「今の小学生は『HB』の鉛筆はほとんど使わないようです。子どもたちの筆箱の中も『B』や『2B』『4B』しか入っていません」と小学4年生の母親。
昭和世代にとって2Bは、「書写」や「スケッチ」の授業でしか使わなかった記憶がある。それが今や「主流」になっているのだという。
学校で使う「鉛筆」に何が起きているのだろうか。1913年創業の老舗鉛筆メーカー「トンボ鉛筆」の広報部に聞いた。
HBは「わずか2%」
「実は学童向けの鉛筆は2000年にはすでに2Bが49%、HBが14%という割合になっていました。その流れは年々加速していて、2022年には2Bが74%、HBはわずか2%にとどまっています。
ただ、弊社が学童用として作った鉛筆の販売を始めたのは1979年ですが、このときすでに、2Bの鉛筆がよく売れていたという証言も残っていますので、当時から愛用していた小学生が一定程度はいたと思われます」
HBは2%……。なんともふびんな印象を覚えずにはいられないが、どうしてこのような濃い鉛筆が好まれる状況になったのだろうか。
「授業のIT化の影響が大きいと思います。パソコンなどが普及したことでキーボードを叩くことが多くなりました。必然的にノートに書き写すなどの機会は減ります。
日常的に書くことをしないと、筆圧が下がってしまう傾向にありますので、芯が硬いHBでは書きづらく、指や手首が疲れてしまうのです。
また、濃い(やわらかい)鉛筆は文字の『とめ、はね、はらい』をしっかり表現できますし、書いているときの力の加減も調節できます。そういったことから小学生にはメリットがあると思います」(トンボ鉛筆広報部、以下同)
企業や役所ではHBが活躍
こうした利点が「ママ友」の口コミで広がり、小学生の間で2Bが主流になっていったとみられている。
ではHBに存在意義がなくなっているのだろうか。ぜひ復権してほしいものだが、意外な「活躍」が聞けた。
「会社などでも事務用に限っていえば、2022年にHBのシェアは46%あります。一方、2Bは25%です。この数字を見るとHBは活躍してくれていますね。
また、国政選挙の投票所で投票用紙に書き込む際に使用されている鉛筆もHBなんです。役所でも使用されているのはほぼHBです」
HBに限ったことではないが、鉛筆は災害備蓄品としても重宝されている。インクタイプのペンだと、保管している間に中のインクが固まったりペンの先端が乾燥したりして、いざというときに使用できないことがあるそうだ。
「しかし鉛筆はそういった劣化の心配がほとんどありません。先を削ればすぐに使用できますから備蓄には向いているんです。鉛筆には無限の可能性があります」
鉛筆愛に満ちたトンボ鉛筆広報部である。
そして「子どもが初めての筆記具に鉛筆を使うメリット」についても教えてくれた。
「鉛筆は安価で丈夫、誰でも説明なく使えますから、言ってみれば『すべての筆記具の持ち方の基本』が学べます。
また『芯を研ぐ(削る)』といった手入れが必要ですから(ナイフや鉛筆削りなど)道具の使い方も覚えられます。
そして書いた文字を消しゴムで消すことができるので『やり直しの連続』である子どもの学習には最適だといわれています。手書きは常に、脳を鍛えます」
久しぶりに鉛筆を使いたくなった。