「濡れ衣を着せられ、不当逮捕されたせいで、もう生活はめちゃくちゃですよ。なんでこんな目に遭わなければいけないのか……」
山口健さん(旧姓は星野、44)は怒りで唇を噛みしめていたーー。
2年前の2021年1月、警視庁麻布署と東京税関は、群馬県みどり市に住むデザイナーの星野健容疑者(当時42)と、妻で会社経営の星野沙姫容疑者(当時29)を覚醒剤取締法違反(営利目的輸入)の疑いで逮捕した。
突然、末端価格5億円の覚醒剤“大量密輸”で逮捕
「2人はタイから覚醒剤約8キログラムを国際便で密輸。およそ27万回分、末端価格にすると5億円相当、前例がないほどの大量密輸だった。容疑者らは以前住んでいた同県太田市のマンションにブツを送ろうとしていたようで、東京税関が発見して110番通報した」(全国紙社会部記者)
事件の発生当時、週刊女性でも容疑者の関係者を取材し、報じていた。だが、実は逮捕から2年半以上が経過したというのに、この事件は起訴にも至っていない。もちろん、2人はとっくに釈放されている。
2人は現在、群馬県外に居を移しているが、この騒動によって生活が破綻。精神障害を患ったことや将来の不安から、些細なことで口論をするようになり離婚して別々の生活に。健さんは単身、沙姫さん(32)は5歳の長女と事件後に生まれた双子の姉妹を抱えて暮らしているという。2人は名誉回復を訴えて編集部に連絡してきたのだ。まず、逮捕当時のようすを沙姫さんが語る。
「逮捕のときは、朝、警察官がいきなり20人くらい自宅に来て、怖かった。主人が警察署へ、私は前に住んでいたマンションへ連れていかれましたが、いったいなんのことやら、さっぱりわからず。もう頭の中は混乱するばかりで……」
健さんも“寝耳に水だった”と述懐する。
「まったく身に覚えのない嫌疑での逮捕だった。タイなんて、2人とも行ったことさえないですからね。わけがわからないまま22日間、拘留されて、警察、検察からそれぞれ3回ほど取り調べを受けました。私が少々パニックになったせいか、警察の取調官に腹を殴られる暴力も受けましたよ。最後に釈放されたときも謝罪の言葉はなく、“じゃあね”の一言だけで六本木あたりで放り出された。当時は群馬に住んでいて、財布も持っていなかったからどう帰ればいいのかと途方に暮れた。ひどい話でしょう」
沙姫さんは、国選弁護人からこんなアドバイスをされていたという。
「弁護士の先生からは“事件に関わっていないなら、供述をする必要はない。完黙でいいよ”と言われていたので、2人ともそうしました。警察、検察それぞれの取り調べは長くて1日1時間、短いときには15分でした」
問題の宅配便の宛名は英語だったようで、筆跡鑑定はなかったが、覚醒剤使用を疑われて尿検査は行われた。
「もちろん、2人とも陰性。家宅捜査もありました。当然ですが、潔白なので、何も出てこなかったようです。警察も検察も証拠は宅配便の宛名だけで、ほかには何もなかった。釈放されるとき、弁護士さんから“処分保留で釈放だよ”と言われました」(沙姫さん)
処分保留とは、拘留期間内に検察が起訴できなかった際に、処分を後回しにすること。後日、起訴される可能性がまったくないわけではないが、ほぼゼロに近い。つまり、誤認逮捕、不当逮捕の可能性が極めて高いのだ。
「置き配にブツ」「過去の過ち」疑われた背景
では、なぜ、あらぬ嫌疑をかけられたのか? その背景について健さんは、
「当時、アパレル会社をやっていたため、荷物が毎日のように届いていました。だから宅配便は“置き配”にしていたんです。そんな状況を知っている人物が、僕らの住所を覚醒剤の送り先に利用しようとしたのではないか」
健さん自身の過去にも問題があったと、みずから告白する。
「若いころはやんちゃで暴走族。器物損壊、傷害などで逮捕された前科がありました。薬物は誓ってやったことがないです。それらの罪はすべて償ったし、いまでも反省しています。刺青も入っているので、警察には“こいつならやりかねない”“間違いないだろう”という思い込みがあったのではないですか」(健さん)
沙姫さんは釈放された後、世間の目が怖くて、外に出られなかったという。
「人が私を指差しているように感じて……。うちにいても、家の前を人が通ると、私たちの噂をしているように感じた。そうやって、少しずつ精神を病んでいって、何度か自傷行為に及んだこともありました」(沙姫さん、以下同)
処分保留のためか、沙姫さんは銀行口座が作れない、子どもの保険にも入れない状態で、
「賃貸住宅も借りられないし、就職もできなかった。だから生きている意味が感じられなくて……」
逮捕以前は月200万円の売り上げがあったが…
逮捕されるまで、2人は健さんがデザイナー、沙姫さんが経営者としてアパレル会社を6年前に立ち上げ、生業としていた。オーダーメイドのキャップを中心に、Tシャツ、トレーナー、ネックレス、スマホケースなどは、すべて沙姫さんの手作り。
「最盛期には1個1万円以上のキャップが、月に100個以上の注文が入ったこともありました」(健さん、以下同)
その月の総売り上げは200万円近くになったことも。なぜそこまで儲かったのか。
「歌手、タレント、お笑い芸人などの有名芸能人やスポーツ選手などのSNSにDMを送って、了承を得たらキャップなど私たちの商品を無料で差し上げるんです。その代わり、商品を身につけた有名人の写真を店のHPに載せるというPR法でした」
だが、逮捕された途端、
「週刊女性の記事にもありましたが、有名人の所属事務所は“当人は帽子を送ってもらった以外はやりとりをしておりません”とか、“帽子を被った写真は勝手に使用されている”と回答していて……。まったくのでたらめ、嘘です」
手のひら返しをされたことが相当ショックだったと、沙姫さん。健さんも寂しそうにこうつぶやいた。
「人って冷たいもんですね。疑われただけで、蜘蛛の巣を蹴散らしたかのように、みなさん、パッと去っていくんですから」
現状は年間で帽子の注文が数個しか入らない状態。
「会社を起業する際、銀行から多額の借金もしている。3人の幼子を抱えていて私は働けないし、もう、生活がままならない」(沙姫さん)
二人は現在、蓄えていた貯金を切り崩し、細々と生活しているが、
「もう限界です。私は人に雇われて働いたことがほとんどなくて……。雇われて働こうかとも思ったんですが、逮捕以降、体調がずっと悪くて、睡眠導入剤などが手離せないんです。だからなかなかやる気も出なかった」
“容疑者の子ども”のままでは生きていけない
沙姫さんは涙ながらにこう訴えた。
「私たちが逮捕されたあと、長女は保育園でいじめを受けました。娘が不憫でなりません。お金の面ももちろんですが、3人の子どもたちが一生、“容疑者の子ども”のままでは……。生きていけません」
逮捕によって人生が暗転した元夫婦は、いまだ処分保留という生殺しの状態が続いている――。