NHKの朝ドラ『らんまん』がクライマックスを迎え、10月からは趣里主演の『ブギウギ』がスタート。主人公は植物学の父からブギの女王へとかわり、歌とダンスに彩られた華やかな世界が描かれる。朝ドラから1日の始まりを迎える人も多いだけに、できれば面白いドラマが見たいというのは共通の思いだろう。逆にどんな朝ドラにがっかりしてしまったのか? 30代~60代の女性1000人へのアンケートの結果、残念な朝ドラに選ばれたのは……。
伝説的ながっかり朝ドラ
がっかり1位は黒島結菜主演の『ちむどんどん』('22年)。“#ちむどんどん反省会”が流行語になったくらいだから、当然といえば当然の結果か。
「ヒロインを筆頭に登場人物すべてに感情移入できなくて、イライラしどおしだった」(京都府・44歳)
「俳優さんに罪はないが、役がひどすぎて嫌いになりかけた」(千葉県・57歳)
などキャラクターの言動に多くの非難が集まった。ドラマウォッチャーの漫画家・カトリーヌあやこさんも、「今後の朝ドラは『ちむどんどん』以前と以後に分かれるでしょう。それほど伝説的ながっかり朝ドラです」と苦笑する。では、なぜそれほどまでにダメだったのだろう。
「朝ドラにはがっかりの3大要素というのがあるんです。ひとつは夢の迷走。ヒロインの夢や目標が次から次へと変わっていく。もうひとつがイージーモード。ヒロインがさほど困難もなくとんとん拍子に成功していく。
そして、理不尽なストレス。身内にトラブルメーカーがいて、ヒロインを苦境に追い込んでいく。『ちむどんどん』のスゴいところは、この3大要素を全部網羅している(笑)。兄は次々にトラブルを持ち込み、借金を重ねる。迷走するヒロインは略奪愛までしちゃうし、病弱な妹は最後までどんな病気だったのかわからない。
すべての展開に納得がいかないという朝ドラ史上に大きな爪痕を残した作品で、今後どんながっかり朝ドラが生まれても、『ちむどんどん』に比べれば……となる可能性は大。逆に反面教師として制作陣にはお手本になる作品ですよね」(カトリーヌさん)
2位は『純と愛』('12年)。夏菜主演、遊川和彦脚本で、運命の男性とともに理想のホテルをつくるという夢に向かって進むヒロインの姿を描く……とあらすじだけ聞くと朝ドラっぽいが、その内容は朝ドラのイメージとはかけ離れたものだった。
「ヒロインは前向きだったけど、あり得ないほど悪いことが起こるので気が滅入った」(新潟県・52歳)
「話が飛ぶ。現実味がない。最後も意味不明のメルヘンで終わった」(神奈川県・62歳)
と辛辣な意見も多かった。
「脚本の遊川さんが作るドラマって常に壮大な社会実験なんですよ。『純と愛』の場合は、夢と希望をテーマにした朝ドラに不幸に次ぐ不幸をぶち込んだらどうなるのかという実験で、そんなの朝ドラとして成立するわけがない。
遊川さんが神として箱庭の中の人たちをみんな不幸にした結果、見ている私たちも不幸になった(苦笑)。理不尽なストレスがかかりまくったまま、最後まで解消されずに終わった恐ろしいドラマです。
よく考えたら『ちむどんどん』も『純と愛』も沖縄が舞台なんですよね。NHKは沖縄に謝れと言いたい(笑)」(カトリーヌさん)
夢の迷走が一番のがっかり要因
朝ドラ史上屈指のがっかり作品といえる1位と2位に比べるとそれ以下は団子状態。接戦を制し、3位となったのは永野芽郁主演、北川悦吏子脚本の『半分、青い。』('18年)だ。
「出演者は豪華でしたが、主人公のキャラクターが好きになれなかった」(長野県・52歳)
「途中からストーリーの方向性が見えなくなった」(東京都・43歳)
などのコメントが寄せられた。佐藤健、中村倫也、間宮祥太朗、志尊淳、斎藤工らイケメンをそろえたところは北川作品らしかったが……。
「これはヒロインの夢の迷走が一番のがっかり要因です。漫画家を目指していたはずなのに、最初の挫折ですぐに諦めて結婚。母となったものの離婚し、田舎で五平餅を売ったり、最後はなぜか扇風機を開発(笑)。この脈絡のなさに視聴者はついていけなかったんだと思います。
あと北川さんがSNSで神回予告を連発したり、『あさイチ』の博多華丸さんの発言に反論したりと破天荒ムーブを繰り返し、視聴者を白目にしちゃった。漫画家編は北川さん流の創作論もあって、面白かったんですけどね」(カトリーヌさん)
そして4位はまだ記憶に新しい『舞いあがれ!』('22年)がランクイン。
「パイロットになる夢を諦めてから面白くなくなった」(東京都・65歳)
「目標も夢もコロコロ変わる主人公に不快感」(神奈川県・62歳)
最初の地道設定はどこに行ったのか
「アンケートのコメントを見てもわかるように、この作品も夢の迷走パターン。紙飛行機が凧になり、人力飛行機、旅客機と変化していくタイトルバックを見て、視聴者はパイロットになるか飛行機作りをするのだろうと予想したのに、途中からなぜかネジを作りはじめた。だったらタイトルバックにネジも入れたほうがいいのでは(笑)。
行き当たりばったりと、取ってつけたような不幸が訪れるのはがっかり朝ドラあるあるですけど、ヒロインの兄が投資に失敗したり、夫が迷走して急にパリに行ったりと、“このエピソード必要?”っていうのが多かった気がします」(カトリーヌさん)
5位は土屋太鳳主演の『まれ』('15年)。近年の若い女子の憧れの職業であるパティシエを題材にした物語は当たりそうに思えたが……。
