《「火葬待ち」深刻化、3割が最長6~8日待機…遺族の心理的・金銭的負担重く》(8月21日、読売新聞オンライン)
《「火葬待ちで10日間」もザラ… “火葬場不足”問題の切り札「2か月長期保存」も可能な「遺体安置冷蔵庫」大人気の裏側》(8月20日、デイリー新潮)
《火葬待ちで2週間…深刻化する火葬場不足の実態》(8月15日、テレ朝news)
お盆以降、連日報じられている上記のようなニュース。いずれの記事も遺体を長期間火葬することができない“火葬待ち”を問題視するものだ。そのような事態は遺族にとっては非常に負担となる話ではある、のだが……。
「このような報道は恣意的な印象操作としか言いようがない」
遺体の安置時間は平均1.7日
そう話すのは、都内で葬儀業を営む『佐藤葬祭』代表の佐藤信顕氏。その理由は──。
「火葬待ちが長期化しているということの“根拠”としてデータを引用している記事がありましたが、そのデータの原典を見ると、しっかりと“遺体の安置時間は平均1.7日。多くは2日以下”とあります」(佐藤氏、以下同)
原典とは『厚生労働科学研究成果データベース』で公開されている“新型コロナウイルスに感染した御遺体の取り扱いを含む、墓地埋葬に関する法律に関する諸問題の検証研究”というもの。同研究の開始及び終了は'21年。“3年前のデータ?”と思うかもしれないが、公開は今年6月末。また、このような研究は毎年行われるものでもなく分析にも時間がかかる。データとしては直近のものとなる。
「'21年から今現在まで大きく増加しているということもありません」
一部報道で『葬儀会社関係者』なる人物が「最近では10日間程度の“火葬待ち”はザラ」などと話している。“ザラ”とは全体から見た大多数、せめて7〜8割程度がそれに当てはまると解釈される言葉のはず。“一般的”とも言い換えられるだろう。果たして10日程度火葬を待つのは一般的なのか。
レアなケースの切り取り。不安を煽っているだけ
「一般的などとはまったく言えません。本当にごくわずかのレアなケースの切り取りといえますし、“安置時間は平均1.7日”というデータがそれを示しています。ましてや“3割が最長6~8日待機”と煽っていますが、これは7割はそれ以下だったことを示している。
たしかに火葬場は局地的・局“時”的に混むことはあります。それは年末年始に亡くなられた場合に三が日を意識的に外して、その後にお葬式をすることによって一時的に混んでしまうケース。また、多くの死者が出てしまうような災害が起こったら、どの地域であろうが火葬場は混みます。そのような特別なケースで火葬場は混んでしまい、火葬待ちとなることはありますが、あくまで特別なものです。
災害についてコロナ、またそれに伴う医療崩壊も特例に入るでしょう。あれだけ大規模な疫病は災害と言えますから。火葬炉の1つをコロナ用に特別に取った火葬場もあり、それによってほかが圧迫され混んでしまったというケースもあります。少ない事例をさも全体で起きているように見せるのは、不安を煽っているだけで、現実に則しているとは言えません」
前出の厚労省が協力した火葬場へのアンケートでは、遺体の安置時間は平均1.7日とあった。
「だいたい2〜3日でお葬式はできます。またそのくらいの期間があったほうが、遺族の方も安心していろいろな準備ができます」
しかし、多数ではないとはいえ、6〜8日火葬待ちとなったケースはたしかに存在するようだ。もろもろの記事はその部分を強調しているのだろう。正月は当然年に1度であるし、災害もまれである。なぜ少ないながらも火葬待ちとなってしまう場合があるのか。その大きな理由は日本の現代社会が大きく関係している。
「老人ホームの増加が理由の1つです。東京都とその近郊を例にしますと、都内に親世代の高齢者が住んでいて、一方その子ども世代は都内の家は高いので近郊の埼玉県や神奈川県に家を買うという人は少なくない。自分の親が80代などになって、どこの老人ホームに入れるかとなった場合、家から近いところに入れる。入居費用も都内より安い。そうすると老人ホームのある地域は高齢者が増えるので、その地域は亡くなる方も当然増えます。人口動態で予測していた以上の死亡者数となってしまう。このような増加によって一部地域の火葬場が混んでしまったということがあります」
一方で首都圏を中心に火葬場が不足しており、すぐに火葬ができないケースが増えているとする記事もあったが……。
「都心部で増えているといいますが、老人ホームの増加の観点から火葬待ちの件について、東京23区は部外者です。郊外に比べて、都心部にそんなに老人ホームがありますか、火葬が急増する理由がありますか、という話です。また23区は火葬場の1日における回転数が多いのでパンクしません」
もしも地域の火葬場が混んでいたら…
では高齢者が増加している地域はどのようにすればいいのか。
「地域の火葬場が混んでいたら、遠くても別なところを利用するというのが1つ。しかし、距離が離れた火葬場を選択すると、住んでいる自治体ではない“エリア外”となり、火葬の料金が高くなります。また単純に遺体を乗せて走る距離も増えるので高くなってしまいます。そうなると“数日待てば安くなるから待とう”となるんですね。この料金格差が“空いている火葬場を使えばいい”というやり方を阻んでいる。空いている火葬場を利用するという仕組みがないんですね。国や隣接している自治体同士が連携を取って仕組みを作るべきなのですが……」