第31回 ジャニーズ問題
9月7日に会見を行ったジャニーズ事務所ですが、性加害を事務所として認めたこともあって、CMの打ち切りが決まるなど、波紋が広がっています。うまい着地点が見つけられないのは、喜多川氏が他界していることと無関係ではないと思います。氏が存命の時であれば本人が責任を取ったことでしょうし、事務所自体も大バッシングは受けたことでしょうが、法律に基づいて、被害者の救済や新体制への移行をするという意味の明快さもあったはずです。しかし、喜多川氏亡き今、ジャニーズ事務所は自分たちで、被害者と世間サマが納得する“落としどころ”を見つけなくてはならず、そのために、迷走しているように見えてなりません。
迷走しているのは、事務所だけではありません。この問題に関するテレビ局や、芸能人のコメントを見ていると、その人の「基本的な価値観」が透けて見えるような気がするのです。そこで、今回はジャニーズ問題に関するヤバ発言トップ3をあげてみたいと思います。
まずは、25日の社長定例会見で、ジャニーズ事務所に対して社名変更を求めた日本テレビ。
会社の名前を決める権限は、その会社にある
はっきりした物言いを評価する人もいるでしょうが、私は却ってテレビ局と芸能事務所のズブズブさ加減を思い知らされた気がしたのでした。ジャニーズ事務所に限らず、大企業が不祥事を起こすことは時々ありますが、その時に、取引先が「名前を変えろ」なんていうのを聞いたことがありますか? 私はありません。イメージが悪いから、あの会社は名前を変えたほうがいいと思ったとしても、なぜ直接言わないのか。それは会社の名前を決める権限は、その会社にあるからです。
テレビ局もまたジャニーズのように越権行為
テレビ局と芸能事務所と言えば、ある時はテレビ局側が強くて「タレントを出してやる」立場ですが、人気の芸能人を抱えている芸能事務所に対しては「出ていただく」というふうに、その時々で力関係が変わってしまうと予想されます。違う局の話ですが、「週刊新潮」によると、「ミュージックステーション」(テレビ朝日系)のプロデューサーが、他事務所の男性アイドルを同番組に出演させるか迷っていると、喜多川氏は「出したらいいじゃない、ただ、うちのタレントとかぶるから、うちは出さないほうがいいね」と番組からタレントの撤退をほのめかされたと話していました。
誰をテレビに出すかを決める権限はテレビ局にあるはずなのに、ジャニーズ事務所にお伺いを立てるのは、当時はジャニーズ事務所のほうが力を持っていたために、権限を事務所に明け渡してしまったからでしょう。今回の日テレ発言も同じだと思うのです。今はジャニーズ事務所が弱いので、社名変更という本来ジャニーズ事務所が決めるべきことにも、テレビ局は口を出していいと思っている。60年もの間、喜多川氏の性加害について問題にならなかったのは、立場の強いほうが好き勝手していいという論理のためだと思いますが、事務所が弱くなれば、テレビ局もまた越権行為をしてしまう。同じ穴のムジナというやつではないでしょうか。
お次は、立川志らく。
9月24日放送の「ワイドナショー」(フジテレビ系)に出演し、「ジャニー喜多川氏がやったことは許されるものではない。みんなジャニーズを叩きますよね」と前置きしたうえで、「ジュリーさんも、東山さんも、なんとなく知っていたけど言えなかった。我々メディアも言えなかった。じゃあ、同罪じゃないか」とメディアの罪に対しても触れています。
「今いる現役のタレントがCMを持てて、冠番組を持って、とできるように知恵を出し合うというのを芸能界がやってあればいいのに、一緒になって叩いてどうするんだ、同罪だろと思います。ジャニーズのファンたちはみんな悲鳴を上げている」
と提案を付け加えましたが、よその事務所の不祥事をなぜ無関係な芸能人が解決するんでしょうか。
負の清算が済んでいない企業にお金を落とす
確かにタレント本人が不祥事を起こしたわけではないのに、CMなどの仕事が奪われてしまうのは気の毒です。ただ、企業がジャニーズ事務所のタレントにCMを依頼するということは、多数の子どもに対する性加害を働いたという負の清算が済んでいない企業にお金を落とすことにつながるわけで、性加害を容認していると見られれば企業のイメージも下がってしまいます。ジャニーズ事務所は「今後1年間、広告出演並びに番組出演等で頂く出演料はすべてタレントに支払い、芸能プロダクションとしての報酬はいただきません」と発表しましたが、このスタイルであれば、ジャニーズ事務所にお金が入らないので性加害企業を容認したとみなされませんし、人気タレントの事務所からの流出を防げると事務所は考えたのでしょう。
