《あの『ほん怖』に今年は霊能者が出演していない……》
8月19日に『ほんとにあった怖い話 夏の特別編2023』(フジテレビ系)が放送されると、SNSでは驚きと落胆の声が広がった。
「稲垣吾郎さんがMCを務め、6本のエピソードドラマが放送されました。以前は霊媒師が怪奇現象のエピソードについて解説をしていましたが、今回はなし。とにかく明るい安村さんが裸芸を見せるシーンまであって、バラエティー番組のようでした」(テレビ誌ライター、以下同)
霊力を疑問視する論調、バッシングに発展
『ほん怖』は'99年にスタートした長寿番組だが、ホラーや心霊系の番組の最盛期は'80年代から'90年代。当時、霊能者として活躍していたのが宜保愛子さん(享年71)だった。
「宜保さんが出演する番組は常に視聴率が20%超え。出版した本はすべてベストセラーに。特番では海外ロケに行くことも多く、エジプトではファラオのミイラを霊視。霊から地震発生の予言を聞き出すというパフォーマンスまでやっていました」
'93年になって、突然の逆風にさらされる。
「早稲田大学の大槻義彦教授が、物理学の立場からオカルト批判を始めたんです。宜保さんの霊視も徹底的に攻撃し、トリックを検証する本も出版しました」(スポーツ紙記者、以下同)
当時の報道でも宜保さんの霊力を疑問視する論調が広がり、バッシングに発展。
「宜保さんは“テレビはもうこりごり”と言って講演会などに活動の場を移します。魔除けグッズの販売などでけっこう稼いでいたようですが、'05年に胃がんで亡くなりました」
宜保さんと並ぶ、オカルト番組の人気者だったのが織田無道さん。
「日本テレビ系で放送された『とんねるずの生でダラダラいかせて!!』などのバラエティー番組に出演。迫力のある風貌で除霊のセリフを叫び、派手に護摩を焚く演出がウケたんでしょう。酒と女が好きと公言する生臭坊主キャラでしたね」(前出・テレビ誌ライター、以下同)
'02年に宗教法人の乗っ取りを図ったとして逮捕され、メディアから消える。晩年はがんが見つかり闘病生活を送り、'20年に亡くなった。
「宜保さんも織田さんも、テレビで活躍したのは'90年代前半まで。'95年に起きたオウム真理教による地下鉄サリン事件などを発端に、カルト宗教の危険性が知られるように。その影響からか心霊番組は激減しました」
'00年代に入って“スピリチュアル”がブームになるが、テレビでは扱いづらくなる。
「'07年にフジテレビ系で放送された『27時間テレビ』で江原啓之さんが亡くなった人からのメッセージを伝えるという企画で“ヤラセ”があったと報道されて問題に。
放送倫理を扱う機関のBPOから違反を指摘され、スピリチュアル番組はさらに減っていきました」
「このご時世にリスクを冒す必要性もない」
コンプライアンス意識が高まり、テレビ局は安易にオカルト番組を企画できない状況になっている。
「最近では宜保愛子さんの過去映像すら使えないんです。“霊視”などのパフォーマンスは裏取りができないため、もし視聴者から“ウソなんだろ!”というクレームがあっても、ちゃんとした説明ができない。このご時世にリスクを冒す必要性もないという風潮です」(テレビ局関係者)
メディア論を研究する立命館大学の飯田豊教授は、心霊番組の減少には2つの要因があると考えている。
「1つはやはりコンプライアンス。日本民間放送連盟が定める“放送基準”には“占い、心霊術、骨相・手相・人相の鑑定その他、迷信を肯定したり科学を否定したりするものは取り扱わない”という規定があります。
それなら明確に科学を否定せず、半信半疑であれば許容されるという解釈がなされてきましたが、今は通用しにくくなりました」
もう1つは、テレビからネットに舞台を移したこと。
「ネットを中心に活躍する怪談師も登場し、テレビ番組でなくてはならない理由がなくなりました。放送基準に抵触するリスクを負ってまで番組を制作する意義を見いだせないのではないでしょうか」(飯田教授)
主戦場を移した1人が、怪談でおなじみの稲川淳二。
「今も全国各地で『怪談ナイト』という公演を行っていて、YouTubeチャンネルを持っています。テレビでは見られないことにより、むしろ価値を高めている側面もありますね」(前出・スポーツ紙記者)
最近の“怪談”活動について稲川に話を聞こうとしたが、
「全国ツアー中で忙しいため、取材はお受けできません」
とのこと。
もはや怪談師が番組に出たがらないというのが、テレビ局にとっては“ほんとにあった怖い話”……。
飯田 豊 立命館大学産業社会学部教授。専門はメディア論、メディア技術史、文化社会学。著書は『テレビが見世物だったころ』『メディア論の地層』など