加齢などによって妊娠機能が低下した女性のため、東京都が卵子凍結の助成金制度を開始することを発表した。
都が開催する説明会への出席や、凍結卵子の売買や譲渡の禁止など条件はあるが、凍結を実施した年度は1人につき上限20万円、次年度以降は保管更新時の調査に回答すれば1年ごとに一律2万円、最大5年間を予定している。
“社会的卵子凍結”への理解
また、従業員の卵子凍結を推進する企業にも補助金を支給するなど、環境整備にも力を注ぐ。これは卵子凍結を社会的に推進することにつながるといえる。都内で産婦人科を営むある医師は、こう語る。
「がん患者が治療前に卵子凍結をする際には補助金が支給され『医学的卵子凍結』がなされていました。この場合は生殖医療の一環として、15~39歳のAYA世代(思春期・若年成人)の卵子凍結、保存が推進されています。
一方、健康な女性による将来の妊娠・出産のための卵子凍結、いわゆる『社会的卵子凍結』は論外でした」
一般女性の卵子凍結が理解されにくい背景として、医療の組織団体から積極的な後押しがないことが挙げられる。
「日本産科婦人科学会は社会的卵子凍結を推奨しておらず、かなり消極的です」(前出・産婦人科医)
また日本生殖医学会は、加齢などの要因により生殖に必要な臓器の機能低下を来す可能性を懸念し、未受精卵子などの採取時の年齢を40歳未満、使用時は44歳までしか推奨できないと制限を設けている。
病院選びの重要性
前進しない「卵子凍結」に女性たちはため息をつく。仕事より出産を優先してきた女性たちの中には、
「子どもはもちろん、可愛い。でもキャリアを犠牲にしてきたかもしれない」
とモヤモヤ感を持っている人もいる。出産とキャリアの問題は働く女性の人生プランを考える上で重要なウエートを占めているからだ。
女性の人生は「妊娠・出産」に左右される。言い換えると妊娠・出産を「人生の転換期」と捉える女性が多い。晩婚化が進み、「健康な女性が若いころに凍結しておく」ということが当たり前になってきた今、卵子凍結を前提に人生設計を立てようとする女性も現れている。
社会情勢を踏まえて東京都とは別の形で取り組む自治体も。千葉県浦安市は2015~2017年度に、生殖補助医療の卵子凍結に公費を助成した事業を順天堂大学と共同で行った。将来に備えて34歳のときに助成を受けて卵子を凍結した女性(38)が2021年、当時の卵子で出産。34人が卵子凍結し、そのうち30人ほどの未受精卵子が現在も保存されている。
だがメリットばかりではない。がん患者の場合、卵子凍結を決意したときに一番困るのが病院選び。30代の乳がん患者は、
「病院やクリニックによって、妊娠成立の確率に、ものすごい差がある。だから病院選びがとても重要」
と、自身のケースを振り返る。病院選びの重要性については、一般の女性も同様だ。
「都から助成金が出るとはいえ、1回の凍結でクリニックによりますが30万~50万円の費用がかかります。加えて保存のために年間10万円以上のコスト。しかもお金をかけたとしても必ず妊娠できるという保証はないです」(前出・産婦人科医)
卵子凍結が社会的に推進されつつあるが、コスト的な面など課題はまだまだ山積みだ。
取材・文/夏目かをる