大手デパート『そごう・西武』を、親会社のセブン&アイ・ホールディングスが米国の投資会社に売却した。
今回の件だけでなく、東急百貨店渋谷本店をはじめとする老舗店舗の閉店や、小田急百貨店新宿店の複合施設化など、“デパートがなくなっていく”というニュースが後を絶たない。どのような背景があるのか。経済評論家で元・外資系戦略コンサルタントの小野裕介さんは、「デパートという業態のブランド力に経営陣があぐらをかきすぎ、ライフスタイルの変化など時流に乗る努力をしてこなかったのがまず要因」と語る。
消費者の変化と店舗の“デメリット”
「事実、今回の『そごう・西武』を買収した投資会社は不動産の価値向上が目的であり、大手百貨店というブランド力に魅力を感じたわけではありません。そして、以前は『デパートに行けば、お父さんのゴルフウエアから子どもたちのおもちゃ、お母さんが欲しい宝石まで、みんなの欲しいものがなんでもある』ということがデパートの存在意義でしたが、“みんな”、つまり一般消費者の意識や消費行動はかなり変わりました。
日本国内では2000年くらいからデパートの売り上げが下降していて、反対に家電量販店の売り上げが上昇しているのですが、これは携帯電話やパソコンなどといった近年における生活必需品の家電の購入額にも比例しています。いわば、『デパートへ行って高いものを買うより、安い店やECサイトで買い物をし、その分のお金を家電やスマホ代などに回す』が、現代の一般的な消費行動のパターンなのです」
また、入る店舗にしても、デパートのシステムではデメリットが多いのだという。
「デパートの場合、入る店舗は売り上げの約30%をデパート側に納めることになっています。一方、ショッピングモールのような複合施設の場合、テナント料だけでいい。デパートの“ブランド”を重視するのならいいかもしれませんが、割に合わないと考える店舗も増えています」
顧客を選び、育てる
そんなお先真っ暗に思えるデパート業界だがどうすれば存続できるのか。小野さんは「むしろ“ブランド力”を使うこと」という。
どういうことなのか。
「一般消費者ではなく、富裕層やインバウンド向けの商品やサービスをもっと充実させることです。実は、“デパートはオワコン”ではありつつも、新宿伊勢丹と阪急うめだ本店の2022年度の売り上げは、バブル期を超え過去最高収益を出している。両店とも、主な売り上げの内訳は高級ブランドの衣料やバッグ、宝飾品といった、富裕層向けの商品です。また、デパート側が特定の顧客の元に直接出向いて販売する『外商』も好調で、ステータスを求めて顧客になりたいという20代、30代が増えているほど。
つまり、デパート側がお客を選ぶ姿勢を見せたり、いい顧客を“育てる”ことが肝となりうるのです」
もうひとつは、「海外のデパートグループにあえて買収してもらうこと」だという。
「今、タイの『セントラルグループ』という企業は非常に勢いがあり、イタリアやスイスの老舗デパートを傘下にしています。彼らは今回『そごう・西武』を買収した不動産系投資ファンドとは違い、デパートと、その中に入っているブランド店の価値をわかったうえで買収している。例えば西武の場合、『コムデギャルソン』や『イッセイミヤケ』といった、世界的に人気のある日本のブランドを発掘した実績があります。そういう伝統と信頼を、まだ百貨店事業の歴史の浅いグループに“買って”もらうのです」
経営サイドが、まずは意識改革をしなければならないことは確かだろう。