヒトパピローマウイルス(HPV)に感染していることがわかった。
子宮頸がんとは子宮の入り口にできるがんで、若いうちの発症が多く、2000年以降、患者数も死亡率も増加している。
「前年は異常がなかったのに、なんでって腹が立つやら悔しいやら。特に初期の子宮頸がんは自覚症状がなく、健診で見つかるのがほとんどのようです」
早期発見で、がんの一歩手前の“前がん病変”と呼ばれる段階だった。いずれはがんに移行する可能性があるが、もしかしたらがんにならずに自然治癒で元に戻るかもしれないという、どっちつかずの状態。そこで担当医師が出した治療方針が「しばらく様子をみてみましょう」─。
「白でも、黒でもないなんて、納得できませんでした。月に1回のペースで、HPVに感染している部分の組織を取って診断する組織診を行うのですが、その数値が高くなったり、低くなったり。
そのたびにがんに向かっているのではないかとか、このまま治るのかとか一喜一憂。せっかく早期発見したのに経過観察するだけで、何の治療もしないなんて……。医学的には間違っていないのかもしれないけれど、不安ばかりが募りました」
同じように経過観察中の患者でも、『自然治癒するに決まっているから』『もう3年も経過観察しているけれどずっと同じだから、がんになるとは心配していない』など、さまざまな声を聞いたという堀越さん。
「そのままでもいいと思えるのは勇気あるなぁと。でも、私はこの状態が恐ろしくて、放置したままなんてできない。同じ病気を抱えている人同士でも、感じ方はこんなに違うんだなと」
自分は神経質すぎるのか。医師の言うとおりにしていればいいのだろうか。堀越さんは何度も自問した。そして違う病院に行けば、新しい治療を受けられるかもしれないと、病院を巡り始めたのだ。
経過観察以外の治療法を期待して訪れた病院では、レーザー蒸散手術や円錐切開術といった手術をすすめられた。
あっさりと「切ったほうがいい」
「ある病院では、内診台のカーテン越しに、『こんなになっているならレーザーで焼いてしまいましょう』と言われたんです。まだお互いに顔も合わせていない段階で。だから私は、心の中で叫んじゃいました。『ちょちょちょっと待ってよ、やめて』って。
次のクリニックでも、あっさりと『切ったほうがいい』って言われました。でも、美容院で前髪をカットするみたいに簡単に言われても、納得できない自分がいました」
できればレーザーで焼いたり、手術で切除したりしない治療法はないか。まだがんになる手前なのだから、HPVだけを除去する治療方法はないのか、堀越さんの病院探しはますます熱が入っていった。
レーザーや切開術が悪い治療法であるとは思わない。それが現代医学でいちばんよいとされているのだから。
ただ、自分が望む治療法がないのか、一縷の望みを託して探し続けた。
「母も探すのを手伝ってくれました。見つからなくて諦めそうになったときも、『あなたがいいと思う病院を探しましょう』とエールを送ってくれたんです。夫も一緒に調べてくれるんだけれど、女性の身体のことは男性にはなかなかわからないみたいで、的外れな病院を探したりするんです。
でも簡単に『切っちゃいましょう』と言う病院では、医師に『ほかの病院に行きます』と、きっぱりと伝えてくれました。また、新しい病院に行くときや、そこの通院をやめるときには、必ずそばにいてくれて、それだけでも本当に心強かったです」
治療できないまま、1年がたった。そして、焼いたり切ったりしたくない、そんな希望に応えてくれる医師を、堀越さんはついに探し出した。
「『波平レディスクリニック』の先生が行っている保存療法です。『続ければ必ず治りますよ』の先生の言葉を信じて、50日間休むことなく通い続けました。保険適用でもなかったし、通い続けるのは大変でしたが、“がんの恐怖から解放される、信頼できる医師と納得した治療を行っている”。
このことが希望を失いつつあった私の癒しと力になりました。初めて、“治る”と思うことができたし、前がん段階ではなくなりホッとしました。自費診療なので、50万円くらいかかりましたが、自分なりに子宮を守ったのだと、惜しいとは思いませんでした」
自分の納得する治療法が見つからなかったころは、自暴自棄になり、楽しいこともやりたいことも何もないと鬱々としていたという。ところが自分が納得できる治療法を行うようになってからは、いろんなことに前向きになり、生きるモチベーションも上がっていったのだ。
経験者として伝えたいこと
HPV感染が見つかってから、ウイルスを撃退するまで3年。そして10年が経過した今、この体験から堀越さんは、何を感じているのだろう。
「誰もが、がんになる要素を持っているのです。私は子宮頸がんの前段階で、なんとかがんになることは食い止めました。でもこうして一度あったのですから、また見つかるかもしれません。ですから、がん検診は毎年欠かさなくなりました。
特に、この子宮頸がんは、ワクチンを打ったり、検診にきちんと行くことで予防できますし、がん化しないための治療方法もさまざまにあるということを経験者として伝えていきたい」
病気になったとき、医師の話を聞き、さらに自分の考えも持って治療にあたることが大切だと堀越さんは訴える。
ほりこし・のり 1982年生まれ。1998年ホリプロのコンテストでグランプリを獲得して芸能界入り。「優香の妹分」の肩書で、タレント、グラビアアイドルとして活躍した。2011年に結婚、翌年ホリプロを退所。2019年から芸能活動を再開している。
子宮頸がんの基礎知識 Q&A
子宮頸がんは、女性特有のがんの中では乳がんに次ぐ第2位の罹患率。また、40代以降となると罹患による死亡率も高まることから、早めの気づき、検査が必要だ。ほかのがんとは違って、予防ができるといった点もしっかり認識しておきたい。
Q 子宮頸がんになりやすい人は?
A 主な原因はHPVというウイルスで、性交渉によって感染するため、性体験のある女性はほとんどが感染するといわれている。ただし感染しても90%の女性は本人の免疫機能が働いて消退するが、10%の人は消退されず、「異形成」と呼ばれる前がん病変へ進行し、さらに子宮頸がんを引き起こす。
Q 前がん病変の段階で治療すれば、がんへの進行を防げるの?
A 軽度や中等度異形成では、治療しなくても消退することも多く、ただちに治療せずに経過観察を行うことがある。治療法としては、円錐切開術とレーザー蒸散手術など。HPVを除去できれば、子宮頸がんになる可能性は低くなる。
Q レーザー蒸散手術とは?
A レーザー光線を子宮頸部の病変部に向けて照射し、焼灼する手術療法。中等度異形成で、(1)1~2年間経過観察をしても消退しない(2)HPVの中でもがんに移行してしまう8種類のハイリスクウイルスに感染している(3)定期的に経過観察ができないときなどに行われる術式。「HPVをずっと抱えていたくないから」という人には、レーザーは有用。
Q レーザー手術のメリット、デメリットは?
A 高度異形成では、病変部分を円錐形に切開する円錐切除術が行われる。しかし早産や流産になりやすいというデメリットがある。レーザーは妊娠に対しての影響が少ないのがメリットで、将来的に出産を希望する人にはおすすめ。デメリットは、病変部を焼いてしまうので病理診断がしにくく、再発率も切開より若干高くなる。
Q 切ったり焼いたりしたくない人はどんな予防法が?
A 子宮頸がんは予防できるがん。40代までは1年に1回、閉経してセックスもアクティブにしていないという50代以降の人は2年に1回、定期的な健診受診を。そして前がん病変のうちに治療を開始すること。がんに移行して子宮摘出にならないように、専門医に治療法の相談を。
取材・文/水口陽子