ダウンタウン(浜田雅功、松本人志)がMCを務める『水曜日のダウンタウン』が、『TVer』史上初となる累計再生回数1億回を突破した。同番組は、プレゼンターが持ち寄った説を番組独自の手法で検証し、ダウンタウンとスタジオメンバーがトークをするというもの。
2020年12月の配信開始から約2年半での1億回突破という快挙達成に加え、最も再生数が多かった番組に贈られる「TVerアワード」の「バラエティ大賞」を2年連続('21年と'22年)受賞したことからもわかるように、今や『水曜日のダウンタウン』は、全テレビ番組の中でも1、2を争う人気コンテンツへと飛躍したと言っていいだろう。
番組をきっかけに盛り上がる“1次情報の価値”
「みんながそれを見て、2次情報として誰かに話したくなったり、つぶやきたくなったりするものに価値があると思うのですが、『水曜日のダウンタウン』はまさにその好例。この番組が話題になるのは、昨今めっきり減ってしまったテレビにおける“1次情報の価値”があるからだと思います。日曜劇場の『VIVANT』にも言えますが、番組をきっかけに話がふくらんでいく。後追い視聴でも人気になるのは納得です」
と話すのは、TBS時代に『中居正広の金曜日のスマたちへ』『オトナの!』などの番組を手がけてきた、バラエティープロデューサーの角田陽一郎さん。たしかに、『水曜日のダウンタウン』は、放送後、大きな反響を呼ぶことが珍しくない。放送文化に貢献した優秀な番組・作品に与えられる「ギャラクシー賞」を、「先生のモノマネ プロがやったら死ぬほど子供にウケる説」「徳川慶喜を生で見た事がある人 まだギリこの世にいる説」などで過去5回受賞しているのは、その証左に違いない。
半面、「中継先にヤバめ素人が現れてもベテランリポーターなら華麗にさばける説」をはじめ、BPO(放送倫理・番組向上機構)からにらまれる企画も少なくない。『水曜日のダウンタウン』ほど、“良くも悪くも”話題になる番組はないかもしれない。
同番組の演出を手がける藤井健太郎氏は以前、『週刊女性PRIME』の取材に、「エッジの効いた番組を作ってやろうとか、攻める番組を作ろうとか、そういう特別な気持ちはないです」と説明した上で、「自分が面白いと思ったものが、今の時代の温度感とマッチしているかどうかは考えています。世間が面白がっているものに、自分からすり寄ろうとは思いませんが、マッチするか否かは意識しています」と語っている。「自分自身が面白がれること」に重きを置いているからこそ、数々の名企画は誕生した。
前出の角田さんは、「『水曜日のダウンタウン』の面白さは、物事を俯瞰的にとらえる“メタ視点”を視聴者に提供している点も大きい」と語る。
「コンプライアンスの問題など、バラエティーの規制はどんどん厳しくなっています。しかし、『水曜日のダウンタウン』は、むしろ逆手に取ることで成立させてしまう。“こういうことをしたらアウトなんですよね?”ということを説として演出することで、時に揶揄し、時にエクスキューズする」(角田さん、以下同)
若かりしころの“演出”藤井健太郎は…
例えば、「事務所が痛みを伴う罰ゲームのために“特別な訓練”の講習を開催しても昨今の状況なら受け入れちゃう説」は、その典型だろう。「アツアツのおでん」「電流」「わさび」といった罰ゲームを受ける芸人たちに対して、その耐性があるか否かをテストする(そしてライセンスを与える)─という内容だが、厳しくなるコンプライアンスをちゃかしているのは明らかだ。
「ある種の社会実験というか、説の中では芸人さんやタレントさんの悲喜こもごもが繰り広げられる。その様子を、僕たち視聴者がメタ視点で見られるような作り方をしている。いじめのように見える企画も、あらかじめそういう設定であることを伝えていますよね。あくまで、その中で何が繰り広げられるかを検証している……とうたっている」
こうした手法は、過去にもあるといい、「人気企画になるケースが目立つ」と角田さんは続ける。
「『めちゃ×2イケてるッ!』の人気企画に、『予告寝起きドッキリ』がありました。その名のとおり、あらかじめ“寝起きドッキリを仕掛ける”と芸人さんに伝え、彼らがどうボケるかを観察するわけです。僕がディレクターをしていた『さんまのスーパーからくりTV』のご長寿早押しクイズもそう。視聴者にメタ視点を提供できるコンテンツは面白いものが多い」
先のインタビューで藤井氏は、「僕はポイントを少しズラす手法が好きなんだと思います。僕が担当する番組内で松島トモ子さんや夏木ゆたかさんを登場させたのも、“このご時世に!?”というちょっとズレた感覚を面白がっているからでしょう」とも話している。客観的な見方やズレた見方ができる、そうした間口の広い楽しみ方ができることも、『水曜日のダウンタウン』が他のバラエティーと一線を画す要因だろう。
「彼(藤井)とは、『さんまのスーパーからくりTV』で一緒に働いたことがありました。僕が中堅のディレクターで、彼はまだ若手のディレクターでしたが、若いのにずるくて賢いなという印象を持ちました(笑)。
『水曜日のダウンタウン』でも巧みに演出としてエクスキューズを入れることで、やりたいことをやり通す。裏を返せば、“絶対に放送してやる”という気概があるということ。テレビマンとして、すごいことだと思います」
時にそれが行きすぎてしまいBPO案件になってしまうわけだが、「ダウンタウンがMCを務めているからこそ、BPO案件になることすらもネタになってしまう」と角田さんは話す。
「お笑い界の絶対的存在であるダウンタウンが、ご意見番としても機能する。“こんなにふざけて大丈夫なの?”という視聴者の声を代弁するように、説に対しても忖度なしでダウンタウンがコメントしていく。演出でも巧妙に予防線を張り、さらにはダウンタウンがツッコむ。『水曜日のダウンタウン』のような番組を作りたいと思うテレビマンは少なくないと思いますが、こうした番組を作る上では完璧な座組み。まねしたくてもできないですよね」
その上で、『水曜日のダウンタウン』はあくまで「例外の存在」であるとも付言する。
「『悪意とこだわりの演出術』という彼(藤井)の著書がありますが、たしかに悪意がある演出ともいえる(笑)。『水曜日のダウンタウン』は、コンプライアンスに対してゲリラ戦のように抗戦する番組であって、表現の自由に対して真正面から戦うことはしないわけですね。ですから、バラエティー番組が『水曜日のダウンタウン』的な演出を目指すのは健全ではないと思います。『水曜日のダウンタウン』は、バラエティーの本流ではないんだけど、結果を出し続け、高い人気を誇る。稀有な番組だと思います」
真正面から戦うバラエティーがあるからこそ、『水曜日のダウンタウン』のような番組が重宝される。ギャラクシー賞かBPO案件か? まだまだ目が離せそうにない。
角田陽一郎 1970年、千葉県生まれ。東京大学文学部西洋史学科卒業。1994年、TBSテレビ入社。現在はバラエティープロデューサーとして独立し、文化資源学研究者としても活躍。近著に『教養としての教養』(クロスメディア・パブリッシング)がある