この夏公開の映画『キングダム 運命の炎』に伝説の大将軍・王騎役で出演し、そのマッチョぶりで注目を集めている大沢たかお。その大沢が主演の1人を務める10月期ドラマ『ONE DAY ~聖夜のから騒ぎ~』で江口洋介は20年ぶりの月9出演決定というニュースが流れ、織田裕二は放送中のドラマ『シッコウ!!~犬と私と執行官~』で30年ぶりに脇役出演し話題に。
このところ世間から注目を集めている3人の男たち、実は全員55歳。トレンディードラマ全盛のころ、絶大な人気を誇った3人が1周回って今イケてる理由はなぜなのか。
自分の道を貫いてきた3人
「この3人はブレずにそれぞれ自分の道を貫いてきた人たち。それが今いい形になって再びウケている」
と話すのは、芸能評論家の宝泉薫氏。大沢たかおはストイックな役作りで知られ、『キングダム 運命の炎』ではアイスクリームと生クリーム、シリアル入りのプロテインを1日3回とり、20kgの増量を達成。日増しに大きくなる身体に合わせ、衣装を4回作り直したと関係者が明かしている。実際、王騎に扮する彼の腕はムキムキで、かつてのトレンディー俳優のイメージは影を潜めるが─。
「彼が追求しているのは、自分がカッコいいと思えることができているかどうか、ということ。大沢さんはいわば自分探し系の人で、常に何か刺激を追い求めている」(宝泉氏、以下同)
『キングダム』での徹底した肉体改造もその一環だと話す。「今回のマッチョにしても、みんな純粋に称賛しているわけではなくて、その年齢でそこまでやるか、という驚きの意味での注目が大きい。けれど彼の場合は自己完結していて、自分がカッコいいと納得できていれば世間がどう思おうと気にしないところがある」
大沢は10月期に月9ドラマ初主演
大沢は大学在学中にモデルとして活動を始め、俳優に転身。'95年ドラマ『星の金貨』のヒットで役者としての地位を確立し、その後も'04年映画『世界の中心で、愛をさけぶ』、'09年ドラマ『JIN―仁―』、'15年大河ドラマ『花燃ゆ』など数々の人気作に出演してきた。一見すると順調なキャリアだが、'16年から2年間俳優を休業し留学。その理由を自身は「仕事にドキドキしなくなっていたから」と語っている。
「彼は独自の美学を持っていて、それが謎めいた魅力になっている。また芸能人はそうしたものを仕事に反映させやすく、実際彼の場合うまく噛み合っている感じがします。声優として出演した映画『おおかみこどもの雨と雪』のおおかみおとこ役など、ミステリアスで人間ではない役まですんなりこなしてしまう。それは彼が考える“カッコよさ”を貫いてきたから」
また大沢は、10月期ドラマ『ONE DAY』で月9ドラマ初主演。老舗レストランで働く頑固な孤高のシェフ役で、「こんなに挑戦したいと思える作品はないと思った」と心境を語っている。近頃は迷走ぶりも指摘される月9だが、はたして大沢の主演起用は吉と出るか。
「月9が新機軸を打ち出すという意味では彼の起用はよいのでは。ただ大沢さん自身は数字は気にせず、当たっても当たらなくても淡々とやっていくでしょう」
大沢と真逆のタイプが織田裕二。宝泉氏いわく、
「世間の評価を気にしない大沢さんに対して、織田さんは世間の思うカッコよさを貫きたい人。みんなにカッコいいと言われて、初めて納得できるタイプ」
織田のデビューは'87年の映画『湘南爆走族』で、'91年『東京ラブストーリー』の永尾完治役で一躍ブレイク。続く'93年『振り返れば奴がいる』で評価を高め、'97年スタートのドラマ『踊る大捜査線』は映画化もされ絶大な人気を博した。しかし近年はかつてのような話題作に恵まれず、13大会連続で務めてきた世界陸上のメインキャスターも昨夏をもって卒業するなど、めっきり露出が減った印象がある。
不器用にアップデートを図る織田
