9人組のK-POPアイドル・ZEROBASEONE(ゼロベースワン。以下ZB1)が、デビューわずか1か月でドーム公演を成功させた。8月15日、韓国の首都・ソウルにあるドーム球場・高尺スカイドームにて、初の単独公演「2023 ZEROBASEONE FAN-CON」を行った彼ら。約1万8,000人を集めた超満員の会場でハイレベルなパフォーマンスを披露し、“モンスター級新人”と呼ばれるゆえんを証明した。若い女性を中心としたファンの熱気も尋常ではなく、開演前から韓国はもとより、日本、中国のファンがガチ過ぎる推し活を展開。その様子を現場からリポートする。
ZB1公演前日の夜。ドーム横の道路にどこからともなく人々が集まり、長蛇の列が作られた。ビニールシートを広げたり、キャンプ用と思われる折りたたみ式チェアを持参したり、一様に野宿に備えた装備だ。
人々の目的は、ZB1の公演限定グッズの購入。当初、グッズは会場のみで発売とされていたため(後日、オンライン販売が決定)、高額転売を目的とする「転売ヤー」と、確実にグッズを入手したいファンが早くから列をなしたのだ。
翌朝、電車やバスが動き始めると列はどんどん伸び、いつの間にかドーム横を流れる川の向こう岸の歩道まで延長。韓国もこの夏は猛暑で、当日のソウルの最高気温は32.7度。体感温度は40度近くまで上昇する炎天下で、何時間もグッズ列に並ぶのはもはや苦行に近い。
カオスなグッズ会場、ぼったくりと捉えるのかは人それぞれ
暑さがピークを迎えた日中、ついに熱中症と思われる症状で倒れてしまったファンも。日本の救急救命士にあたる応急救護士が救急車に乗って駆けつけ、一帯は騒然とした雰囲気に包まれた。
そんなカオスなグッズ会場のすぐ横で、目に留まったのがビニールシートの上に買ったばかりのグッズをごそごそと並べるファンの集団。交わされている会話を聞く限り、日本人グループもちらほらといる。「これは交換用? 売り物?」と試しに聞くと「売り物です」と返答。定価1万ウォン(約1100円)のうちわの値段を尋ねると「5万ウォン(約5500円)」と返された。
この5倍の値段を代行費用と捉えるのか、ぼったくりと捉えるのかは人それぞれだろう。だとしても、海外に来てまで“即席転売ヤー”となることをいとわない商魂のたくましさに驚きを隠せなかった。
ファンのグッズ販売にパトカー出動
韓国で行われるアイドルの公演で、欠かせないのがファンによる自主制作グッズの無料配布。推しメンバーのPRを目的としたもので、紙製の応援スローガン、ステッカー、うちわ、ポストカード、キーホルダーなど、その種類は多種多様。ZB1の公演会場でも、韓国と中国のファンによる無料配布があちこちで繰り広げられ、賑わいを見せていた。
多くが推しのキメ写真やイラストを配置したグッズだったが、どこでどう入手したのかメンバーの幼少期の写真を用いたものも。肖像権なんぞガン無視状態だが、自腹を切ってグッズを好きなように作り、「〇〇(メンバー名)を応援してください」とつぶやきながら配布をする姿は微笑ましいものがあった。
ドーム前の一般道でさらに大々的に展開されていたのが、自主制作グッズの有料販売。こちらの販売者は「マスター」と呼ばれる人々。アイドルを追っかけては写真や動画撮影を行い、SNSなどで発信するファンの総称だ。
マスターはコンサートといった撮影禁止の場所にも忍びのごとくカメラを持ち込み、時に公式写真より魅力的な写真を撮ることもしばしば。そのため一部ファンの尊敬の対象となっており、多数のフォロワーを抱えるインフルエンサーとしての側面も持つ。
自身撮影の写真を用いた応援グッズの販売は、大切な活動資金となるため、どのマスターも見るからに気合十分。色とりどりのスローガンがずらりと並べられた歩道は、まるで出店が並ぶ縁日のような賑わいだ。しかし、ファンが殺到したため歩道はあっという間にすし詰め状態に。近隣住民と思われる韓国人が「うるさい!」「何だこれは」と不快を露わにしながら歩行しようとするが、ファンの圧に押されて立往生していた。
と、しばらくすると聞こえてきたのがパトカーのサイレン。この乱痴気騒ぎはさすがに通報されたようで、警察官がスマートフォンで動画を撮りながら「すぐ片付けなさい!」とマスターたちに撤去を命じていた。
しかし、そこは公演会場の警備員らとやり合うこともある百戦錬磨のマスターたち。ダルそうな表情を浮かべながら片づける様子だけ見せ、警察官が立ち去ると再びグッズを並べたり、場所を移動したりして販売を続けていた。実にタフだ。
中華パワー炸裂! ド派手な応援合戦
中国人メンバー2人を有し、中国でも絶大な人気を獲得しているZB1。その中でも多くの熱狂的ファンを抱えているのが福建省出身のジャン・ハオ(23)だ。
ZB1が誕生したオーディション番組『BOYS PLANET』で視聴者投票1位を獲得し、センターとしてデビューした彼。華やかなルックスに抜群の音楽センスをあわせもち、さらには頭脳明晰で音楽の教員免許を持つというパーフェクトガイだ(人格も魅力的なのだが、今回は割愛)。
そんなジャン・ハオを、組織的に応援することで知られるのが「ジャン・ハオ・バー」と称される中国人ファンの私設団体だ。
中国のファンはアイドルを「箱(グループ)推し」ではなくメンバー単位の「単推し」するのが基本で、人気グループとなるとメンバーごとにファンの応援団体(バー)が存在する。
以前、BTSジミンへの誕生日プレゼントとして、航空機に特別塗装を施したラッピング広告がファンから贈られたことがニュースになったが、その依頼主も中国のバー。CDの共同購入を万単位で行うほか、推しの誕生日にはドローンや花火を打ち上げるなど、ダイナミックな応援活動が特徴だ。
ジャン・ハオのバーもその例に漏れず、デビューCDをたった1日で10万枚予約したことで話題になったばかり。今回の公演でも組織力と資金力を発揮し、ドームの周囲にフラッグ式の応援広告を展開。さらには公演成功を祈願したアドトラックを走らせ、中華パワーを見せつけた。
また、ZB1のリーダーで韓国出身のソン・ハンビン(22)にも、高い組織力を持つ中華バーが存在。会場近くのカフェを貸し切り状態にして応援グッズの無料配布イベントなどを開催し、多くのファンを集めていた。
「推しの応援のためなら何でもする勢いの韓国や中国のファン文化は、やれることが限定的な日本のオタクからするとうらやましいし、面白い」とはソン・ハンビンのカフェイベントに並んでいた日本人女性(30代)。
実は韓国でもパブリシティ権侵害などもいとわないファンの行き過ぎた応援活動は問題視され、散発的に議論がされているようだが、約15年K-POPの現場に通う著者が見る限り、現場は依然そのままだ。
とはいえ、これらの応援活動がアイドルの人気拡大に貢献しているのは紛れもない事実。アイドルの事務所側も黙認どころか利用している向きさえあり、共存共栄と言えるかもしれない。ソウルでの単独公演後、米国で開催された音楽イベントに参加し、グローバルな人気を証明したZB1。今後も世界各地でファンを増やし、熱狂的な推し活をますますヒートアップさせそうだ。
取材・文/K-POPウォッチャー 小林レオ