「パティシエの世界がどのように描かれるか楽しみにしていたのに、ほとんどスルーされて残念」(千葉県・48歳)
「主人公がパティシエにならず、盛り上がらなかった」(埼玉県・54歳)
と期待どおりにならない展開にモヤモヤした視聴者が多かった。
「これも夢の迷走モノですが、そもそも主人公の設定が夢追い人の父を反面教師に地道にコツコツというキャラだったのに、なぜか市役所を辞めてパティシエになり、師匠からフランス修業を打診されるも夫を支えるために漆器店のおかみ修業を選択。
しかしすぐにケーキ店を開店し、でも妊娠して閉店……と最初の地道設定どこ行ったのっていうくらいブレブレだった。やっぱり、ヒロインがブレちゃうとがっかり感は増しますよね。あと、なぜに大泉洋を無駄遣いしたのかが解せない。無謀な夢を抱き、失踪ばかりしているお父さん役で本当にもったいなかった」(カトリーヌさん)
5位までは迷走するヒロインに視聴者が振り回されるパターンが多かったが、6位の『おかえりモネ』('21年)は少し毛色が違う。
ヒロインの“イージーモード”が反感を買う
「主人公の暗さが朝ドラに向いてなかった」(福岡県・42歳)
「過去を引きずっている人が多く、朝から重かった」(愛媛県・54歳)
とヒロインのキャラや作品のトーンが朝ドラ向きではなかったという声が多数寄せられた。
「朝ドラって何かしながら視聴する人が多くて、画面から目を離してセリフだけ聞いてる場合もあるんですけど、この作品は『……』の心情シーンがやたら多くて、今日は何があったのかよくわからないという(笑)。
ヒロイン役の清原果耶さんと坂口健太郎さん扮する菅波医師の、進展しない恋を応援するみたいな風潮もあったんですけど、作品の根底に震災があったりして、ヘビーな部分と登場人物の暗さが朝ドラだとちょっと厳しかったですね」(カトリーヌさん)
一方、7位の『なつぞら』('19年)は広瀬すずが演じたヒロインのイージーモードが反感を買ったよう。
「すずちゃんは可愛かったけど、すべてがうまくいきすぎてリアリティーがなかった」(愛知県・38歳)
などの意見が多かった。
「北海道を舞台にした前半の酪農の話は面白かったのに、上京してからとんとん拍子でアニメーターになっちゃった。視聴者はアニメ創成期の裏側の苦労を見られると期待したけど、そこはお留守でしたよね。前半と後半がまるで別の話になっていて、もう少しうまくリンクさせていればと思いました」(カトリーヌさん)
以下、『わろてんか』('17年)、『マッサン』('14年)、『おちょやん』('20年)と続くが、全体を通して見ると、視聴者の期待どおりに物語が進まない作品がランクインしている。
カタルシスは絶対に必要
「最近の視聴者って、ストレスにものすごく敏感な傾向があると思います。つらい状況の人に感情移入しすぎて自分自身の心が疲労してしまう共感疲労という言葉があるんですけど、まさにこれが朝ドラを見ているときに感じる主なストレスの要因だと思います。
朝からこんな嫌な気持ちになりたくないという。もちろん、イージーモードはつまらないですけど、ヒロインに苦難が降りかかるとしてもそれを凌駕するカタルシスは絶対に必要だと思います」
視聴者のイライラを長引かせないというのが、好感度の高い朝ドラを作る秘訣なのではともカトリーヌさんは語る。
「そのために必要なのが“良心”というポジションのキャラ。その人はブレずに主人公を支える。例えば『らんまん』('23年)の万太郎(神木隆之介)なんて相当めちゃくちゃな人じゃないですか。
でも、奥さんの寿恵子(浜辺美波)は絶対的に支持し、支えていく。『あさが来た』('15年)の新次郎(玉木宏)もそうですよね。妻のあさ(波瑠)を支えつつ、本当にダメなときはちゃんと諭す。そういうキャラがいれば視聴者も納得します。
ストレスが悪いわけじゃなくて、無駄に長引かせずにどこかでカタルシスを用意するのが大事。朝ドラにストレスは不可欠なんですよ。それがないと面白いドラマにはならないので」(カトリーヌさん)
要は物語をどう描くかということだろう。面白かった朝ドラの3位に入っている『ちゅらさん』('01年)は、舞台が沖縄で、トラブルメーカーの兄がいて……と設定的には『ちむどんどん』とほとんど同じ。描き方やキャラクター造形によって、これほどの評価の違いが出てしまうのだ。
「『ちゅらさん』は脚本が岡田惠和さんで、『ひよっこ』('17年)もそうですけど、けなげで素朴なヒロイン造形がものすごくうまいんです。絶対に応援したくなるヒロイン像なんですね。
やっぱり、ヒロインがどういうキャラクターなのかはものすごく重要で、面白かった朝ドラの1位の『あまちゃん』('13年)の能年玲奈(現・のん)さんは、今見てもキラッキラに輝いてます。しかも、『純と愛』の次の朝ドラだったから、闇からの光というギャップがハンパなかった(笑)。
夢への挑戦と家族愛という朝ドラの根本的なテーマは不変で、変わるのはヒロイン像。そこにどう時代性を織り込み、オリジナリティーを生み出していくか。普遍的なテーマをストレスなく見せてくれて、笑って泣ける。それが支持される朝ドラなんだと思います」(カトリーヌさん)
取材・文/蒔田陽平
カトリーヌあやこ 漫画家&テレビウォッチャー。著書にフィギュアスケートルポ漫画『フィギュアおばかさん』(新書館)など