「こう言えば、猛反発されるだろうし、炎上するだろうけど、『大谷翔平よ、さっさと出ていけ』といったところ」
メジャーリーグ・エンゼルスの情報を発信するポッドキャスト番組『Talkin' Halos』に出演しているジャレッド・ティムズ氏の大谷翔平についての発言が物議を醸している。
「もしかしたら、来シーズンのエンゼルスは大谷抜きでうまくいくかもしれない。今季のエンゼルスは大谷翔平のためにプレーするという姿勢だった。一選手のためだけにプレーするのは、チームとしてあるべき姿ではない」
と批判。大谷の才能は認めた上で、エンゼルスには不要だと主張した。
大谷は8月24日に右肘の靭帯損傷が判明。その後も打者として出場していたが、9月4日には右脇腹を負傷した。今季終了後にフリーエージェント(FA)となり、去就が注目される中、故障後の大谷はアメリカでどういった評価を受けているのか。
メジャー史上最高額の価値があるとの意見も
大谷の渡米時から、アメリカメディアで唯一の“大谷番記者”を務めた在米ジャーナリスト・志村朋哉さんに話を聞いた。
「在米の専門家の間では、“大谷選手が世界で一番の選手”と誰もが認めています。'21年から今年までの3年間、毎年MVPを取ってもおかしくない成績を残し、しかも二刀流だったという点で評価が固まりました。今年も、今後は試合に出なくても、大谷選手がMVPで間違いないだろうといわれています。誰がMVPを獲得するのかを予想するサイトでも、大谷選手のMVPが確実だとされています」
FAになれば、総額6億ドル(約883億7000万円)もの超大型契約になるとも予想されていた。右肘の靭帯を痛めたことは、去就にも影響するのか。
「ケガの状態についての新しい情報があまりないので、獲得を狙っている球団はその情報を待っている状態です。
右肘のケガが発表された直後は、総額が2億~3億ドルほど下がるといわれていましたが、実際は、打者としてもずば抜けているので、価値は下がらないでしょう。打者としてだけでもメジャーリーグでトップ。もし今後、外野を守って平均的な守備をしたとしても、MVPを毎年争う選手になるだろうし、投手として以前のような投球ができなくても、メジャー史上最高額の価値があるという意見が現地でも多く聞かれます」(志村さん、以下同)
大谷はメジャーリーグでも特別な存在だという。
「日本人メジャーリーガーではイチローさんや松井秀喜さんもスター選手でしたが、当時のスター選手の中の1人という感じでした。大谷選手の場合は、出身国関係なく、メジャーリーグ全体の中で飛び抜けた存在です」
アメリカでも抜きん出た活躍をしてきている大谷だが、盛り上がりには日米で温度差もあるよう。『大谷翔平「二刀流」の軌跡―リトル・リーグ時代に才能を見出した指導者と野球愛風土』(マガジンランド)などの著書がある小林信也さんによると……。
「日本とアメリカで報道の差というのはあります。日本では野球はスポーツの中でトップレベルの人気ですが、アメリカではアメフトとバスケが人気で、野球はその次という感じです。アメリカでは大谷選手の活躍を含めて、日本ほど、野球がそこまで騒がれていないというのはあります」
二刀流として、WBCやメジャーで活躍を続け、多くのファンを魅了してきた大谷だが、今後について考える時期になってきているという。
「二刀流だからこそ失っているものもあるということを考えなければいけません。投手としても一流なのは間違いありませんが、メジャーには大谷選手クラスの投手はほかにもいます。ただ、バッターとしては圧倒的。メジャーにも大谷選手ほどのバッターはほとんどいません。打者だけでプレーすれば、シーズン70本のホームランを30代後半まで打つということも可能でしょう。ただ、投手としても出場するのであれば、その可能性はなくなってしまいますね」(小林さん、以下同)
移籍は「二刀流を認めてくれる」が最大条件
右肘のケガや、来年に30歳となる年齢も関係してくる。
「二刀流はかなり負担がかかるので、いつかは故障するだろうと思われていました。いつまでも若くはいられないですし、バッターとして活躍できるうちに野手として、打席でも守備でも活躍するという選択をしてもいいのかなと。打者として数々の記録を打ち立てていく、“大谷翔平第二幕”という展開にも期待したいです」
大谷には二刀流、特に投手としてのこだわりがあるよう。現地で取材をするスポーツライターの梅田香子さんはこう話す。
「ピッチャーのほうに比重を置いて、投手として活躍したいという思いが強いみたいです。栗山英樹さんもおっしゃっていましたが、あまのじゃくな反発精神があるので、“打者でプレーすべき”と周りが言えば、投手として頑張ると思います。そうなると、FAになっても二刀流を認めてくれる球団になるので、エンゼルスに残留するという可能性も十分にあります。ケガの直後こそ来季以降の契約金が下がると思われましたが、現在はケガ前と変わらない評価。エンゼルスも史上最高額のオファーを出すのでは」
負傷しても大谷の“市場価値”は変わらないようだが、移籍先の候補が減ったのは事実のようで……。
「ニューヨーク・ヤンキースなどのアメリカ東海岸に本拠地を置くチームの幹部は、肘のケガに“それ見たことか。二刀流なんてムチャなことをしているから無理がきたんだ”と考える人もいるようです。
ただ、ヤンキースは大谷獲得にはそこまで興味がなく、大谷選手がメジャー挑戦を表明した'17年に断られたということもあり、オファーを出さない可能性もあります。大谷選手自身も現在過ごしている西海岸の環境を気に入っていて、何よりも二刀流を認めてくれるというのが最大の条件。初めからヤンキースなどは移籍先として、考えていないかと思います」(梅田さん)
アメリカでの大谷の“リアル”な評価も、日本と同じくらい揺るぎないものになっているようだ。
梅田香子 スポーツライターとしてアメリカに在住し、大リーグを中心に取材活動を行う
志村朋哉 在米ジャーナリスト。アメリカメディアで唯一の大谷翔平の番記者を務めた
小林信也 作家、スポーツライターとして、幅広い分野で取材、執筆活動をしている