「彼はキレたら何をしでかすか分からない超危険人物。前に捕まったときも反省はゼロでした。それなのにこんなに早く出所して、案の定、すぐに人を殺めた。起こるべくして起きた殺人事件ですよ」
容疑者の知人は憤る――。
事件は9月11日未明、石川県白山市内のラブホテルで起きた。
「ホテルの従業員から『女性が血を流して倒れている』と通報があり、駆けつけた警察官が、金沢市内に住むデリヘル嬢Aさん(23)の亡骸を見つけました。しかしすでに犯人は、刃物を持ったまま逃亡していた」(テレビ局記者)
防犯カメラの追跡により石川県警は同日午前、金沢市内の繁華街で住居、職業不詳の中村信之容疑者(54)を銃刀法違反の疑いで現行犯逮捕。同日に殺人容疑で再逮捕されている。
ナンパして無理されると『お前、覚えとけよ!』
「逮捕前に繁華街をウロウロしているのを見かけました。身長が低くて、黒ジャンバーに赤シャツ。目立つのでよく覚えています。興奮した様子で通行人の女性にちょっかいを出して、無視されると『お前、覚えとけよ!』と大声で凄んでいたので恐ろしかった」(通行人)
逮捕時には女性を殺めたときに使用したとされる刃渡り19センチの刃物を所持していた。女性の首や胸には数十か所もの刺し跡があり、死因は失血性ショック。2人は初対面で、中村容疑者は「殺意があった」と容疑を認めている。
中村容疑者の経歴を調べると、逮捕歴が多数あった。容疑者を知る冒頭の知人によると、
「中村はこれまでに窃盗や覚醒剤、殺人未遂などで何度も牢屋に入っている。それでもまったく懲りずに、出てきたら犯罪に走ってしまう。ムカつくことがあると、衝動的に犯罪に走ってしまうんです」
容疑者の実家は白山市内にある。
「両親はずっと前に亡くなって、今は弟と2人暮らし。2016年に殺人未遂で逮捕されて、昨年出所した後はほぼ無職同然でした。家から大きな怒鳴り声が聞こえてくることもあって、近所の人はみんな怖がっています。弟さんはマトモな人で、かなり苦労しているみたい」(近隣住民)
取材を進める中で、16年に殺人未遂で逮捕されたときの裁判資料を関係者を通じて入手。そこには、身の毛もよだつような容疑者の悪行が記されていた……。
事件は16年11月、石川県内のパチンコ店で発生。中村容疑者は当時19歳の女性アルバイトを包丁で刺したとして、殺人容疑で逮捕された。
馬乗りになって約40秒間、上半身を10回以上包丁で刺す
裁判資料をもとに、当時の容疑者の行動を振り返る。
・16年8月 パチンコ店に度々訪れ、女性休憩室に押しかけて、被害女性に対して「ひと目惚れした」などと伝え、食事に誘う。
・同年10月上旬 パチンコ店裏にあるゴミ捨て場で女性を待ち伏せ、デートに誘う。女性が「店から客と個人的な付き合いをしないよう言われている」と伝えると、「店に俺のこと言ったのか」と逆ギレ。
・同年10月下旬 「俺のこと避けてるやろ」と難癖をつける。
・同年11月10日(犯行当日)午前9時半ごろ 長さ15センチの出刃包丁をリュックに入れ、帽子やサングラスで変装してパチンコ店に行く。防犯カメラにうつらないようフェンスを乗り越えてゴミ捨て場に侵入し、女性を待ち伏せる。
女性が入ってきた瞬間、体当たりして転倒させ、馬乗りになって約40秒間、上半身を10回以上包丁で刺す。その間、中村容疑者は終始無言で、女性は大声を出しながら必死に抵抗して身体を捻り、急所を避けたが左腕などに重症を負った。そして一瞬の隙を見て逃げ出す。
犯行後、容疑者は自転車で逃走。途中で血のついた衣服や手袋を神社に捨て、証拠隠滅を図る。
・同日正午過ぎ 身を隠すためラブホテルへ向かう。
・同日午後9時過ぎ ホテル代金を払わずに立ち去ろうとしたので、従業員に取り押さえられ、現行犯逮捕された。なお、容疑者は窃盗罪による執行猶予中だった。
犯行時の出来事について容疑者は公判で「記憶にない」と主張し、動機もわからずじまい。さらには「心神耗弱だったので責任能力は低い」「女性に10万円の見舞金を支払った」などとして、情状酌量を要求した。
一方で被害女性は、
「傷跡を気にして半袖の服を着ることができなくなり、トラウマで平穏な日常生活を失った。できるだけ重い罪でお願いします」と涙ながらに訴えた。
検察官の求刑は殺人未遂罪による、懲役13年。しかし……。
判決は懲役4年6か月の大幅な“減刑”に
裁判長の判決は、「殺人未遂は認められない。よって、被告人を傷害罪で懲役4年6か月(勾留分の230日を差し引く)に処する」。つまり、大幅な“減刑”となったわけだ。なぜなのか? 判決理由はこうだ。
「女性が逃げたとき、後ろから追えば殺せたのに、しなかった」
「頭や頸部は狙っていない」
「急所を狙われたという被害女性の証言は、極度の恐怖下の記憶で信ぴょう性がない」
「被告人は他店の女性にも『連絡先教えろや』『やらせろ』と声をかけていたので、被害女性にだけ特段好意を寄せ、殺意が湧くほど恨みを募らせたとは考え難い」
「むしろ動機は性的欲求によるものと考えるのが妥当(しかし、被告人はそんな主張はしていない)」
にわかに信じ難いが、以上の理由で殺意は否定された。
「偏った判決だと、地元で批判の声が上がったのを覚えています。あのとき、殺人未遂で収監されていれば……」(前出・知人)
トンデモ判決によって早々に野に放たれた中村容疑者。出所から1年を待たずに新たな“ターゲット”を見つけ出し、無惨な事件を引き起こしたのだった……。