「'25年の11月から、50㏄のバイクに乗れなくなると聞いたんですけど……」
と困った顔をするのは、都内在住の50代主婦。これは'22年にスタートした国内排出ガス4次規制で、3年の猶予を与えられた50㏄バイクへの適用が始まることから出てきた“噂”。排ガスに含まれる有害物質の規制値がクリアできないバイクは、販売が認められなくなる。前出の主婦は「買い物に原付スクーターが使えなくなると不便」と、不満を口にするが、実際のところはどうなのか?
背景に“触媒”問題
「今、乗っているバイクについては関係ありません。'25年11月から販売される新車が規制の対象になります。このタイミングでおそらく、50㏄のバイクは製造されなくなるでしょう」
こう話すのは、モータージャーナリストの国沢光宏さん。なぜ、50㏄の製造がなくなるのだろうか。
「排ガスを浄化するマフラー内の『触媒』は、ある程度の高温にならないと新しい規制値に適応できないんです。対策としては触媒に熱線を入れたりといろいろありますが、燃費が悪くなりますし、車体の値段も125㏄より高くなってしまう。排気量が小さいのに割高になってしまうと何のための50㏄なの、ということになりますよね」(国沢さん、以下同)
乗り手もメーカーも「ウィンウィン」
まさに“主婦の足”にもなっている原付スクーターがなくなると、生活にも支障が出そうだが警視庁は9月7日、原付の二輪車区分を総排気量125㏄以下に引き上げることを検討すると発表した。
「おそらく125㏄の出力を落として50㏄の基準に合わせ、今までの原付と同じように2人乗りの禁止と二段階右折を、適用することになるでしょう。要は、原付免許で125㏄に乗れるようになるわけです」
こうなると、原付の主流は125㏄になるということなのだろうか。国沢さんは「私個人の意見ですが」と断った上で、
「世界で乗られているバイクで、いちばん主流の排気量は110㏄なんです。たった15㏄の違いですけど、エンジンも安く作れて、出力もちょっと絞るだけで50㏄と同じになります。警視庁は125㏄で検討しているようですが、110㏄を50㏄の代わりにするほうがメーカーにとってはおいしい話になるかなと思います」
エンジンの構造は50㏄とほとんど変わらず、110㏄は世界の工場で作っているので、コストダウンにもつながるのでは、と国沢さん。今回の規制強化は、乗り手にとってもメーカーにとっても“ウィンウィン”だとして、こう続ける。
「乗り手にとっては、原付免許のままで大きなバイクに乗れるようになる。メーカーにとっては、排気量が大きくなったことで50㏄に比べて少し高く売ることができます。
逆に、どうして今までやってこなかったのかなと思いますよね。今回の排ガス規制への対処法も含め、自然な流れではないでしょうか」
長年にわたって“原チャリ”という愛称で親しまれてきた50㏄。'25年を境にして姿を消していくのは、時代の流れということなのか─。