記録的な猛暑となった今年の夏。暑さ対策のため、例年以上に冷たい食べ物や飲み物をとったり、冷房をつける時間が長くなったりした人も多いのでは?
こうした身体を冷やす行動は“腸”の調子を悪化させ、体内のあらゆる部分に悪影響を及ぼすおそれがある。
腸の不調に注意
消化器内科医として「お腹の不調」を診察し続けてきた江田クリニック院長・江田証先生は「冷房を使い始める時期から“腸”の不調を訴える人が増えるというのは、大規模なインターネット調査でも明らかになっています」と話す。
「日本人の10人に1人が罹患しているといわれる『過敏性腸症候群』は、腹痛や下痢など排便異常が特徴ですが、夏に悪化しやすい病気です。原因はさまざまありますが、お腹の冷えにより引き起こされたり、悪化したりすると考えられています」
また、“高温多湿”な気候も、腸に負担が。
「夏場は細菌が繁殖しやすくなりますから、『虫垂炎』、『細菌性食中毒』などの患者さんが増えます。特に今、鶏肉を生やたたきなど、加熱不十分な状態で提供する店が増えた影響で、『キャンピロバクター腸炎』が急増中。
これは後遺症として過敏性腸症候群やSIBO(シーボ・小腸内細菌異常増殖症)につながる病気です。腸が不健康な状態ではそれらの病気を招きやすく、一生長引く大病に発展しかねません」(江田先生)
ほかにも、腸の不調を放置すると、肝硬変、腎不全、認知症などにつながるおそれもあるという。
また、肌荒れや顔のたるみ、メンタルの不調といったトラブルにも見舞われかねない。腸の状態は、全身の健康を左右するのだ。
実は足りない人が多い日本人の食物繊維量
「現代の日本人の食生活は、腸内環境を良好にする“食物繊維”が不足しています」
と指摘するのは、京都府立医科大学の教授を務める内藤裕二先生だ。
「シリアルなどの穀物から積極的に食物繊維をとっている欧米人に比べ、日本人の食物繊維の摂取量はとても少ないのです。
よく『毎日サラダを食べているから食物繊維は十分』と主張する人がいますが、実際はまったく足りていない人のほうが多い。例えばコンビニのカップサラダを毎日食べたとしても、十分な量をとるのは難しいのです」
では、十分な量の食物繊維を摂取し、腸内細菌のエサを増やすには、どんな食事を心がけると良いのだろうか。
日本古来の食生活と日々の習慣で腸を改善
「昔ながらの食生活を意識するのが良いでしょう。朝は玄米や麦など糖質の低い炭水化物をとり、そのほか、日本の伝統食を中心とした献立が理想的です。
女性は男性に比べて高脂肪食を食べると便秘になりやすいですから、脂肪や糖分が控えめなメニューを選ぶことも重要です。
とはいえ高脂肪食だけが便秘を招くわけではなく、睡眠サイクルの乱れや運動不足、ストレスなども原因に挙げられますから、できるところから生活習慣を整えることが肝心です」(内藤先生)
今回は、4人の名医が毎日行っている“腸活”をご紹介。今すぐできるものばかりなので、さっそく実践し、“美腸”を目指そう!
腸の不調が引き起こすもの
・睡眠不足
・肌の不調
・ネガティブ思考
・認知症
・肝硬変……etc.
