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 日本で患者数が増え続けている身近で怖い病気、がん。

 実はがんには、なりにくい人となりやすい人がいること、そしてそこには意外なものが関わっていることが、近年の研究でわかってきた。

日本人の死因1位がんの意外なリスク

「喫煙や飲酒、運動などの生活習慣や遺伝が、がんに関係があることを知っている人は多いと思います。しかし、それ以外にも思いもよらないものが、がんに影響しているのです」

 と教えてくれたのは、がん専門医の佐藤典宏先生。

 血液型や病気などに潜む予想外のリスクを知って、がんを遠ざけたい。

意外なところにあるがんのリスクを避け、健康寿命を延ばしたい※写真はイメージです

口の健康や血液型ががんのリスクに

 社会の高齢化により、年々患者数が増えている大腸がん。その発症に歯周病菌が大きく関わっているというのだ。

「2012年に、大腸がんの人の口内や便、がん組織の中から、歯周病の原因菌として知られるフソバクテリウム・ヌクレアタムという菌が見つかったのです。この菌が口の中から大腸に移動し、大腸がんの発症に影響している可能性があると考えられます」(佐藤先生、以下同)

 歯周病がある人は、大腸がんのリスクが50%上がることも、アメリカのメリーランド州、ミネソタ州、ミシシッピ州、ノースカロライナ州で7466人を対象に行われた研究で明らかになっている。

大腸がんのリスク50%増「歯周病」※写真はイメージです

 しかも、この菌が大腸がんの組織中に多量にあると抗がん剤の効果が下がったり、再発しやすくなったりするほか、生存期間も短くなるなど、大腸がんの患者にさまざまな悪影響が。

 口の中の病気と腸のがん。場所が離れているので関係ないように思えるが……。

「歯周病は口腔(こうくう)内で慢性的な炎症が起きている状態。慢性炎症とは、常時くすぶっている“小さな火事”のようなもの。弱いくすぶりでもじわじわと長引くと全身の臓器や血管がダメージを受け続け、場所が遠くとも、がんリスクを高める要因になるのです」

 日本人女性のがん死亡数1位の大腸がんを防ぐためにも、歯のフロスや定期的な歯科検診で歯周病に気をつけたい。

 続いては、“光とがん”の意外な関係。

「光ががんに悪影響を与えることが指摘されています。都市部など、夜間の照明が強い地域に住んでいる女性は、乳がんのリスクが14%上がるということがハーバード大学の研究でわかりました」

 家庭や会社、コンビニ、街灯、スポーツ場のライトなどふだんの生活で目に入る光すべてが原因になる。

乳がんのリスク14%増「夜の光」※写真はイメージです

「光は前立腺がんや大腸がんにも影響し、明るい部屋で寝る人の前立腺がんリスクは、真っ暗な部屋で寝る人の2.8倍にもなります」

 もともと人間は太陽の光で起き、暗くなったら寝るという生活をしていた生き物。しかし、現代は夜も光がある状態。人間の体内時計に悪影響を及ぼし、自律神経やホルモンバランスを乱すことが、がんを誘発すると考えられている。

「夜は部屋の電気をできるだけ落とし、カーテンを閉めて外からの光を遮りましょう。パソコンやスマホの電源を落とし、ブルーライトを避けることも大切です」

 3つ目のリスクは血液型。がんに関係が?と思われるかもしれないが、特に膵臓(すいぞう)がんと関係がある。

「膵臓がんは初期発見が難しいため、多くの危険因子の研究が行われてきました。その中で、家族歴、糖尿病、慢性膵炎、肥満、喫煙などのほかに、血液型も発症リスクに関連していることがわかったのです」

 海外の研究で、B型の人はO型の人に比べて膵臓がん発症リスクが1.7倍、AB型の人は1.5倍、A型の人は1.3倍という結果が出たのだ。

 また、日本では一般人口に比べて膵臓がんを発症する人はA型の人が多いという結果に。また、A型やAB型は手術後の生存期間が短いというデータもある。

膵臓がんのリスク1.3倍(A型)、1.5倍(AB型)「A型・AB型」※写真はイメージです

「原因はわかっていませんが、A型やAB型の人の膵臓がんは悪性度が高く、転移しやすい可能性があると考えられています」

 そう聞くと不安になるが、過剰な心配は不要。

「A型とAB型の人全員が心配する必要はありませんが、肥満や糖尿病などほかの危険因子があり気になる人は、人間ドックなどで腹部超音波検査を受けるようにするといいと思います」

