「池袋西口はトー横化しています。少し前は殺人事件や火事も起きた。せっかく落ち着いたのに。小池都知事にはこっちも視察してほしい」
そう話すのは池袋駅北口の飲食店で働くさやかさん(40代・仮名)。
豊島区池袋西口公園─。池袋駅西口バスターミナル、東京芸術劇場や野外劇場などが隣接する。石田衣良の小説『池袋ウエストゲートパーク』(略称・IWGP)を思い出す人も少なくないだろう。'00年には宮藤官九郎の脚本でドラマ化もされ、長瀬智也、加藤あい、窪塚洋介、山下智久らが出演、一躍ブームとなり、今年の1月1日、Netflixで配信が始まってからは最大評価を得ている。今でもその人気は色あせることはない。
かつては整備や安全対策も
ドラマが放送されていた'00年前後はカラーギャングなどがたむろして、地元の人ですら訪れにくいエリアだった。そこで東京都ではそうした悪いイメージを払拭するためにも特に西口公園周辺を整備し、安全対策を講じるなど手を打ってきた。
そんな中、最近になって囁かれるようになったのが池袋西口公園の『トー横』化だ。8月10日には小池百合子都知事がトー横へ現地視察に行くなど、東京都は事態を重くみているが……。
大人たちによる対策が強化されれば治安は良くなるだろうが、居心地は悪くなる。そこで一部の若者たちは『トー横』を移動して、池袋西口公園周辺にも集まりだしたというのだ。公園近くにある飲食店店主はこう明かす。
「池袋西口公園を中心に若者たちが地べたに座り込んで酒盛りをしたり、大声をあげて走り回る姿を見かけることもあります。お客さんと『トー横みたいになってきたね』って話すことも増えました」
『トー横キッズ』ならぬ『西口シニア』
そこで週刊女性も週末の夕方から終電の時間にかけて池袋西口公園を訪れてみた。確かに地べたに座り、酒を飲む若者集団は数組いたが、『トー横』の印象とは程遠い。
「終電間際から深夜を過ぎるあたりから集まってきて、芸術劇場の脇の植え込みや路上などの場所でたむろしています。朝になると飲み残された酒の缶や食べ残し、こぼした酒や吐瀉物で周辺が汚れていることもあるんです」(前出の店主)
とはいえ、注意をすれば素直に応じるなど『トー横』と比べると話の通じる若者たちだ。
そこで池袋西口公園を管理している豊島区に実態について聞いてみた。
「私たちは『トー横』化しているという認識はありません。確かにコロナ禍では路上飲みをする若者たちもいました。深夜、公園は閉鎖していますし、警備員も24時間常駐して、路上飲みをしていれば声をかけるようにしています。大学生とトー横キッズの区別もつかない人たちが何を言っているのか、という感じです」
前出のさやかさんも、
「西口公園にいるのはむしろおじさんたち。昼間から集まってお酒を飲んでいる姿が目立ちます。ただ夏休みに入る前は確かにトー横キッズが出入りしていて、シニアの人たちともめている様子でした」
『トー横キッズ』ならぬ『西口シニア』とでもいうのだろうか。
家庭や職場に居場所がない同じ境遇の中高年たちが集まり、将棋を指したり、ストロング缶を傾けたりしながら家庭や社会へのうっぷんを晴らし、寂しさを紛らわせる。
令和の「IWGP」はまさに若者と中高年たちの居場所争いとでもいうのだろうか。小池都知事は池袋西口公園に集まる中高年にも目を向ける必要があるようだ。
取材・文/当山みどり