究極の腸活は酪酸菌をいかに増やすか
消化器専門医の江田先生は「腸の不調は万病のもと」と語る。
「ストレスを感じるとお腹が痛くなるように、腸と脳が影響し合っていることを『腸脳相関』と呼びます。脳以外にも、肝臓、腎臓、皮膚、筋肉など、腸と相関関係にある身体の部位は数え切れません。それくらい、腸は全身の健康を司っているのです」(江田先生、以下同)
腸内環境を良くするには「偏りなくいろいろな食べ物を食べることで、腸内細菌を多様にすることが重要」とのことだが、なかでも最近注目なのが「酪酸菌」という善玉菌だ。
「酪酸菌は、悪玉菌が好み、善玉菌が嫌う、腸内の酸素を減らしてくれる効果があります。コロナ禍では、コロナの感染や後遺症の悪化を予防することで注目を集めた、“究極の善玉菌”なのです」
腸活1:5つの小鉢を毎日食べる
腸内細菌の多様性を高めるには、さまざまな食べ物を食べることが推奨される。江田先生は「1日3食の中で、5つの小鉢料理を食べるようにしています」と話す。
メインはごぼうなどの野菜で、ほかにはきのこ、海藻など、食物繊維が豊富に含まれている食材を使うことが多いとか。小鉢にすることで、少しずつ、いろんな食材を食べることができるのだ。
腸活2:歯磨きは食前にも
寝ている間に増殖する口腔内の雑菌や、歯と歯の間のガス産生菌も、腸にとっては悪影響となる。朝起きたら朝食前に歯磨きをして汚れを取り除き、食べ物と一緒に雑菌を体内に取り込まないようにしよう。
「歯周病菌が腸で繁殖すると大腸がんの原因になるということがわかっています。寝る前に歯間をデンタルフロスで丁寧に磨けば雑菌の繁殖を抑えられるので、忙しい朝は口をゆすぐだけでもOKですよ」
腸活3:かわいいものを見て愛情ホルモンを分泌
腸にストレスがかかると脳からストレスホルモンが分泌され、それが腸に伝わると炎症が起きてしまう。
「このストレスホルモンの働きを弱めるには、オキシトシンという愛情ホルモンが効果的。そのためには、動物や赤ちゃんなどかわいいものを眺めましょう。動物の動画を見るのもいいですね。ちなみに私は日々愛犬のパグをなでて、癒されています(笑)」
腸活4:“自分ホメ日記”でメンタルを整える
「悪いことが起きると『自分は本当にダメだ……』と落ち込むことがあると思いますが、落ち込みやすい人は腸の調子が悪くなりやすいことがわかっています」
ネガティブ思考に陥りやすい人に試してほしいのが、寝る前に「自分ホメ日記」を書くことだ。
「自分をホメちぎったり、今日うれしかったことを紙に書き出して感謝したりすると、極端なマイナス思考に陥らなくなるということが論文でも証明されています」
腸活5:腸にやさしいバナナ&キウイ
バナナに含まれるトリプトファンは、腸の中で消化吸収されると幸せホルモンのセロトニンになり、代謝されて睡眠ホルモンのメラトニンになる。つまり、バナナは睡眠の質を上げてくれるフルーツなのだ。
「FODMAP(フォドマップ)と呼ばれる、腸で分解されにくく腸に負担をかける糖類があるのですが、バナナは低FODMAP食。キウイもFODMAPが低いうえ、酪酸菌を増やすのでおすすめです」
腸内細菌は“ペット”日々の習慣でエサやりを
「私自身、若いころは慢性的に、頭痛、肩こり、多汗症、生理痛、生理不順、便秘、ニキビなど、数々の不調に悩まされていました。
『このままではいずれ病気になる』と思い、生活を一新したのが17年前。以来、健康を意識した生活を送り、特に腸の健康維持には気をつけています」
そう話すのは、温活の第一人者の石原新菜先生だ。17年間、先生が意識している腸活法とは?
「腸内細菌を、自分の腸内で飼っているペットだと思いながら、『ペットのエサになるような多種多様な食べ物を食べよう』と意識していますね。
もう1つは、身体を冷やさないことです。温度が高いほうが菌は活発になりますから、私は夏でも腹巻きを巻いています」(石原先生、以下同)
今回は、夏場でもムレずに快適な腹巻きの選び方もご紹介!
腸活6:しょうが入りみそ汁で身体を冷やさない
冷え対策に効果的なしょうがを、みそ汁に入れることで毎日手軽にとっているという石原先生。
「みそや納豆などの日本に昔からある発酵食品は、腸内細菌を育ててくれます」
しょうが入りみそ汁を飲めば、温活も腸活もバッチリ!