がんリスクが減る予想外の生活習慣

 がんのリスクを下げる意外な要因もある。生活習慣はがんにさまざまな影響を与えるが、なかでも注目したいのは夕食の時間

「夕食から就寝までの時間が長いほど、乳がんや前立腺がん、大腸がんのリスクを下げることがわかりました」

 海外では夕食の時間とがんのリスクに関するさまざまな研究が行われているが、いずれも、夕食や夜食を遅い時間にとったり、食後すぐに寝たりすることで、がんリスクが高まるという結果に。

「夕食後、すぐに寝た場合と、2時間以上たってから寝た場合を比べると、乳がんは16%、前立腺がんは26%もリスクが低下します」

 また、夜間の絶食時間と乳がんの再発率を調べた調査では、絶食時間が13時間以上の女性と、13時間未満の女性を比較したところ、後者のほうが再発率が36%、死亡率が21%も高いという明確な違いがあることがわかった。

乳がんのリスク16%減「早めの夕食」※写真はイメージです

 絶食時間が短いと、夜間の血糖値が高い状態が続いてしまい、がんの発症や進行に影響を及ぼすと考えられる。

 夜遅い時間の飲食を避けることは、肥満や糖尿病予防だけでなく、がんにも有効なのだ。

 次に紹介するのは、がんリスクを下げる、ある食材。がんに関係があるとされる食材はさまざまあるが、最新の大規模な観察研究で、がんのリスクを下げる効果が明らかになったのがアボカドだ。

「アメリカで行われた研究で、週に半個以上のアボカドを食べ続けている男性は、まったくアボカドを食べないグループに比べて、がん全体の罹患(りかん)リスクが15%低くなったという結果が出たのです」

 なかでも大腸がん、肺がん、膀胱(ぼうこう)がんは特に顕著で、食べない人に比べておよそ30%もリスクを下げる。

大腸がん・肺がんのリスク30%減「アボカド」※写真はイメージです

 女性の場合は逆に乳がんのリスクが高くなったという結果や、関連は見られなかったという報告も。森のバターと呼ばれる栄養豊富なアボカド。少なくとも男性にとってはうれしい研究結果だ。

 最後は、春先や秋口になるとくしゃみや鼻水に悩まされる人が急増する花粉症とがんの関係。花粉症の人ほど、がんの死亡リスクが下がるという報告があったのだ。

「東京大学の研究で、花粉症を発症している人は、がんによる死亡率が50%下がるという結果が出ています。原因はまだ十分にはわかっていませんが、体内の免疫監視機構が関係しているのではと考えられています」

がんによる死亡率50%減「花粉症」※写真はイメージです

 免疫監視機構とは、身体の中で遺伝子に変異が起きた細胞を免疫細胞が監視し、排除する仕組み。花粉症の人は、この仕組みが強化されていると考えられている。がんも細胞の変異が関係しているので、その点が死亡率の低下に影響しているのかもしれない。

 多くの人を悩ませるつらい花粉症だが、こんなありがたい一面もあったのだ。

 まだまだ未知な領域が多いがん。口の健康を守る、夜間は照明を落とす……など、避けられるリスクは、少しでも遠ざけておきたい。

外科医・がん専門医 佐藤典宏先生●産業医科大学第1外科講師。膵臓がんを中心に1000例以上の外科手術経験を持つ。がん患者に役立つ情報を提供するYouTube「がん情報チャンネル」のフォロワー数は現在約11.5万人。
教えてくれたのは……外科医・がん専門医 佐藤典宏先生●産業医科大学第1外科講師。膵臓がんを中心に1000例以上の外科手術経験を持つ。がん患者に役立つ情報を提供するYouTube「がん情報チャンネル」のフォロワー数は現在約11.5万人。

(取材・文/後藤るつ子)

 

大腸がん・肺がんのリスク30%減「アボカド」※写真はイメージです

 

乳がんのリスク16%減「早めの夕食」※写真はイメージです

 

がんによる死亡率50%減「花粉症」※写真はイメージです

 

膵臓がんのリスク1.3倍(A型)、1.5倍(AB型)「A型・AB型」※写真はイメージです

 

乳がんのリスク14%増「夜の光」※写真はイメージです

 

大腸がんのリスク50%増「歯周病」※写真はイメージです

 

がん予防の可能性ある食品(重要度順)

 

2014年にアメリカで実施された研究結果。2863人のがんと診断されたサバイバー(生還者)にアンケートを取り、運動について調査したところ、週1回以上の筋トレでがん患者の死亡リスクが減少していることがわかった

 

2019年に乳がんと診断された患者数〈全国がん登録罹患データ(厚生労働省)より作成〉

 

女性が注意すべきがんというと、乳がんや子宮がんを思い浮かべる人が多い。しかし、人口動態調査によれば、2020年の女性のがん死亡原因の1位は大腸がん。男女合わせても近年日本人に急増しているがんのひとつ(出典:国立がん研究センターがん対策情報センター)