ジャニーズ事務所は、10月2日に今後の具体的な方針を報告すると同社ホームページで発表した。
新社長に就任した東山紀之は、9月7日の会見では“社名変更はしない”方針を示していた。しかし、世間からの批判が殺到。経団連の十倉雅和会長も9月19日の定例記者会見で、ジャニーズ事務所の社名変更について、
「意見を差し控えるが、タレントの活躍の場を失わないようにしようと考えると、おのずと答えは出るのではないか」
と、発言。社名変更の必要性を示唆した。
年間500億円の“ファンクラブビジネス”
東山も、ここまでの批判を受けるとは予想していなかったのかもしれない。当初、社名変更をしないと決めた背景には、こんな理由があったよう。
「ジャニーズ事務所は、所属タレントたちに“会社名を残したいか?”という聞き取りアンケートを行ったそうです。その結果として“残したい”という意見が多数を占めた。だから、社名変更しない方針を打ち出したのです」(スポーツ紙記者、以下同)
ただ、こんな思惑も透けて見えると続ける。
「ジャニーズ事務所のメインの収入源は“ファンクラブビジネス”です。総会員数はネット情報だと約1300万人といわれています。この数字は、そう大きく違ってはいないはず。コンサートチケットは、ファンクラブを通じて販売されるのですが、チケット獲得のために他人の名義を借りて、1人で何口もファンクラブに加入している人も少なくないのです。親子3代でジャニーズファンという家庭もある。入会費と年会費で約5000円ですから、単純計算で年間500億円以上もの収益になります」
これに加えて、チケット代やグッズ販売の売り上げ。CDや映像作品などの販売益を足せば、年間売り上げ1000億円は下らないはず。
「名称変更をすれば“ジャニーズブランド”が消えるわけですから、離れるファンも出てくる。ファンクラブの会員数が減少することで収益の悪化を避けたかったのでは」
社名変更の効果
しかし、世論を受けて改革へと着手する。
「10月2日には社名変更に加えて新会社の設立も発表されるようです。タレントの仕事に影響が出ないよう、新たに設立した別組織に移籍させるということ。こうした動きから“再生”に向けた課題が出てくるはずです」
その課題の1つ目こそ、社名変更による影響だ。
企業経営に詳しい東洋大学の山本聡教授は、
「短期的に見れば、デメリットは少ないだろう」
と話す。どうしてか。
「事務所の不祥事とタレントへの愛着を失うことは必ずしもイコールではないんです。ファンクラブは、あくまでタレントを中心としたビジネスですから、収入の主流となるコアな会員は、そこまで減らないとも考えられます。Twitterが『X』に変わっても、みんな使っていますよね。しかし、単に社名変更するだけでは、この先の経営はうまくいかないでしょう。過去にほかの企業が不祥事を起こしたとき、どのように再建したかを学んでほしいと思います」
性加害をしたジャニー喜多川氏に由来する『ジャニーズ』の名を冠したグループは『ジャニーズWEST』や『関ジャニ∞』がいる。歌詞に『ジャニーズ』や『ジャニー』といった言葉が入っている楽曲は、全グループで16曲以上ある。社名が変わればグループ名も変更され、人気楽曲は歌えなくなる可能性がある。こうした部分にはどう対応するのか、注目したい。
株式の行方は?
2つ目の課題は、経営の悪化だ。企業法務に詳しいレイ法律事務所の河西邦剛弁護士が解説する。
「新会社設立には2パターンがあると考えます。1つは、藤島ジュリー景子氏が持つ株式を売却し、そのお金で被害者への補償を行う新会社を設立する方法です。法人としてのジャニーズ事務所は社名変更をするだけで、既存のタレントやファンクラブ会員との再契約はいっさい不要になる。しかし、問題は、藤島氏が持つ約2万8000株の買い手がいるのかということ。株をいくらで評価するのかもわかりませんが、売却すればかなりの金額になるはずです」
もう1つの方法は?
「新会社を設立してタレントや従業員を移すパターン。これについては、ファンクラブの会員1人1人と新会社が、契約を再度結ぶ必要が出てくる可能性がある。これによって問題となるのは、ファンクラブの会員が減少すること」
例えば名義貸しをしている場合は、ファンではない他人に契約意思の確認を行うことになる。
「再契約を迫られたときに退会してしまう人が出てくる。さらにタレントとも再契約が必要となる可能性がある。ファンクラブ会員やタレントが減れば、それだけ売り上げは減少します」
タレントにもファンにも、再考の機会を与えることが、再生への“楔”となるかもしれない。が、アイドル帝国の崩壊は着実に進行していると話すのは、とある芸能プロ関係者のマネージャーだ。
「King&Princeの分裂をはじめ、三宅健さん、IMPACTorsなど、所属タレントが次々と移籍している。こうした動きはさらに加速していくはず。実際に9月21日にA.B.C-Zの河合郁人さんがグループ脱退を表明しましたが、グループに残ったメンバー4人は滝沢秀明さんの芸能事務所『TOBE』へ移籍するという話も聞こえています。タレントが減少すれば、そのファンも離れていくわけですから」
既存タレントの移籍を、どれだけ踏みとどまらせることができるかも重要だ。
補償の問題点
3つ目の課題は、被害者の救済についてだ。
元ジャニーズタレントで性加害の被害者だったと打ち明ける男性は、次のように話す。
「補償額は一律になると思っています。なぜなら、性加害のほとんどは、ジャニー氏の自宅で行われていたため。被害者が何年何月何日に来て、何をされたのか。それを証明する方法がないのです。実際には被害に遭っていない元ジャニーズたちが“どうせバレないから”とお金欲しさに被害の申請をしているという話も聞きました」
性被害に遭った回数など、その程度に応じて支払われない可能性があるということなのか。被害の申請フォームには、性加害により受けた影響を記す箇所もあるが、この点にも問題があるという。
「性被害による影響は、自身では気がついていないこともあります。逆をいえば、過去に不眠やフラッシュバックがあったとウソを言うこともできるわけです。どうやって適切な補償をするのか教えてほしい」(同・被害者の男性)
被害者への救済がないまま、再スタートは許されない。帝国の行く末は─。