「年齢を重ねると、親の介護や子どもとのトラブル、夫婦間の問題など、さまざまな事情が積み重なってくるわけで……。そんな“今”だからこそ、若いころよりも映画への理解が深まったり、感じられるものがあると思います」
と、映画コメンテーターの有村昆さん。ご本人も2年前のスキャンダル、離婚で大きな挫折を味わい、映画の見方がさらに変わったそう。
“映画”は人生の教科書、生きるヒントが得られる
「当時、離婚して活動自粛にもなって落ち込んでいるときに『アバウト・タイム』というタイムスリップの映画を見て感銘を受けましてね。あの時僕は、こうしていれば、ああしていればと後悔ばかりしていたわけです。
でも、過去に戻りたい、やり直したいと思い続けるより、現実を受け止めた上で1秒先の未来を変えるほうがいい。その権利は誰もが持っている。そう、背中を押してもらえました」
昔見た映画を見直すと、また違う魅力に気づくことも。
「僕が人生で最も影響を受けた『バック・トゥ・ザ・フューチャー』は、親になるとより面白さが伝わる作品。
これもタイムスリップする映画ですが、息子目線、親目線と見る立場で見方が変わってくる。台本も本当に素晴らしいので、昔見たという人も、改めて見るとまた面白い発見があると思います」
さらに、50年以上も前の名作『ベニスに死す』も。
「作曲家のおじさんが美少年に恋をする元祖BL作品です。映像と行間で読ませる作品なので、秋の夜長にじっくり見るのにぴったり。LGBTが注目を浴びる今、一度見ている人もまだ見ていない人もぜひご覧ください」
映画選びに迷ったときは、最新の映画やレビュー数の多い映画をリコメンド。
「みんなが面白いという作品は、意外と心に残らなかったりします。レビューが高評価だけでなく、荒れてもいるけれどレビュー数自体がとても多い、そんな賛否両論ある作品は複雑味があって後味強烈。オトナ世代にはチャレンジしてみてほしいです」
早速、必見作品をご紹介!
『バック・トゥ・ザ・フューチャー』
親目線で見ると新しい発見が!
『ベニスに死す』
LGBT問題提起作品!こちらは純愛です。
いくつになってもトキメキは大事!ひとりで見たい♪ラブロマンス系
『きみに読む物語』
究極の純愛を貫き認知症に向き合う。
実話から生まれた一途な思いを描いたラブストーリー。
認知症を患い療養生活を送る老婦人の元に、足しげく通う老人が物語を読み聞かせる。それは、1940年アメリカ南部の田舎町が舞台の物語。
休暇を過ごしに都会からやって来た17歳の令嬢・アリー(レイチェル・マクアダムス)は、地元の製材所で働く青年ノア(ライアン・ゴズリング)と出会い、恋に落ちる。
けれど、身分の違いから将来を案じるアリーの両親の猛反対を受け、都会へ連れ戻されてしまう。ノアは365日手紙を書くものの、1通の返信もこない。やがて、第2次世界大戦が始まり……。
《ありこん'sボイス》
物語を読み聞かせることで記憶がよみがえる瞬間を通じて純愛の美しさを描いた感動的な作品。純愛とは何か、また認知症患者への接し方についても考えさせられます。
親の介護で認知症を目の当たりにしている人や、自身の終活を考えている人など、人生の終わりが見えてきたとき、心に響くのではないでしょうか。
『マディソン郡の橋』
年齢を重ねた今こそ見逃せない!切なくも美しい大人の恋愛
アイオワ州マディソン郡に屋根つき橋の写真を撮りに訪れたカメラマンのロバート(クリント・イーストウッド)と、そこに住む平凡な主婦フランチェスカ(メリル・ストリープ)。
ふたりは出会った瞬間、ごく自然に恋に落ち、わずかな時間の中で完璧なまでに愛を確かめ合う。家族を捨てて彼と新しい人生を築くのか、それとも彼と別れて今までどおりの生活に戻るのか……。
女性にとって究極の選択を迫られる大人のラブストーリー。
《ありこん'sボイス》
中年男女の不倫の恋を描いた作品。“不倫は悪”というのは、僕自身、身をもって言えます(苦笑)。
ただ、子どもたちの手が離れた中年女性が、突然訪れた恋によって女性としての喜びやときめきを感じる瞬間を好意的に描いた作品なので、共感する人も多いかも。
不倫ものなら『失楽園』より万人受けがいいのでは。
映画って深いよね!語り合いたくなるヒューマン系
『コーダ あいのうた』
時にややこしい家族愛をユーモアを交えて描いた感動作
海辺の町で暮らす高校生のルビー(エミリア・ジョーンズ)。両親と兄の4人家族の中で唯一耳が聴こえるため、幼いころから家族の“通訳係”として、家業の漁業の手伝いをして過ごしていた。
新学期が始まり、ひそかに憧れていたクラスメートのマイルズ(フェルディア・ウォルシュ=ピーロ)と同じ合唱クラブに入部すると、顧問の先生がルビーの歌の才能に気づき、都会の名門音楽大学の受験を強くすすめる。
しかし、彼女の歌声を聴くことができない両親は、娘の才能を信じられず大反対。夢を諦め家族を選んだルビーだが、意外な方法で父が娘の才能に触れ、思いもよらない決断をする。
《ありこん'sボイス》
ろうの家族を描いたこの作品は、親子関係がテーマ。読者の方でも、子どもの将来を応援したいけど、親としては不安、という状況の人もいると思うので、そんな方にもぜひ見てほしいです。
登場人物が全員魅力的で、それぞれの思いや愛情に号泣必至! 劇中で流れる音楽も素晴らしい!
