ガーシーこと、東谷義和被告が保釈された。弁護人によれば、
「配信やSNSなどについてはタッチをしないというのが、判決までの間の公的なルールとして定められています」
とのこと。ガーシー騒動もひと区切りになりそうだ。
その発端は、昨年2月。滞在先のドバイで動画チャンネルを開設し、芸能人の暴露ネタを配信し始めた。いわば、彗星のように、いや、ブラックホールのような不気味な存在感で、他人のスキャンダルを武器に巨大化していったわけだ。
「一生かけて反省」
それはひとりで文春砲をやっているようにも映り、ダークヒーロー的に面白がる人も。おかげで、7月の衆議院選挙に「NHK党」から出馬すると、当選を果たした。
が、もともと詐欺容疑で警察からマークされており、「帰国すれば逮捕されるおそれがある」として国会を欠席。それが半年以上続いたことから、今年3月、国会議員を除名された。その直後、芸能人への常習的脅迫などの容疑で逮捕状が出され、国際手配を経て、6月に逮捕。9月19日に行われた初公判では、
「一生かけて反省し、謝罪を続け、罪を償っていくつもりです」
と、激やせした姿で謝罪した。というのが騒動のあらましだが、そのあいだ、肩書は目まぐるしく変わった。ユーチューバーから国会議員、容疑者、被告。一方、ネタにされた芸能人のひとり、綾野剛の胸中も、初公判の中で明らかにされた。
「東谷という存在自体が恐怖だった。CMを打ち切られたり、冷たい目で見られたり、つらい思いをし、精神が崩壊する寸前でした」
という供述調書の一部が紹介されたのだ。
「オカンは勘弁してください」
なお、ガーシーのような暴露芸は基本、長続きしない。
かつて『芸能界 本日モ反省ノ色ナシ』(1985年)を皮切りに3冊の暴露本を出したダン池田もそうだった。『NHK紅白歌合戦』でもおなじみの人気指揮者だったが、ベストセラーで得た大金と引き換えに仕事を失うハメに。
こういう暴露芸はネタの濃さもインパクトも、最初がピークで、あとは枯渇していく。綾野が「人を信頼する気持ちをズタズタにされた」とも語っているように、暴露が一種の裏切りである以上、協力者もなかなか現れず、たとえ現れてもちょっとタチが悪かったりする。
その枯渇を補おうと、表現方法が過激になるのもよくあるパターンだ。ガーシーも“論破王”のひろゆきに対し、
「俺と違って奥さんいるからね。アキレス腱あるからあいつは。そこ攻められたらあいつは終わってまうから絶対に」
という攻め方をした。ところが、逮捕前、警察が自分の実家を家宅捜索した際には、
「ホンマにもう、うちのオカンは勘弁してください。関係ないでしょ。頼むからオカンは勘弁してくださいよ。本当に」
と、泣きながら訴える動画を投稿。相手の身内を攻めながら自分の身内は守ろうとする矛盾をひろゆきに突かれ、多くの人から「ブーメラン」だと指摘されてしまった。
それに、暴露ネタをスルーすることでほぼ無傷だった人もいる。結局のところ、暴露芸は負け組がするイメージが強く、そこから勝ち組になった人もいないのだ。
そもそも、暴露が面白がられるのは、その対象が人気者である場合のみ。また、暴露に至る心理の根っこには、売れた人への嫉妬もある。芸能人なら暴露するよりされる側であれ、というのが、ガーシー騒動という現代の寓話が示す教訓かもしれない。
ほうせん・かおる アイドル、二次元、流行歌、ダイエットなど、さまざまなジャンルをテーマに執筆。著書に『平成「一発屋」見聞録』(言視舎)『平成の死 追悼は生きる糧』(KKベストセラーズ)。