ファン待望の恋愛映画に主演の二宮和也(40)撮影/廣瀬靖士

「(監督の)タカハタ(秀太)さんが“こういう作品をやりたいんだ”とおっしゃっていて、恋愛作品やるんだ、へぇ~珍しいと思いながら“いいんじゃない”とお伝えをしたんです。そうしたら“一緒にやりたいんだけど”って。“そうなんだ……、俺と?”って驚いて。僕はこれまであまり恋愛モノといわれる作品をやらなかったので」

ビートたけし書き下ろし『アナログ』を二宮和也が演じる

 ビートたけしが70歳にして初めて書き下ろした同名の恋愛小説を映画化した『アナログ』。主人公のデザイナー・水島悟を二宮和也が演じる。

 内装デザインを担当した喫茶店「ピアノ」で、携帯電話を持たないみゆき(波瑠)と偶然出会う悟。毎週木曜日に喫茶店で会う約束をし、デートを重ねていくふたり。しかし、ある約束の日を境にみゆきは悟の前から姿を消してしまう。

「これまで、あまり恋愛作品に出演してこなかったので“新鮮だった”というのがいちばんの印象でした。恋愛作品を好きな方にとって“これは見たい!”というお約束のようなシーンがいくつかあると思うんです。

 そういう場面をしっかり盛り込んでいないと、物足りないと思われてしまうかもしれない。ただ、作品全体を見たときにこの場面は必要なのか、そうじゃないのかを探ることも必要で。“違う作品で表現したほうがよかったんじゃないのか”とならないようなあんばいを探る作業が多かったかなと思います」

アドリブから生まれる俳優の“素”の顔

 タカハタ監督とは、二宮とビートたけしが主演したTBS年末ドラマスペシャル『赤めだか』('15年)以来のタッグとなった。

「僕は比較的、その場で、ああしよう、こうしようと話をしていくことが多いのですが、監督はちゃんと対応してくださるんです。僕だけではなくて、出演者みんな同じだと思いますが、(俳優を)信頼して自分たちの表現を自由にやらせてくれる。撮影が半分か3分の2くらい終わった段階で、監督は編集を始めていて。まだ、撮り終わっていないのに“4時間になっちゃった”って(苦笑)。できるならカットせずに使いたいという心情の人。前編・後編みたいな話をしてるから、それは、ダメだよねって話したりして(笑)」

 出演者と監督の信頼関係は、悟とみゆき、悟と親友たち(桐谷健太、浜野謙太)のシーンなど、作品の随所から感じることができる。

「タカハタさん、アドリブが好きな人なので、(演者が)ずっとアドリブで話しているシーンもありましたね。あと、その日の流れをすごく重視する方なので、撮影が乗ってくると“あのシーン撮っちゃおうか”となる。みんな驚くんです。スタッフも焦っちゃって。

 それでも、監督の人間力というかカリスマ性なんですかね“なんだよ”みたいな声はあがらなかった。みんなが監督の求めるものに近づいていきたいと思っていました

 悟とみゆきのデートシーンの撮影でもアドリブ好きな監督らしさが際立っていたと語る。

タカハタさんがイメージしていたシーンを撮り終えると、“ここから自由にどうぞ”と言われるんです。なので、台本からひとひねりして演じてみる。怖いですよ、仕上がりを見るのが。どこまで打率が良かったのか(監督の期待に応えられていたのか)ってことになってくるので。そういう遊び心があるんですよね。

 衝撃的だったのは、悟とみゆきが蕎麦を打つデートシーン。蕎麦粉からこねて、のばして、切って、食べる。すべての工程を撮り続けたんです。僕、途中でカメラの記録カードがいっぱいになって新しいものに替えるって、映画で初めて経験しました(笑)

 こんなに長い時間カメラを回し続けてどうするんだろうと疑問に思いながらも、面白かったと撮影を振り返る。

「監督は、悟とみゆきを撮りながら、一瞬垣間見える波瑠ちゃんや二宮が出てきたときにすごく喜ぶ人。これは狙いではなかったはずですが、みゆきのほうが蕎麦打ちが上手で、悟が“てへっ”となるパターンかと思いきや、波瑠ちゃんより僕のほうがうまかった(笑)。以前、陶芸家の見習いの役を演じたことがあるのですが、その陶芸に通じるものがあったんですよ。また、これが奇跡的にキャラクターのパーソナルな部分とリンクして。手作り模型や手描きのイラスト、手作業のぬくもりが好きな悟とつながっていったんです」

 デート中に悟が紙コップを使って糸電話を作るシーンがある。少し強い風が吹く海辺で“糸電話”で会話をするふたり。

「あの場面がラストシーンにつながっていくんですよね。撮りながら思ったんですけど、いまの若い世代、例えば10代の人たちって糸電話を見てどう思うのかなって。僕と同年代の人は、懐かしいと感じる人が多いはず。もしかしたら、2~3年前にやっていたという人もいるかもしれない。

 僕自身は、久しぶりに糸電話をしました。前回がいつだったかは覚えていないけれど、たぶん、“何キロ離れたら聞こえなくなるのか”みたいな番組のロケでやったんだと思うんですよ(笑)。だから、ロマンチックな感じはなかった。でも、糸電話って、なんかいいですよね」

デジタルとアナログどちらも必要な理由

 デジタルであふれている現代だからこそ、アナログなものを改めて見つめ直したいと思わせてくれる作品。二宮自身に“アナログ”へのこだわりがあるかを聞くと、

お皿かな。機械で作ったものが悪いということではないですが。陶芸を教えてもらった先生に“人生の中でこれは誰にもマネできない、俺しか作ることができないと思う1つの皿を作ることは実は誰にでもできる。でも、手に取る人が『これ!』と思う、重ねて保管のできる同じような4~5枚の皿を作れるようになってからが一人前”と言われたんです。

 地味だけど、面白くないんだけど、 それができないと一人前とは言えない。昔の考え方かもしれないけどねと、おっしゃったんですけど、まさにお芝居もそうだなと思って。誰もやったことのないような表現、例えば、発狂して泣いて、みたいな演技よりも、ふつうに座って、ごはんを食べて、友達と話すみたいな、一見すると地味で、達成感を感じにくいかもしれないことのほうが難しい。

 ただ、どっちも必要なんだと思うんです。デジタルが進化すればするほど、そうじゃないほうを見つめ直すきっかけになる。進歩に嘆いたりせず、認めた上で、手を握ることがうれしいというアナログなものへの感情があることも忘れないでいたいです

A型の特徴が発揮された蕎麦打ち

 教えてくださった先生から手つきがいいと褒めていただけて。陶芸と似た感じだったので「懐かしい」とか言いながら打っていました。血液型がA型なので、切るときもとにかく細く切る主義。波瑠ちゃんから「わたしのほうが下手みたい」って言われたりして。食べましたよ、自分で打った蕎麦。僕と波瑠ちゃんの打った蕎麦の残った分は監督にプレゼントして持って帰ってもらいました。

『アナログ』10月6日(金)公開

ヘアメイク/竹内美徳・スタイリスト/福田春美