『母なる証明』
親として何が正しいのかを考えさせられる社会的問題作!
漢方薬店で働きながら一人息子のトジュン(ウォンビン)と暮らす母(キム・ヘジャ)。息子には知的障害があり、難しい話は理解できなかった。
ある日、2人が住む静かな町で凄惨な殺人事件が起き、1人の女子高生が無惨な姿で発見される。事件の第一容疑者として、トジュンの身柄が拘束された。事件の解決を急ぐ警察は形ばかりの捜査を行い、トジュンの逮捕に踏み切ろうとする。
弁護人はやる気もなく、有罪判決は避けられないかのように見えた。息子の無実を信じる母親は自ら立ち上がり、その疑惑を晴らすため、たった1人で真犯人を追って走り出すが……。
《ありこん'sボイス》
『パラサイト 半地下の家族』のポン・ジュノ監督作品で、無償の愛とは、正義とは一体何なのか?ということを深く考えさせられる映画。
見たあと、ずしんと胸が重くなります。韓国映画ならではのエグいシーンと、手に汗握るスリリングな展開も見どころ。
韓国映画史に残る名作。
甘くかわいいだけじゃない!大人のファンタジー映画
『シェイプ・オブ・ウォーター』
種族を超えたラブストーリー多様性や差別を考えさせられる。
1960年代の冷戦時代のアメリカ。政府の極秘研究所で清掃員として働くイライザ(サリー・ホーキンス)は孤独な生活を送っていた。
ある日、施設に運び込まれた不思議な生きものを目撃する。「半魚人」とも見える異形の“彼”の奇妙だが、どこか魅惑的な姿に心を奪われたイライザは、こっそり会いに行くように。
幼少期のトラウマで声が出せないイライザだったが、“彼”とのコミュニケーションに言葉は不要で、2人は少しずつ心を通わせていく。そんな矢先、“彼”が実験の犠牲になると知ったイライザは、施設から助け出そうと作戦を立てる。
《ありこん'sボイス》
大人向けのダーク・ファンタジーとして楽しめる映画。ギレルモ・デル・トロ監督は天才だと思います。
王道のプリンセス映画のように魔法がとけて怪獣が王子様になることはありません。
怪獣は怪獣のままを描くことで、異なる種族同士の愛、多様性、マイノリティーのことを考えられるようなつくりになっています。
『バービー』
バービーが教えてくれる完璧よりも大切なものとは?
すべてが完璧で夢のような毎日が続くバービーランド。バービー(マーゴット・ロビー)とボーイフレンドのケン(ライアン・ゴズリング)は、連日パーティーやドライブ、サーフィンをして暮らしていた。
しかし、ある日完璧なはずの世界に異変が発生。バービーは原因を探るために人間の世界へ旅立つ。ロサンゼルスにたどり着いた2人が目にしたのは、完璧とはほど遠い人間の世界。
人間たちから好奇の目にさらされたうえ、女の子たちには「バービーは卒業した」と言われる始末。バービーを生み出したマテル社のCEOにまで追われることになった2人は大騒動に巻き込まれていく。
《ありこん'sボイス》
公開前に原爆コラージュ画像問題で炎上していましたが、本編はまったく関係なく、女性の地位向上やフェミニズムを描いた作品。
毎日楽しいだけのバービーランドと、男社会の現実世界の対比が面白く、実際の世の中ってどうなんだろう?と、考えさせられる作品。
コメディー要素もあるので家族で見るのもよし。
何も考えずにのめり込む!スマッシュヒットアクションSF映画
『インセプション』
何度見ても面白い!潜在意識を映像化した傑作。
企業スパイのドム・コブ(レオナルド・ディカプリオ)は夢の中で潜在意識から秘密を盗み出すスペシャリスト。
その特異な能力は産業スパイが暗躍する世界で重宝される一方、そのために最愛の者を失い、国際指名手配の身に。そんな彼に失った人生を取り戻すチャンスが。
それには「インセプション」と呼ばれる、盗むのではなく、ある考えを植えつけるという最高難度な任務を成功させる必要があった。しかし、ミッション中に思いもよらない強敵が現れて……。
《ありこん'sボイス》
鬼才クリストファー・ノーランの最高傑作。人の夢の中に潜入しアイデアを盗むという、物理的に難しい話を、視覚的にビジュアル化させたところが見事!
現実かと思ったら急に街が上下逆さまになったりと、イマジネーションがくすぐられ、脳内リフレッシュしたいときにぴったり。
『第9地区』
難民エイリアンと人間の共存。社会風刺を融合したSF傑作。
1982年、南アフリカ共和国のヨハネスブルク上空に突如現れた巨大宇宙船。その中から現れたエイリアンたちは征服者としてではなく難民としてやって来た。
超国家機関MNUの監視下で隔離地区“第9地区”に収容されるが、それから28年後、そこはすっかりスラム化してしまい、地域住民の不満は限界に達してしまう。そこで、MNUはエイリアンたちを新たな難民キャンプ“第10区”に強制移住させようと計画する。
MNUの立ち退き交渉責任者に抜擢されたヴィカス(シャールト・コプリー)は立ち退き作業中に謎の液体を浴び、徐々にエイリアンの姿に変化してしまう。
《ありこん'sボイス》
ツッコミどころ満載のエイリアン映画。
南アフリカ出身の監督が、アパルトヘイトの歴史を宇宙人隔離政策に置き換えた皮肉たっぷりのユーモア×SFの異色の組み合わせ。
重いテーマながらも、毒っ気のある面白さを感じられるので、大人になって見るとさらに味わい深く感じる作品。
(取材・文/鈴木恵理子)