JK・JC流行語大賞2020上半期に選出された悲しみを表す「ぴえん超えてぱおん」をもじった松崎さん作の法語は、Xで17万いいねを超える大バズりに(松崎さんのXより)

 連日報道される暗いニュース……。家族とは、平和とは?と思わずため息が出る、何かと生きづらい昨今―。そんな世相を受けてか、住職がネットで放つつぶやきや教えに反応する若者が増えている。仏教をもっと身近に、ココロの支えに。SNSを通して伝えたい思いを聞いた。

「インフルエンサー」として大人気のお坊さんも

〈ぴえんもご縁 超えてご恩〉〈「変だな」って思う直感だいたい当たっています。大切にしてください〉─。

 これらは、実際にお寺の掲示板に貼り出された言葉。そんな掲示板を撮影し投稿されたものが、X(旧ツイッター)で大きな話題となるなど、昨今、お寺の“住職”のつぶやきや投稿に、多くの『いいね』がつき拡散されている

 仏教にまつわるマンガをXにアップする住職や、般若心経を現代語訳にし、ラップ調でYouTube配信する住職、毎月手書きの御朱印をインスタグラムにあげる住職など、フォロワーが10万人を超え、「インフルエンサー」として大人気のお坊さんも!

 一見お堅いイメージのある住職が、なぜこんなにもSNSを活用しているのか?

一つには、若者の宗教離れという問題があると思います。全国のお寺や住職が抱えている課題です。私もお寺のことをもっと知ってほしいという思いから、日常のつぶやきや、画像を使った法事の告知などを発信し始めました

 と話すのは、北九州市八幡東区にある「永明寺」の住職、松崎智海さん。

 松崎さんと同じく、お寺の存続に危機感を覚えSNSの活用を始めた、大阪市平野区にある「専念寺」住職、籔本正啓さんはこう話す。

「住職は宗教者であると同時に、お寺の経営者です。数年前にこのままでは経営が立ち行かなくなると思い、イラストが入った手書きの御朱印、いわゆる“アート御朱印”を始めるなど、お寺に興味を持ってもらうために試行錯誤をしていました。

 インスタやXに、掲示板へ貼り出した言葉を投稿するのも、お寺のPRになればと始めたこと。TikTokも利用しているのですが、今では中高生の若い子たちが放課後にお寺に足を運んでくれるようにもなりました(笑)

写真左から籔本正啓さん、松崎智海さん

 実際にバズったおふたりの投稿や、バズりに至るまでの道中を詳しく聞いていこう。

SNSで反応されやすい『猫の写真を添える』

 23歳という若さで住職になった籔本さん。毎日欠かさずお寺の掲示板に「今日のひと言」を貼り出し、SNSにもアップ。多くの反響を呼んでいるが、もともとは、字の練習のために始めたそう。

葬儀の際に用いる、戒名などを記した“白木位牌”を書くのも仕事なのですが、住職になったばかりのころは字が本当に汚くて(笑)。人に見てもらったほうが上達すると思い、書いたものを寺の掲示板に貼るのが日課になりました」(籔本さん、以下同)

 最初は仏教の教えをそのまま書き写していたが、段々と今風な言葉を使うように。

内容は仏教の本筋からそれないようにしながら、見てくれる人に伝わりやすい言葉を選ぶようになりました。まだまだ未熟な身なので、自分への戒めの意味も込めています

 そんな日課である「今日のひと言」を、お寺のPRに活用できないかと、写真を撮ってインスタグラムに投稿するように。ただ、すぐに投稿がバズったわけではない。

フォロワー数もなかなか伸びず、多くの人の目に留まるにはと考えたときに『毎日投稿をする』、SNSで反応されやすい『猫の写真を添える』ということを思いつきました

 地域猫の保護活動もしている籔本さんは、自分で撮影をした地域猫の写真と今日のひと言を組み合わせてインスタに投稿をするように。すると、フォロワーが急増した。

地域猫は大変な苦労をしてきているので、ジロッとにらむような鋭い目つきをしています。そんな説得力のある表情をした猫たちに代弁してもらったことで、多くの人に言葉が届いたようです

