かもめんたる・岩崎う大が、注目のお笑い芸人の今後を予想する連載企画。今回の芸人はサスペンダーズ。
早稲田の寄席研の雰囲気があるネタの切り口
サスペンダーズはマセキ芸能社所属のコント師のコンビです。2人とも早稲田大学卒業で、いわゆる学生芸人出身。
僕自身も早稲田のお笑いサークル出身なのですが、2人は早稲田寄席演芸研究会という老舗のサークル出身で、今はどうか知りませんが、僕らが現役のころの寄席演芸研究会は男くさいネタやブラックな、お笑いの中でいうとポップではないネタをやる傾向にありました。
数年前に東京03の飯塚悟志さんがコントの面白い若手芸人として彼らに太鼓判を押したのをきっかけに、都内のライブシーンでの注目度が上がり、露出も増えていった印象があります。
僕が、初めて彼らのネタを見たときに素直に「面白い!」と思うのと同時に、「ネタの切り口が早稲田の寄席研の雰囲気がするなあ」と懐かしい気持ちにもなりました。
というのもツッコミの依藤たかゆき(右)とボケの古川彰悟(左)はどちらも地味なルックスで、そのままお笑い好きな早稲田生の純粋な野暮ったさを残していたからかもしれません。
ラジオやフリートーク中は、完全に依藤がツッコミで、古川がボケなのですが、コントではそれが微妙に変わって、古川演じる男性が不幸な目に遭って、観客はその心の悲痛な叫びを堪能します。
僕が好きな2人のコントに「入社試験の面接官の人事部長のノートパソコンがステッカーだらけで、不安になる」というネタがあります。
これは、一世一代の場に集中したい古川演じる就活生が「うわあ! あの人事部長のパソコンなんか嫌だなあ!!」と叫ぶところから始まり、ステッカーが気になったせいで、大事な質問を聞き損ねたりと、泥沼にハマっていく展開を見せます。
不幸の渦に巻き込まれていくときの古川の、心の叫びがクセになるんです。コント中の古川はツッコミでありボケともいえます。
そして、その心の叫びが単なる観客の代弁ではなく、古川というお人よしに見えて、実は卑屈で享楽的な男の生々しい魂の叫びだから面白いのです。あるあるネタでもあるけど、その突きどころがとてもシャープで深い笑いになっているのは、そんな古川の人間性をしっかりスパイスとして効かせているからです。
実は、2人はコントスタイルで1つの発明をしていると僕は思っていて、それは古川がコント中に心の声をどんどんしゃべっていくということ。
漫画でいうと、コマの中の背景に、古川のセリフが太字でいっぱい詰まっているような感じです。
それがサスペンダーズのネタを非常にポップにわかりやすく仕上げていると思います。
また、2人はそれを僕の知る限りほぼすべてのコントでやっているので、他のコンビが心の声をしゃべっていると、
「この心の声は相手には聞こえているの?」
と質問したくなるのですが、2人の場合はそれがスタイルとして確立されているし、古川の声とルックスが醸し出す雰囲気がそれを許してしまうのです。
その一方、依藤演じるコントのキャラクターは、いつもクレイジーでこちらも依藤という人間から醸し出される、優しそうだけど、目の奥が笑ってるかは判断しかねる冷たいキャラを活かしており、一見の価値ありです。
最近ではラジオなどでのフリートークも高評価を受けていますし、新たにファンになる人も多いと思います。要注目です!