「コロナ禍、電話占いのお客さんは増えましたね。1時間2万円弱でLINE電話をするのですが深夜の枠はいつもいっぱいでした」
そう語るのは電話占い師のAさん。少し相談するだけのはずがいつの間にか「話を聞いてくれる心地良さ」に依存、客が金銭的に追い込まれたり、精神的に不安定になるなどメンタルに支障が出るケースもあるという。
ストレス女性がハマる沼
「占いの通りにすれば幸せになれると信じていたんです」
過去を思い出しながら話してくれたのは自身も占い依存の経験がある、占い依存専門カウンセラーの水無月あいさんだ。
占いにハマったのは6年ほど前。何を決めるにも占いに頼らないと不安でたまらなくなるほどだった。
「医薬品会社で研究職をしていて、転職すべきか悩んでいるとき、YouTubeで占いの動画を見つけました。見てみると、すごく当たっていて救いだと。それからタロットに手を出したりと、どんどんハマっていきました。
私、昔から自分で何かを決めるのがすごく苦手だったんです。だから、子どものころはいい子ちゃん。親や先生の言う通りにして、褒めてもらって、それでいいと思ってた。でも、大人になったら自分で決めなきゃいけないことばかりで、頼るものが欲しかった。それで、占いにハマりました」(水無月さん、以下同)
ちょうど同じころ、子育てにも不安があった。
「自分すら幸せになれていないのに、この子を幸せにできるのかって。毎月10万円くらいを占いに使う生活が2年くらい続きました」
しかしある日、占いの通りにすることが嫌がっている自分に気がついた。
「子どもが習い事に行きたくないと言っていたので『習い事を続けるべきかどうか』を占いました。すると、絶対に続けたほうがいいと。そのため、泣き叫ぶ我が子を引っ張って習い事に連れ出そうとしました。
そのとき、『こんなの間違ってる』と感じたんですよね、なぜだろ、急に。思えば、日常のささいなことすら占い結果に従うほど依存がハンパなかった」
水無月さんのように仕事や育児に悩み、占いにハマる人は少なくない。
「占いというと、『占いの館』みたいなものを想像するかもしれませんが、いまの主流は電話占い。家の中でほぼ24時間いつでも占い師にアクセスできるので、その手軽さからのめりこむ人が多いんです。
新しい電話占いサイトも増えていて、やはり主婦の利用者が増えている印象です。コロナ禍では医療従事者からの相談も多く受けました」
コロナで深夜相談が増加
そう教えてくれたのは8年前から電話鑑定師をしているAさん。はじめた当初はアルバイトもしていたが、現在はこの道1本で食べていけているという。
「電話占いの料金は1分300円程度。1時間話すだけで1万8000円ほどになります。これを2時間、ほぼ毎日利用する“リピーター”も多いです。相談が夜に集中するので生活が夜型になりがちですが、日中はしっかり身体を休められるし、カウンセラーとして人の役に立っているやりがいも感じます」(Aさん、以下同)
なぜ大金を支払い、占いに依存してしまうのか。前述の水無月さんは、
「不安だから。これに尽きます。『いまの恋人と結婚していいのか』『自分の将来はどうすればいいのか』を自分で決められず、誰かに答えを出してもらうとホッとする。答えに安心感が欲しいんだと思います」
と話す。占い師が注いでくれる“愛情”から離れられなくなるーーそれも大きい。
「自分のプライベートを親身になって聞いてくれて、弱くて醜い部分をさらけ出しても味方でいてくれる。だから離れられなくなります。
占い師からすれば、単に仕事をしているだけに過ぎないけれど、自分を理解し、見守ってくれているのは占い師だけだと錯覚してしまう瞬間がある。ずっとそばにいてほしいから、また電話をかけてしまう……。かつての私もそうでした」
Aさんも占い依存の経験者。きっかけはうつ病だった。
「20年前、29歳のときでした。当時は今のように規制が厳しくなく、たくさん薬を出す時代。言われたままに薬を飲むけれど、よくなるどころか薬の副作用でどんどん体調が悪くなる一方でした。体重は20kgくらい増えるし、目眩はひどいし、もちろん仕事はできないしで、担当医師への不信を募らせていました」
そんなときチャット占いに出合った。
「相談者は相談ごとをチャットに書き込んで、占い師の先生は顔を出してビデオ通話をするという方法でした。グチを言ったり、未来を占ってもらったり。欲しい答えを言ってもらえるまで、何人もの占い師に同じ相談をすることも。
当時は病んでいて電気をつけることもできずに暗い部屋で毎日占い師の先生に相談し、気づけば1か月の請求額は80万円。私は支払えなくなってやめられましたが、もう少し続けていたら借金してでも占いをやっていたかも」
その後、占い師に転身したのはなぜか。
「占いに救われたという側面もあるんです。あのときひとりだったら多分生きていられなかった。だから、今度は自分が寄り添う側に回ろうと思ったんです」
「上げ鑑定」で“カモ”を引き留める
占い師側に回って見えたノウハウもある。
「この業界には『上げ鑑定』という言葉があります。相談者を持ち上げる鑑定のこと。とにかく肯定してあげて、自分から離れられないようにさせる。
ほかには『引き伸ばし』というのも。例えば相談者が電話を切ろうとしたら『いま、天使がなにかを伝えてきています』とか言って。天使の話を聞いている間にどんどん時間が過ぎていく。一部にはそういうケースもあります」
いいように使われては、お金も時間も溶けていく。
「利用するのは月に1回とか1万円だけと決めて紙に書き、目につくところに置いておくのがおすすめ。相手は友だちでも家族でもない“業界のプロ”と心得て、占い師をうまく利用するスタンスでいることが大切です」
家族や大切な人が占い依存になっていたらどうすればいいのだろうか。
「『もしよかったら私にもお話聞かせてくれない?』と聞いてみてください。間違っても『占いなんて騙されてるだけだからやめなよ』と言ってはいけません。占い依存の人にとって、占いは人生のすべてです。人生ごと否定することになってしまうのです」
一歩間違えると、取り返しのつかないことになる危険性もあるとのこと。
「深夜に『死にたい』って言って電話してくる人、たくさんいます。そういう意味で、依存しているからと無理に引き剥がしてはいけません。占いに頼ることでギリギリ生きていられるのかもしれない。
だから、占い料金が引き落とされるクレジットカードを没収するのも危険。心療内科のカウンセラーなどの力を借りながら、慎重に対処するべきです」