腸活7:りんごとにんじんを“皮ごと食べる”ジュース
石原先生が「赤ちゃんのときから飲んでいます」と言うのが「にんじんりんごジュース」だ。にんじん2本、タネをとったりんご1個を、皮つきのままジューサーに入れるだけ。
「皮には食物繊維や栄養が多いうえ、土から収穫した野菜には、腸にいい乳酸菌がついているので、皮ごととるのがポイントです」
腸活8:24時間腹巻きで腸内細菌を活性化
食べ物をあたたかい場所に放置すると腐るのは、菌が活性化するから。同様に、腸内もあたたかい状態にキープできれば、善玉菌の動きが活発になる。そこで石原先生が17年間、四六時中欠かさないのが、「腹巻き」だ。夜は厚手、日中は薄手のものを愛用。
「シルクは保温性が高いのに熱がこもらないので、夏場に最適。またユニクロの、ショーツと一体化したヒートテック腹巻きは、薄手で速乾性も高いので重宝しています」
腸活9:入浴前のスクワット30回で温浴効果アップ
「忙しくて、ゆっくり湯船につかる時間がない!」。そんな人は、入浴前のスクワットにチャレンジしてみては?
「お風呂に入る前に30回のスクワットをして身体がポカポカになると、温浴効果が早く感じられるので、入浴時間が短くてもお腹までしっかり温めることができます。スクワット30回は1分半もあればできるので、運動が苦手な人でも手軽にできますよ」
腸活10:寝る前の腹式呼吸で副交感神経を優位に
リラックス神経の副交感神経が優位な状態だと、腸内環境にも好影響を与える。
「寝る前に腹式呼吸をして、副交感神経を優位にしましょう。鼻から素早く息を吸い、口からゆっくり長く吐くのがコツ。これを数回行うことで、眠りが深く、腸の蠕動運動も正常になります」
腸にいい食習慣は“長続きする”を最重要視
日本で白米が主食になったのは1950年代ごろといわれているが、美肌治療のパイオニアである小柳衣吏子先生は「日本で生活習慣病が増え始めたのもこのころです」と話す。その原因の1つが、食物繊維の不足。
「白米を食べる習慣が定着するまでは麦などが主食だったので、穀物から食物繊維がとれていたのですが、現代社会では、食物繊維の多い穀物を食べる機会は少なくなってしまいました。だからこそ、日頃から意識して食べていくべきです」(小柳先生、以下同)
麦飯などはあまりおいしくない印象があり、敬遠されがちだが、
「今はもち麦など、おいしく食べられるように改良されています。腸に良い食習慣は、味、コスト、手間など、すべてにおいて“継続できるか”が重要。自分なりに続けやすい方法を見つけてください」
腸活11:納豆はアレンジで毎日飽きずに
納豆菌による整腸作用で腸活の定番メニュー・納豆だが、毎日同じ食べ方では飽きてしまうという人も。そこで先生が行っているのが、納豆への“ちょい足しアレンジ”だ。
「刻んだ野沢菜、ちりめんじゃこ、梅干し、ノンオイルツナなどを日替わりで入れ、飽きないように工夫しています。タレをかえるアレンジ法も簡単なのでおすすめ。私はお気に入りのしょうゆを入れて“味変”しています」
腸活12:もち麦で水溶性食物繊維を
「もち麦」とは、もち性の大麦のこと。ぷちぷち、もちもちした、独特な食感が特徴だ。
「10年以上、白米を炊くときは“もち麦”を同量入れ、半々の量にして炊いています。もち麦は水溶性食物繊維がとても豊富です。
大麦の一種ですが、今は食べやすくて、値段もお手頃なものが身近なスーパーで買えますよ。私はもち麦を食べ始めてから便秘をしなくなりました」
腸活13:キャベツのせん切りサラダで便秘知らず
食物繊維には水溶性と不溶性の2種類があり、腸を健康に保つには両方を偏りなくとると良い。
「不溶性食物繊維をとるために、ランチは毎日“キャベツのせん切りサラダ”をクリニックに持参して食べています。味つけにドレッシングは使わず、酢じょうゆと少量のマヨネーズが定番。市販のサラダを買うより安いので、節約にもなります」
腸活14:座ったまま腹筋で腸を動かす
腹筋運動というと寝転がって行う方法が一般的だが、小柳流の腹筋は座ったままでOK。イスに浅く腰かけ、上半身と足が垂直になるまで足を上げるだけ。これなら場所も取らず、腰への負担も軽い。1日10回×3セットを目標にやってみよう。