しかし、この方法もいつまでも有効とは思えませんから、ジャニーズ事務所はあらゆる意味で生まれ変わった、性加害なんて起こさないし、起こらないことを内外に証明する必要がある。しかし、先日の会見から判断するかぎり、それがなされそうにもないから、こんな大騒ぎになっているのではないでしょうか。
マス層におもねる“メジャー志向”の表れか
芸歴が長く、大手事務所に所属する志らくなら、この辺の事情がわからないわけはないと思うのに、上記のような発言をするのは、ジャニーズのタレントのようなみんなが憧れる人、もしくはジャニーズファンというマス層におもねってしまうメジャー志向のせいではないでしょうか。志らくと言えばテレビに出まくっていた頃、自身の妻を紹介する際、「18歳年下の元アイドル妻」とトロフィーワイフであるかのような発言をバンバンしていましたが、「週刊文春」に自らの弟子と妻の不倫を報じられ、赤っ恥をかいてしまいます。「人気のあるのは、価値があるからだ、人気がある人を好きになる、そういう人とお近づきになりたい」というのは多くの人が持つバイアス(思い込み)の一つですが、このバイアスが強すぎると、性加害のような問題に蓋がされてしまうことも忘れてはならないと思います。
セカンドレイプと言われても仕方がない
ラストは、元フジテレビ女子アナ・中村仁美。
9月18日放送の「ゴゴスマ」(TBS系)に出演した際、「元ジャニーズとか現ジャニーズって方たちがテレビに出ているのをストレートに今までのように見られない人たちもきっといると思う。どこかでふわっと違うことを考えちゃうとか」と発言していました。おそらく、「ジャニーズのタレントを目にすると、この人も性被害を受けたのではないかという想像がよぎる」という意味のことだと思うのですが、もしそうだとしたら、かなりの問題発言だと言わざるを得ないと思います。被害を受けたのは性に対する知識がほとんどない子どもで、仮にあったとしても、デビューというエサをぶらさげられているのでイヤとは言えず、周りの大人も助けてくれない、親御さんにも話せないというアリ地獄にいたわけです。
どうすることも出来なかった子どもに対して、「この人も性被害にあったのかもしれないと言う目で見てしまう」と言えるのだとしたら、セカンドレイプと言われても仕方がないと思います。
9月2日の会見でも、東山に対して「あなたも性被害にあったのか?」と質問した女性記者がいましたが、彼女の質問は「今なら、どんな質問をしてもジャニーズ側は怒らずに答えてくれる」というどさくさにまぎれた感がありますが、中村の場合、悪意がなさそうに思えるのです。
中野美奈子に送ったマウント手紙
中村と言えば、元フジテレビアナウンサーで、同期がいます。中野アナは高島彩と共に、女子アナ王国フジの黄金期の立役者として大活躍しましたが、中野の著書「ミナモトノミナモト」(幻冬舎)によると、中村は入社直後に「10年後の美奈子へ」という手紙を書いて、こっそり中野のデスクに忍ばせていたそうです。この手紙をフジテレビ退社直前の中野が見つけるのですが、内容がなかなかエグい。「22歳の美奈子は今日も元気だよ。そして大分滑舌が良くなってきたけど、まだまだかな。未来の美奈子はちゃんと濁音と鼻濁音の区別がついている!これからアナウンス人生がはじまるわけだけど、今わたしの横にいる美奈子は何も知らないで笑っています(以下略)」と婉曲に「おまえ、気づいてないかもしれないけど、下手くそだからな」と指摘している。これくらいの競争心がないと、キー局の女子アナにはなれない、仕事がもらえないのかもしれませんが、同期にすらマウントをとらないといけない世界にいるのなら、競争に敗れた人、傷つけられた人の気持ちを考えてみることは難しいでしょう。
テレビ局は自らを振り返らずに上から物を言い、タレントは人気者におもねったり、踏みつけたりする。子どもに対する人権侵害が問われているのに、芸能村は今でも「どちらか強いか、どちらかトクをするか」という、人権と反対の理論で動いているように思えてなりません。この問題のゴールは相当遠いことが予想されるのでした。
<プロフィール>
仁科友里(にしな・ゆり)
1974年生まれ。会社員を経てフリーライターに。『サイゾーウーマン』『週刊SPA!』『GINGER』『steady.』などにタレント論、女子アナ批評を寄稿。また、自身のブログ、ツイッターで婚活に悩む男女の相談に応えている。2015年に『間違いだらけの婚活にサヨナラ!』(主婦と生活社)を発表し、異例の女性向け婚活本として話題に。好きな言葉は「勝てば官軍、負ければ賊軍」