 猫は仏教と縁の深い生き物。インドから経典を船で運ぶ際に、ネズミから守ってくれたという逸話が。そんな猫の力を借りつつ、籔本さんはこれからも投稿を続けていく。

庵野秀明監督のファンだという松崎さんが法事を告知するために作ったポスター。画像編集ソフト、illustratorを用いて制作し、人生初のバズりを経験(画像提供:松崎さん)

「お寺の発信力を高めたいという思いで、住職に拝命されたと同時にSNSでの投稿を始めました。現代のお坊さんは、ずーっと寺に閉じこもっている印象で、積極的に広報活動をしない。どんなに素晴らしい教えがあっても、知ってもらわないと始まらない。このままじゃマズイという危機感がありました」(松崎さん、以下同)

広報活動をするのは企業では当たり前

 その強い思いは、住職になる前に教員をしていた経験も関係しているという。

私立学校で仏教の授業をしつつ、入試広報の担当もしていました。広報活動をするのは企業では当たり前なのに、参拝者が減っているお寺がしないのはダメだと。ただ、広告を出せるようなお金があるわけではないので、ほぼ無料で使えるSNSを利用しようと考えました

 入試広報の仕事で身につけた画像の編集能力は、お寺の宣伝に多いに役立った。最初にバズったのは、ある映画をオマージュして作ったポスターだったそう。

浄土真宗の一大行事である報恩講を宣伝するために作ったポスターがバズりました。当時、映画『シン・ゴジラ』が公開されたばかりだったので、それをオマージュしたものです。そのポスターを撮影した人のツイートが話題になり、そこから私のアカウントを見つけてくれた人がたくさんいて、フォロワー数もグッと増えました

 映画や流行語、著名人のツイートなど、流行りにうまく乗った画像を投稿する松崎さんだが、芯にあるのはあくまで仏教だと話す。

仏教をおとしめることのないように注意しつつ、多くの人の目に留まるものを。そのバランスを大事にしながら発信をしています

 今後も、攻めた投稿を要チェックだ!

籔本正啓さん 大阪市平野区、浄土真宗本願寺派「一向山 専念寺」の25代目住職。通称「ネコ坊主」。インスタグラムやX(旧ツイッター)に投稿されたお寺の掲示板が話題。現在のXのフォロワー数は、約15万人(@yabumoto610)。

松崎智海さん 北九州市八幡東区、浄土真宗本願寺派「永明寺」の住職。2016年に住職を継職するのと同時にXでお寺のPRを開始。Xの現在のフォロワー数は、約4万人。著書に『だれでもわかる ゆる仏教入門』(ナツメ社)など。

 

バズるためSNSで反応されやすい猫の写真を添えるように。籔本さんのお子さんの誕生日に投稿した1枚。「私に相談をしてくれる方のなかには自信をなくして“私なんて”という人が多いので、そんなことはないですよ、と言いたくて書いた1枚です」(籔本さんのインスタより)

 

笑顔で挨拶をする、話しかけること自体がプレゼントである仏教の考え方「和顔施(わがんせ)」という言葉の対極にあるのが不機嫌だと解説(籔本さんのインスタより)

 

8.2万いいねがついた籔本さんの投稿。「日本では、科学が発達する前は第六感をすごく大切にしていました。そんな歴史からも言える言葉かなと思います」(籔本さんのXより)

 

裸芸人“とにかく明るい安村”がイギリスの人気オーディション番組で大ウケし、再ブレイクをしたタイミングで書かれた1枚。笑えつつも、どこかホッとする法語だ(松崎さんのXより)

 

2025年に開催される大阪万博の“いのちの輝き”をテーマにデザインされたロゴマークがバズった際に制作した“念珠”(松崎さんのXより)

 

伝説のバンド、クイーンを描いた伝記映画『ボヘミアン・ラプソディ』のポスターを意識して投稿した1枚(松崎さんのXより)

 

松崎智海さん
籔本正啓さん