日本人女性のかかるがんで最も多いのが、乳がん。その数は年々増加し続けていて、生涯のうちに9人に1人が罹患するともいわれている。
日本女性の罹患1位、意外な乳がんリスク
主に20代から閉経後まで、さまざまな年代の女性たちにかかる可能性がある乳がんだが、なりにくい人となりやすい人がいること、そしてそこに意外なものが関わっていることが近年わかってきた。
「乳がんが増加した主な理由に、食生活の欧米化や女性の社会進出による生活リズムの変化などが考えられていますが、実はそのリスクを下げるポイントは、日々の暮らしの中にあるのです」
と教えてくれたのは、がん専門医の佐藤典宏先生。
今回取り上げる「リスクを下げる意外なポイント」は、すぐに生活に取り入れられるものばかり。詳しく知って、乳がんのリスクを遠ざけよう。
食事の見直しで乳がんリスク減!
乳がんのリスクを下げるカギとなるのが、意外な食べ物。
「驚く人もいるかもしれませんが、牛乳や乳製品が乳がんのリスクを下げる可能性があることが、最新の研究でわかったのです」(佐藤先生、以下同)
これまで、飲むと乳がんになりやすくなったり死亡率を高めたりするのではないかと勘違いされがちだった牛乳。しかし実際は、牛乳の摂取量と乳がんのリスクには関係がなく、むしろリスクを減少させる可能性があるという結果に。
「韓国で約9万人を対象に乳がん発症リスクを調べたところ、牛乳を1日1杯以上飲む人は、週に1杯未満しか飲まない人に比べて、50歳未満の乳がんのリスクが42%減ったという結果が2020年に出たのです」
牛乳は、タンパク質や脂質、炭水化物、ビタミン、ミネラルなど、多くの栄養が豊富に含まれ、中でもビタミンDやカルシウムには乳がんの発症リスクを下げる効果があると考えられている。
「牛乳は妊娠中の牛から搾るため、牛乳内に含まれるホルモンが、ホルモン受容性の乳がんを進行させるという説もありました。しかし海外の医学雑誌が、牛乳に天然に含まれるホルモンは、健康に影響する可能性は低いと結論づけていますので、安心して飲んでください」
次に注目すべき食べ物は、ナッツ類。
「'21年10月に発表された中国の研究で、がんと診断されてから10年が経過する約3千人の食事を調べたところ、診断後に定期的に一定量のナッツを食べていた人は、そうでない人に比べて乳がんの再発または死亡率が52%も低下したという結果が出ているのです」
ナッツには、不飽和脂肪酸やビタミン、ミネラルなどが豊富に含まれ、中でも天然のポリフェノールであるエラグ酸や、オメガ3脂肪酸のα-リノレン酸、β-シトステロールなどには抗がん作用があるとされている。
「ピーナツでもくるみでも他のナッツでも、効果に変わりはありませんでした。おやつが食べたくなったら、ぜひお好きなナッツをどうぞ」
続いて、リスクを下げると考えられるのが、ビタミンC。
「2020年、ビタミンCの摂取量が最も多いグループは、最も少ないグループに比べて発症リスクが14%減少したという論文が出ています」
さらに、再発リスクは19%低下、死亡リスクは22%低下するという結果から、ビタミンCの摂取が乳がんに大きく作用することがわかっている。
「ただし、これは食べ物から摂取した場合の結果で、サプリからの摂取では発症リスクの低下は見られませんでした。ビタミンCは、野菜や果物、いも類に多く含まれるので、サプリに頼るのではなく、これらの食材を積極的にとることをおすすめします」
牛乳やナッツ、野菜、いも類など、意外な食べ物が持つ乳がんのリスクを下げる効果。適量を継続的にとることで、効果が期待できるはずだ。
乳がんリスクになる危険な生活習慣
何げない日々の暮らしの中に、乳がんのリスクが上がってしまう危険な生活習慣もある。
「まず、見直してほしいのが睡眠時間です。長すぎても短すぎても不規則でも、乳がんの発症リスクが高くなってしまうので注意が必要です」
理想的な睡眠時間は6~9時間だが、それよりも長い人は乳がんの発症リスクが22%増加。これは、体内にさまざまな炎症を引き起こす物質が血液中に増えることで、がんの成長を促してしまうことが原因だとされる。
一方、睡眠時間が6時間未満のグループは、7時間以上のグループに比べて乳がんの発症リスクが60%高くなるという研究結果も出ている。これは、睡眠中に分泌される抗がん作用のあるホルモン、メラトニンの分泌時間が短くなるためではないかと考えられている。
夜勤や交代制勤務などで夜起きて仕事をし、睡眠が不規則になりがちな人も乳がんのリスクが高まることから、乳がんと睡眠は密接に関連していると考えられる。睡眠は規則的に、毎日7~8時間とることを心がけたい。
何げなくとっている食品にも、乳がんリスクを上げるものがある。先に紹介したナッツや魚などに含まれているのは不飽和脂肪酸だが、バターやラード、ヤシ油やパーム油などに含まれるのは飽和脂肪酸。フランスで約4万人を対象に行われた調査では、飽和脂肪酸の摂取が、乳がんのリスクを98%も高めるという結果が出ている。
近年の研究では、飽和脂肪酸の5%を、オリーブオイルなどの不飽和脂肪酸に置き換えると、がんによる死亡リスクが11%低下すると推測されている。できるだけ、植物性の良質な油をとるように心がけ、リスクを避けよう。
最後に紹介するのは、乳がん患者の生存率を左右する、体重の変化。
「乳がんにかかった人にとって、大幅な体重の変化は望ましくありません」
乳がんの診断を受けてから5年たつ患者を調査したところ、体重の変化が5%以内に維持されていた人は乳がんの症状が改善していたが、10%以上体重減少があった人は乳がん死亡率が3倍、10%以上の増加があった人は死亡率が2倍という結果に。
体重の10%増加ということは、例えば50kgの人なら55kgということ。その程度の増加で乳がん死亡率が倍になるのだから驚きだ。
「アメリカの対がん協会は、乳がん生存者はバランスのとれた食事をとって定期的に運動することで、健康的な体重を目指し維持すること、としています。適切な食事と適度な運動で、長期にわたって、体重を維持することが大切なのです」
日常に潜むさまざまな乳がんのリスク。まだまだ研究が進められている分野だが、10月のピンクリボン月間を機に、これらを少し意識したい。
(取材・文/後藤るつ子)