「狭いスペースでも手軽にできます。普段あまり腹筋を動かしていなかった知人は、この腹筋を10回やっただけで腸の動きが良くなり、おならが止まらなくなっていました(笑)」
腸活15:ホットコーヒーは美腸効果あり
アンチエイジング効果、抗酸化作用、美白作用など、美容・健康にうれしい成分が多く含まれているコーヒー。実は近年、腸にも有益との研究結果が出てきている。
「プレバイオティクスといって、小腸で分解・吸収されずに大腸へ到達し、大腸内の微生物のエサになる成分があるのですが、コーヒーにはプレバイオティクスの効果があるのです。ホットなら身体も温まり、一石二鳥ですよ」
ラジオ体操や減薬……腸が喜ぶ健康アクションを
「日本人の多くは、栄養の知識が偏っています」
と、長年、腸内細菌の研究を続けている内藤裕二先生は、日本人の食物繊維不足に警鐘を鳴らす。
「日本の食物繊維の基準量は1日20g。ですが海外では、食物繊維ががんや動脈硬化の予防にいいという認識が広まっており、食物繊維の世界基準は24g。
アメリカや東アジアの国々も、食べ物だけでこの基準を達成している中、日本だけが遅れをとっています。また、“これさえ食べていればいい”というものはないので、バランスよく食べることが重要」
糖質オフ流行(はや)りの昨今だが、炭水化物にも食物繊維が含まれるので減らしすぎはNG。
内藤先生いわく、60~70代を健康に過ごせるかどうかは、40~50代のときのライフスタイルが鍵を握る。日々の積み重ねが大切だ。
腸活16:白米は週に1回まで
内藤先生の自宅の食卓では、白米は週に1回までがルール。
「わが家では玄米や麦など、いわゆる“茶色い炭水化物”が主食です。昔ながらの食べ物は腸にも良い成分が多い。パンも同様で、白いパンはまったく食べません。全粒粉のパンなどを選ぶようにしています」
腸活17:薬は飲みすぎない
「日本人の腸内細菌のビッグデータを解析していると、腸内環境を悪化させている原因の中で“薬”の影響は大きいです。数年前から飲み続けている薬がある人は、今の症状でも必要かどうか、かかりつけ医と相談してみてください。
また、なぜその症状が出ているのか、生活を振り返ることも大切。ライフスタイルの改善で薬が不要になるケースもあります」
もちろん、独断で処方薬の服用をやめるのはNG。必ず医師と相談のうえで判断して。
腸活18:寝る前3時間は飲食しない
「腸を休ませて正常に働かせるため、睡眠は大事にしている」という内藤先生。食事の内容や飲酒の有無は睡眠の質を左右するが、加えて重視すべきなのが“タイミング”だ。
「胃に食べ物が入った状態で寝ようとしてもお腹が休まりませんし、寝る直前にアルコールを摂取しては疲労の回復もうまく行えません。良質な睡眠をとりたいなら、就寝の3時間前から食べたり飲んだりは控えましょう」
腸活19:10分のラジオ体操でほどよく運動を
腸活のためには運動も大切だが、三日坊主にならないためには「頑張りすぎずテキトーに」が先生のモットー。
「毎朝10分間、ラジオ体操を日課にしています。全身の筋肉・関節をまんべんなく使うので毎日の運動に最適」
ラジオ体操は内臓の働きを活性化する効果もあるといわれている。一方で、夜間にジムやランニングに励む人も少なくないが、激しい運動は睡眠を妨げる可能性があるので、生活リズム的にはあまりおすすめできない。
運動は、朝、太陽の光を浴びながら行うのが最適だという。
腸活20:毎朝のバナナスムージー
内藤先生が腸にいい栄養をカバーするために、10年以上毎朝欠かさず飲んでいるのが豆乳バナナスムージーだ。氷は入れず、身体を冷やしすぎないように気をつけている。
材料
・豆乳……200ml
・バナナ……1/2本
・食物繊維サプリ(水溶性食物繊維の粉末)※食物繊維の量が5g分
・青汁粉末……大さじ1
・はちみつ……適量(お好みで)
・えごま油……小さじ1
・きな粉……小さじ1
【作り方】
材料をすべて入れ、ミキサーで攪拌する。
※はちみつは1歳未満の乳児には与えないでください
取材・文/山中千絵(清談社)