「子どもを外で遊ばせるときは、必ず水と一緒に塩分タブレットを用意して熱中症対策として飲ませています」
こう語るのは、都内在住で4歳の子どもを持つ母親。今年も酷暑が続く日本列島。連日、熱中症警戒アラートが発表され、その対策が叫ばれている。そのひとつとして人気があるのが、塩分タブレット。汗とともに体外に排出された塩分を、手軽に摂取できるのだが─。
「正しいタブレットの摂取方法を守らなければ、健康にとって逆効果になります」
と話すのは、保育園管理栄養士の谷岡友梨さん。
幼児には「必要ない」
「タブレットを製造しているメーカーのホームページにも載っていますが、熱中症対策のための水分補給に必要な塩分の相当量は、100mlの中に0.1グラムから0.2グラムの塩を入れたものです。タブレットは1粒あたり塩分が約0.1グラムなので、1回あたり1粒のタブレットを100mlの水と一緒に摂取するのが正しい飲み方です」(谷岡さん、以下同)
この飲み方ならば、子どもに飲ませているという冒頭の母親の摂取のやり方は正しいように思えるが、そもそも子どもにタブレットを飲ませる必要性について谷岡さんはこう続ける。
「このタブレットが必要となるのは、炎天下での肉体労働をする人や、屋外でスポーツをして大量に汗をかく人なんです。
小学校に上がる前の子どもは、年齢的に大人に比べて体温調節がまだうまくできない時期。汗をかきにくいんですよ。つまり幼児は体内の塩分が外に出にくいので、わざわざタブレットで補給する必要はありません」
塩分の過剰摂取は死亡事故も
それでは子どもの熱中症対策はどうすればいいのか?
「私も2歳の子どもの母親なので、不安になってしまう気持ちはわかりますが、まずは水やお茶といった水分をこまめに摂取させること。あとは日中の暑い時間帯を避けて遊ばせたり、帽子をかぶらせたり通気性のいい服を着させてあげることです」
熱中症対策として手軽に使える塩分タブレットだが、特に子どもにとっては“毒”になる可能性もあるという。
「3歳や5歳の幼児が1日にとる塩分の摂取基準量は、3.5グラム未満。大人でも男性で7.5グラム未満、女性で6.5グラム未満です。ただでさえ日本人は普通の食事でとる塩分量が多いとされているうえに、タブレットで塩分を摂取すると塩分過多の状態になります。
みなさんもご存じだと思いますが、塩分のとりすぎは高血圧の原因や、腎臓への負担が増します。タブレットは子どもにとってお菓子感覚で食べられるものなので、与えすぎには十分に注意してほしいですね」
'17年には盛岡市の女児が食塩の入った飲み物を与えられ、塩化ナトリウム(食塩)中毒で死亡した事故があった。身体に不可欠な塩分だが、過剰摂取は命の危険をも招く。
「盛岡の事故は極端な例ですが、5歳未満の子どもたちには、塩分のとりすぎはリスクのほうが高いです。大事なことは食事を1日3食バランスよく食べること。必要な塩分はそれでとれます」
“薬も過ぎれば毒となる”。適量を考えながらタブレットも利用しつつ、残りの夏は熱中症対策を進めていきたい。