「彼は脇役のオファーをしにくい人。少し前の田村正和さんや木村拓哉さんなどもそう。主役扱いをしなければいけないと周りが気を使い、そうなると作品も限られてくる。加えて数々の武勇伝も拍車をかけています」
'93年に主演した映画『卒業旅行 ニホンから来ました』では監督とのトラブルが取り沙汰され、『踊る大捜査線』では共演の柳葉敏郎との不仲説が囁かれた。また織田のモノマネをしたお笑いタレントに、事務所から「織田を傷つけるような発言に気をつけるように」と通達が届いたという報道もあった。いずれにせよ、周囲が一歩距離を置きがちなムードはあるようだ。
主演にこだわってきた織田が、『シッコウ!!』でついに脇役に回った。作中では犬が苦手な新米執行官をユーモアを交え演じているが、「彼の中で“こういう役もやれる俺、カッコいい”という部分を求めてのこと」と宝泉氏。同時に今回のサブ受諾には起死回生の狙いもあると指摘する。
「ここ10年の織田さんが苦しいのは、彼が思うカッコよさと世間が求めるカッコよさにズレが出てきたから。周りがそれに気づかせようとしていて、彼自身、すごく不器用に令和のカッコよさにアップデートしようとしている。もしかすると、ここから彼の“カッコいい見せ方”が変わってくるかもしれません」
カッコよさの基準を自分に置く大沢と、世間に置く織田。一方、
「その中間をいくのが江口洋介さん。彼は自分の思うカッコよさと世間の思うカッコよさの両方を俯瞰してわかっている。そこのバランスの取り方がすごく上手」
江口は'87年の映画『湘南爆走族』に主演し、その後'91年『東京ラブストーリー』、'91年『101回目のプロポーズ』、'92年『愛という名のもとに』とヒット作に立て続けに出演。'93年には『ひとつ屋根の下』で人気を不動のものにするも、主演にこだわることなくサブ的立ち位置も積極的に務めてきた。その陰には織田の存在があると宝泉氏は言う。
「江口さんは織田さんがその世代のトップを走る姿を二番手として見てきた。ここまでやると叩かれるんだな、カッコ悪いな、主演ばかりしてると年を取ったときどうなるだろう、といったことに気づけるポジションだった。江口さんは今や最強の二番手。今の彼があるのは織田さんのおかげかもしれません」
江口は安心感抜群の一方で
10月期ドラマ『ONE DAY』で演じるのは主演の1人、二宮和也扮する逃亡犯を追う警視役。月9枠のレギュラーは自身が主演した'03年のドラマ『東京ラブ・シネマ』以来で、二番手での出演だ。
「江口さんは空気を読むのがうまく、どういう立ち位置を求められているか考え、時に二番手として期待以上の結果を出す。またそこで50代ならではの深みや渋みを感じさせる役者になってきている」
監督や演出家からの信頼も厚く、役者として確かな実績を積み上げてきた。しかしそこに一抹の不安もあると宝泉氏は話す。
「結婚生活も含めて人生すべてうまくいっている雰囲気があり、だから少し物足りない。ちょっと欠点を見せてほしい。何でそこまでマッチョにするんだろう、何でモノマネされて怒るんだろうというように、はみ出した部分がほしい。安心して仕事を任せられるのは江口さんだけれど、芸能人としてはやはり大沢さん、織田さんが面白い」
'90年代トレンディードラマを共に盛り上げ、そして再びイケ期を迎えた彼ら。世間は3人に何を望むのか、今後の行方を宝泉氏はこう語る。
「彼らのブレイクした'90年代はバブルが弾けた直後でまだその名残があったころ。特別な時代で、日本がいちばん元気があったころのスターが変わらず頑張っている姿を見るのはうれしい。クールな大沢さんと、熱い織田さん、その中間の江口さん。彼らには今後もこのまま貫いてほしいし、また世の中もそれを期待している気がします」
取材・文/小野寺悦子