大手企業のジャニーズ離れが明確になっている。ジャニーズ事務所の元社長、故・ジャニー喜多川氏による性加害問題を受け、各社は同事務所に所属するタレントの起用中止を相次いで発表している。
大手企業の契約解除ドミノ、気になるテレビ番組へのスポンサーは?
こうした流れを受け、11日には「起用に変更はない」としていた『花王株式会社』も翌12日には一転し、広告起用について「可及的速やかに中止する」と翻意。同じくジャニーズタレント起用継続の方針を発表していた「モスバーガー」を運営する『モスフードサービス』も、13日に「ジャニーズ事務所との契約は継続しないことを本日決定いたしました」と急遽方針を変更した。
いち早く8日に、ジャニーズタレントの広告起用中止を発表していた『アサヒグループホールディングス』の勝木敦志社長は12日、朝日新聞の取材に対し「取引を継続すれば我々が人権侵害に寛容であるということになってしまう」「人権を損なってまで必要な売り上げは1円たりともありません」と強い言葉で語っており、人権意識に鈍感な企業以外は、今後もジャニーズタレントのCM起用見送りは続くと見られる。
こうした企業の毅然とした対応と対照的なのが、ジャニーズへの長年の忖度体質が指摘されるテレビ局だ。
NHKはジャニーズタレントの起用について「今後は、所属事務所の人権を尊重する姿勢なども考慮して、出演者の起用を検討したい」と慎重な姿勢を示したものの、民放は「現時点でジャニーズ事務所所属タレントの番組出演について変更する予定はございません」(日本テレビ)、「これまで通り番組の企画内容などを踏まえ、出演してほしい」(テレビ朝日)など起用継続を早々に発表した。
ここで気になってくるのが、企業のテレビ番組へのスポンサードだ。
今回、ジャニーズタレントのCM起用を取りやめた多くの企業が、その理由として現状のジャニーズ事務所の被害者への対応が不十分とし、「明確な人権方針と第三者から見て企業としてのガバナンスを発揮している状態になるまでは、契約しない方針」(『キリンホールディングス』)など、その改善を求める声明を出している。
しかし、いまだ改善が見られない中でジャニーズ事務所のタレントが出演する番組のスポンサーを務めることは、間接的に改善前のジャニーズ事務所の体制を支持していることとなり、CM出演取りやめの理由と矛盾が生じてしまう。
7つの企業に取材、対応さまざま
テレビ局が変わらない中で、企業は番組スポンサーについてどう対応するのか。CM起用を取りやめると発表した7つの企業に取材した。
勝木社長が強いメッセージを発したアサヒグループホールディングスは、グループ会社のアサヒビールが関ジャニ∞の村上信五(41)がMCを務める『月曜から夜ふかし』(日本テレビ系)やTOKIOが出演する『ザ!鉄腕!DASH!!』(日本テレビ系)の番組スポンサーを務めている。
番組スポンサーの対応については現在スポンサーを務める番組や、今後の新番組も含め「(アサヒグループの)人権方針に基づいて、番組ごとに個別に丁寧に検討を進めている段階です」と回答した。
ジャニーズタレントの広告起用の取りやめと同様の方針で判断をするとしたのが、『第一三共ヘルスケア』だ。ジャニーズ出演番組ではアサヒグループホールディングスと同じく『月曜から夜ふかし』の番組スポンサーを務めている。
第一三共ヘルスケアの広報は「先日の(ジャニーズ事務所の)記者会見の内容を踏まえ、十分な対応が取られるまで、タレントを起用した広告やプロモーションの実施を見送り、新たな契約や契約の更新についても行わない」と企業としての方針を説明した上で、番組スポンサーについても「この方針に即して判断いたします」とした。
現状では対応について答えられないとしたのが『日産自動車株式会社』、『キリンホールディングス』、『日本マクドナルド株式会社』の3社だ。
日産は「現時点でお答えできる内容については、所属タレントを起用した新たな販促物等は展開しませんというもののみで、番組のスポンサー等については今はお答えできない状況です」と回答を控えた。キリンも「現時点で決まったことはありません」とした。
日本マクドナルドも具体的な回答は控える一方、「当社は、人権を尊重した行動をとることを求めた『サプライヤー行動規範』を制定しており、サプライヤーに対しても、当該基準の遵守を求めております」とし、それをテレビ局や番組にも求めるかとの問いに対しては「大枠では含まれております」とした。
番組スポンサーの対応について、これまでと変わらないと回答したのが『日本航空株式会社』だ。
「タレントを使うか、使わないかという企画に関してはテレビ局が行うものですので、協賛する可能性はあります」(日本航空の広報)
また『東京海上日動』は「ジャニーズ事務所に関連した報道に関わらず、10月以降のテレビ番組について、スポンサーとしてのレギュラー提供自体を実施しない予定となっていました」とジャニーズの会見以前から、テレビの番組スポンサーを行わない予定だったと明かした。
民放テレビ局にとって番組スポンサーは生命線で、その影響力は大きい。
11日にNHKで放送された『クローズアップ現代』のジャニーズの性加害特集に出演した、情報番組、ニュース番組のディレクターやプロデューサーを務めた元フジテレビの吉野嘉高氏は、ジャニー喜多川氏の性加害がメディアに報道されなかった理由として、番組スポンサーへの配慮があったと明かしている。
「ジャニーズに触れないということです。触ると大ごとになる可能性があるから、やり過ごした方がいいと最初に言われた。CMに出ているタレントさんも多いですから、営業とかスポンサーさんとか、ジャニーズ関連のものは全てアンタッチャブルにしていくと」(11日放送の『クローズアップ現代』から)
ジャニーズ事務所は13日、公式サイトを通じ、被害補償及び再発防止策について発表し、
「弊社は失った信頼を回復できるように全力を注ぐととともに、今後1年間、広告出演並びに番組出演等で頂く出演料は全てタレント本人に支払い、芸能プロダクションとしての報酬は頂きません」
としたが、ジャニーズという社名を変更しないことや、藤島ジュリー景子元社長が株式を100%を持ったままであることなどから不十分であるという声もある。果たして企業側はどのような対応にでるのだろうか。
メディアの沈黙もあり、ジャニーズ性加害問題はBBCという“外圧”がなければ闇に葬られていた。そしてジャニーズの謝罪会見が行われた後も、テレビ局は何とか現状を維持しようとしている。根っからの忖度体質を変えるためには、CM起用中止だけでなく、スポンサー企業のテレビ局へのプレッシャーが鍵を握る。
(取材・文/徳重龍徳)