自由に立ち、座り、そして歩くために重要な“股関節”。
多くの女性が悩んでいる「変形性股関節症」
「股関節は、ボールのような形をしている大腿骨の先端『大腿骨頭(だいたいこっとう)』が、骨盤にあるお椀形のへこみ部分『寛骨臼(かんこつきゅう)』にすっぽりはまり込む構造をしています。
重い上半身を支えながら、前後左右に動いて“歩く”という動作を可能にする関節です。つまり、人間が二足歩行をするために欠かせない器官なのです」
そう話すのは、股関節専門医の高平尚伸先生。
股関節は通常、大腿骨頭と寛骨臼の表面を関節軟骨が覆い、骨同士がぶつかるのを防いでくれる。しかし、関節軟骨がすり減って変形すると「変形性股関節症」を発症する。
「股関節の骨が変形するだけでなく、痛みを伴うのが『変形性股関節症』の特徴です。加齢や激しいスポーツで軟骨がすり減って発症する人もいますが、『寛骨臼形成不全』といって、もともと股関節の形に異常があるケースが約8割です」(高平先生、以下同)
これは、生まれつき寛骨臼の“くぼみ”が浅く、大腿骨頭がすっぽりはまり込んでいない状態。かぶりが浅いと股関節に強い負荷がかかるので、軟骨のすり減りも進行しやすい。
この寛骨臼形成不全は女性に多く、変形性股関節症の発症率も男性の約5倍にのぼる。
「女性のライフステージの変化も股関節痛と深く関わっています。妊娠中は体重が一気に増え、出産後も子どもを抱っこするなど、股関節に負担がかかる。
40代から50代、子育てが一段落したあたりに痛みが強くなり、病院に行って変形性股関節症が判明するという人も多いですね」
股関節痛を放置すると健康寿命が短くなる!?
変形性股関節症は、症状が悪化すると、安静にしていても股関節に痛みを感じるようになるという。
「軟骨のすり減りが軽度な場合、立ち上がる瞬間や歩きはじめに股関節が痛みます。しかし、軟骨がほぼなくなった『末期股関節症』まで悪化すると、常に激しい痛みが。とはいえ、股関節の痛みが原因で、身体を動かさなくなるのは非常に危険。
加齢とともに身体機能や認知機能が落ちます。“フレイル”や、加齢で筋肉量の減少と筋力の低下を招く“サルコペニア”を発症し、要介護リスクが上がってしまうのです」
股関節痛の放置は、健康寿命の短縮にもつながる。歩行困難となり、寝たきりの老後を迎えないためにも、早期のケアが必要だ。
「痛みを感じたら、まずは『股関節外来』を受診するのがベスト。もしも、近所の整形外科医院に数か月通っても痛みが改善されない場合は、股関節専門医にセカンドオピニオンを取りましょう」
変形性股関節症以外にも「大腿骨頭壊死症」「大腿骨頸部骨折」など股関節痛を伴う疾患は多くある。誤ったセルフケアを行うと症状が悪化する可能性があるので医療機関の受診は必須だ。
股関節症の進行と重症度
1.前股関節症
軟骨はすり減っておらず、動き出しに痛みを感じるが歩行中の痛みも軽度。休めば痛みが消えることが多い。
2.初期股関節症
軟骨がすり減りはじめ、関節のすきまが狭くなる。痛みを感じるようになり、骨が硬くなる骨硬化などが現れる。
3.進行期股関節症
軟骨はほとんどなくなり、骨が棘のようになる「骨棘(こっきょく)」ができる。骨には空洞ができ、痛みが強まる。
4.末期股関節症
軟骨がなくなり、骨棘が増大、股関節が大きく変形。強い痛みを常に感じる。さらに進行すると股関節が動かなくなり、あまり痛みを感じない。
変形性股関節症の治療で快適な生活を取り戻す!
自宅で股関節痛の予防やケアを行うなら、高平先生が考案し、病院でも指導している「3Dジグリング」がおすすめ。
「これは、股関節周りの筋肉を鍛えて関節を包む袋状の膜から産生される液(滑液)を増やしつつ、筋肉を覆う筋膜をほぐす、一石三鳥の体操です。
毎日続けると、すり減った軟骨が再生します。3Dジグリングに取り組んでから、痛みがほとんど感じられなくなった患者さんも多いです」
起床時や就寝前に行い、習慣化するとより効果的だ。
「末期股関節症まで進行し、生活に支障が出ている人は股関節の手術も選択肢に入れましょう。ひとつは、まだ末期には至っていない場合に、自らの骨を生かして変形性股関節症を治療する『骨切り術』。
身体への負担が大きいので骨の強度が強い50代までの人が対象となる場合が多いのですが、自分の股関節を温存できる手術です」
そしてもうひとつは「人工股関節置換術」。痛みの原因となっている部分を人工股関節に置き換える手術だ。
長年、股関節痛に悩んでいた女優の松島トモ子さんも、昨年両足に人工股関節を入れて以来、快適に過ごせるようになったという。
さらに、歌手の和田アキ子さんは、人工股関節手術に臨む決意をしたという。“トイレに座るのも大変だし、座ったら、立つ時も大変”と、昨年夏からの痛みが重症であったことを告白。
“まだいつとは決めてないけど、『する』って決めたら気持ちがすごい楽に”と、痛みに対して前向きになった胸の内を、自身がパーソナリティーを務めるラジオで、先月明かした。
「かつて、人工股関節は10~15年ほどで使えなくなるといわれていました。しかし、海外の調査では20年以上前に人工股関節置換術を受けた人の9割超が、現在も問題なく生活しているという報告があります。
また、人工股関節そのものも改良されており、材質や機能の質もアップしています。最新の人工股関節手術を受けて適切なリハビリをした患者さんの中には、後にフルマラソンを完走した人もいます」
ただ、若いうちに人工股関節にすると、年齢を重ねてから再手術を受けるリスクが残る。一生のうち1回で手術を済ませるために50歳以上が手術の対象になることが多い。
“人工股関節=スポーツができなくなる”という常識は覆りつつある。
「長い人生、自分の足で歩きつづけるためにも、股関節の違和感や痛みは放置せず、早めにケアを始めましょう」
高平先生が考案!『3Dジグリング』
股関節痛を改善する3Dジグリング。ただし、やりすぎは症状を悪化させるので、無理のない範囲で行うのがコツ。途中で痛みが生じたら中止しよう。
(1)背筋を伸ばし、足を肩幅に広げて立つ。両手を股関節の上に添えて両膝と股関節をやや曲げ、イラストのように腰を落とす。
(2)骨盤を右回りに大きくゆっくりと10回、回す。足は肩幅ほど開く。慣れてきたら、徐々に足幅を狭めていくとより効果的になります。
(3)次に左回りに骨盤を10回、回す。
《POINT》1分の体操を1日3セット行う。朝・昼・晩のタイミングで行うと習慣化しやすい。
(取材・文/大貫未来)