「2017年4月、41歳の時に鼻腔(びくう)がんを告知されました。治療を終えて5年がたち寛解と言われているのですが、念には念を入れて今でも定期的に検査を受けています」
そう話すのはインスタグラムのフォロワー3.6万人の人気を誇るコミックエッセイストのやよいかめさん。
鼻炎が治らず市販薬を飲み続けた
最初に体調に異変を感じたのは2017年の初めだった。
「夫は転勤族で4月に転勤が決まっていました。引っ越し作業をしている時期に、当時小3の娘と小1の息子も含め、家族4人とも風邪をひいてしまったんです。私だけ治りが遅く、鼻づまりと微熱が続いていました」
やよいかめさんは市販薬を飲みつつ、家事育児と、引っ越しの準備をしていた。
「風邪が長引いていて、そのうち治るだろうと。だから、自分の体調よりも家族の生活のほうを優先していたんです」
しかし、引っ越しを終えて新しい暮らしが始まっても症状は治まらなかった。特に鼻づまりがつらく、夜も眠れない日が続いていた。
「近所の耳鼻科で処方された薬を飲んでも症状はあまり変わらず、総合病院を紹介されました。総合病院では鼻茸(鼻ポリープ)と診断され、手術を受けることに。
切除した鼻茸の検査の結果、“鼻腔がん”が見つかったんです。早期発見ではありましたが、年齢的に進行が早いので早急に手術をと告げられました」
鼻腔がん・副鼻腔がんの症状
□鼻づまり
□鼻血(少量でも)
□頬のしびれ
□片側だけ涙が出る
こうした症状が数週間にわたって「片側だけ」に続く場合は要注意。すぐに近くの耳鼻咽喉科か頭頸部外科を受診したいもの。
痛みを伴わないため、見過ごさないことが大切。症状が進行すると、眼球が飛び出す、歯のぐらつき、口蓋の腫れといった症状が現れる。
特に上顎洞がんは初期の段階では症状が出にくく、進行した状態で見つかることが多い。罹患者は男性が多く、喫煙者に多い傾向がある。
家族のお見舞いがつらい治療の励み
がんを告知された直後は頭が真っ白になったというが、やよいかめさんはすぐに冷静になった。まずはご主人に連絡し、帰宅後はお子さん2人に病気のことを話した。
「子どもたちは、『寂しくてもガマンする』、『病気を治して元気になって帰ってきて』と励ましてくれて。その言葉を聞いて手術に向かう勇気が出ました。
それまで私は家族のために自分が我慢するのが当たり前のことだと思っていたのですが、自分自身を大事にしていないと家族が困ることを痛感。これからは自分のことも大事にして、家族との時間を守ろうと思うようになりました」
やよいかめさんはさらに大きな病院に転院し鼻腔がんの治療を受けることになった。
「治療に対する不安はありましたが、それよりも心配だったのは家族のこと。子どもたちは転校したばかりで、通学にも学校生活にも慣れていないし、夫は忙しく、家事もあまりできない。夫婦共に実家が遠いので父母のサポートを受けるのは難しい。
当時は私の親も夫の親も仕事をしていましたし。でも結局、夫の父母に頼ることに。『あなたは自分の身体のことだけを心配してね』という言葉に思い切り甘えさせてもらいました」
やよいかめさんは入院し、放射線治療と抗がん剤治療を経て内視鏡手術を受けた。
「抗がん剤治療の前に吐き気や嘔吐といった副作用の説明は受けていて、覚悟はできていたのですが、一番つらかったのは意外にも精神的な落ち込みでした。
“私なんて生きている価値がないのかもしれない”とか、今思うと、どうしてそんなことを考えたのかが不思議なほど悲しい気持ちになってしまったんです」
入院生活の大きな励みとなったのが、家族のお見舞い。
「夫は毎日のように昼休みに様子を見に来てくれて。入院中に治療を受けている間は病人なのですが、子どもの顔を見ると母親のスイッチが入るんですよね(笑)。病院で勉強をみたりもしていました」
入院期間中の一番の出費が家計を直撃
一時退院をはさみ、入院期間はトータルで約1か月半。入院してすぐにやよいかめさんは保険の手続きを行った。
「まずは高額療養費制度の申請をしました。それから、医療保険の給付手続きもしました。その医療保険は、がんが見つかる数年前に家族でショッピングモールを歩いていた時に声をかけられて、たまたま加入したもの。あのとき加入していたおかげで、金銭面ではかなり助かりました」
入院費用はある程度の予測ができていたものの、予想外に出費がかさんだことが。
「義父母も仕事があったので、入院中ずっとお願いするのは難しかった。帰ったあとは、夫に頑張ってもらうほかなかったのですが、ただでさえ料理が苦手な夫が晩ごはんを作ると食べる時間が遅くなってしまいます。
外食で済ませたり、自宅で食べる時にはお惣菜を買ってもらったり。買い物をし慣れない人がスーパーに行くと余計なものを買ってしまいがちなんですよね(苦笑)仕方のないことですが、振り返ると、晩ごはん代を含めた食費に一番、お金がかかっていました」
無事に内視鏡手術を終えて退院。退院後の生活で変わったことはあるのだろうか。
「退院後は食事面が気になりました。いろんな情報がありますが、私が一番、信用しているのは国立がん研究センターのがんと食事に関するサイトの情報です。そこには“バランスのよい食事を意識する”とあります。
ですから、時にはジャンクなものを食べ、その代わり、次の食事では野菜をたくさんとるなど、トータルでバランスのいい食生活になればと。あまり突き詰めると続きませんからね」
昨年、寛解した後も1年に一度、経過観察の検査と自費でPET検査を受けている。
「保険適用外で高額なので、少しずつ“検査貯金”をしています。がんに対して敏感になっていることもあり、気になる症状があったらすぐに病院で診てもらうようにしています。そこはがんにかかって一番変わったことかも」
自身の鼻腔がんを振り返って思うことは。
「私は父と叔母をがんで亡くしていますが、今回自分が治療して改めて、医師、看護師、放射線技師、薬剤師……病院にはいろんな分野の専門家がいて、病気を治すためのプロフェッショナルな人たちが集まっている場所であることを実感、感動すらしました」
気になる症状がある方は早めに病院に行ってほしいとやよいかめさん。
「家族に、会社に迷惑がかかるから……体調が悪くてもそのうち治る。そう思いがちですが、病気が悪化したり、ましてや死んでしまったら迷惑どころではありませんよね。私は家族のためにも自分の健康を守っていこうと思います」
人間ドックでもできる全身がん検診「PET検査」とは
がんの有無や広がり、他の臓器への転移がないかを調べたり、治療中の効果を判定したり、治療後の再発がないかを確認するなど、さまざまな目的で行われる精密検査。
一度の検査でほぼ全身の撮影ができる。健康診断を目的に検査を受ける場合は保険適用外となり全額、自己負担。
心配なら定期的な検査を!